33 計画 セレシアside
皇宮から少し離れた離宮にて。
伯爵家の私生児から第三皇妃となったセレシアは、遠くに見える光を部屋の窓からじっと眺めていた。
「そういえば今日は、皇家主催のパーティーが開かれているんだったわね……」
セレシアは皇妃となってからというもの、公式行事には一度も参加したことがない。
そのため、彼女は皇帝や人々から忘れ去られた皇妃となっていた。
彼女はただ、じっとパーティーホールから溢れ出る光を見つめていた。
去年もこの日は離宮に引きこもっていた。
「陛下の皇妃になってから六年か……私も歳をとったわね」
セレシアは今年で二十八歳だ。
結婚適齢期はとうにすぎていたが、それでも美貌は健在だった。
部屋で一人物思いに耽っていた彼女に、侍女が声をかけた。
「第三皇妃殿下、皇太子殿下がいらっしゃっています」
「……皇太子が?」
通してちょうだいと静かな声で言うと、侍女は一礼して下がって行った。
侍女と入れ替わるようにして彼女の部屋に入ってきたのは、帝国の皇太子イザークだった。
パーティーが終わったあとすぐにここへ来たのか、正装のままだった。
彼はセレシアを見ると笑みを深めた。
「元気にしていたか?」
「……ええ、おかげさまで」
帝国の皇太子を前に、彼女は挨拶すらせず突っ立ったままだった。本来なら無礼な行為であるが、彼は何故かそれを咎めなかった。
二人は部屋にあるソファに向かい合って座った。
先に口を開いたのはイザークだった。
「今日、お前の昔の恋人に会った」
「……アロイスに?」
アロイスは、セレシアが皇帝の側室になるまで付き合っていた男だ。
公爵家の嫡男だった彼は、セレシアを深く愛し、心から大切にした。
昔の恋人の名に、彼女は複雑な表情を見せた。
「アロイスは……元気にしていましたか?」
「そうだな……まぁ、何とかやっていっているみたいだ」
「そうですか」
その返答に、セレシアは何とも言えない顔になった。
彼は未だに自分を愛していると、ずっとそう思っていた。
――いや、そういう風にしたはずだった。
イザークはそんなセレシアをじっと見つめていた。
「……まだあの男に未練があるのか」
「……いえ、そういうわけではありません」
セレシアは首を横に振った。
(……陛下の側室としてここへ来たときから過去は全て清算したんだから)
彼に対する未練はもうない……と言いたいが、心から大切にされたあの日を思い浮かべると、心に迷いが生まれた。
「セレシア、わかっているんだろうな?――俺たちの計画は絶対に失敗してはならない」
「……わかっています、殿下」
セレシアは険しい目でこちらを見つめる皇太子に頷いた。




