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他に愛する人のいる彼の元を去ったら、何故か彼が追いかけてきます  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)


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28/51

28 皇家主催のパーティー

時は流れ、皇家のパーティーが開催される日となった。

フィオナはセレナイト公爵邸でパーティーの準備をしていた。



「まぁ、フィオナ、とっても似合っているわ!」

「あぁ、今日のお前は世界で一番綺麗だよ」



今日の彼女はマダムマリーのブティックで購入した黄色のドレスに身を包み、珍しく長い髪の毛を後ろで一つにまとめていた。



(自分で言うのも何だけど……たしかにいつもより綺麗に見えるわね)



前世の彼女はあまり見た目に関心が無かった。

もちろん、愛する彼に美しく見られたいという思いがないわけではなかった。

しかし、着飾ったところでアロイスは彼女の変化なんて気にも留めなかった。



そのため三十を超えてからは服や装飾品を買うことなんてほとんどなくなった。

フィオナは自分を褒めちぎる両親に笑いかけた。



「ありがとう、お父さん、お母さん」

「ほら、キース。あなたも何か言ってやりなさい」



フィオナは両親の横に立っていたキースに視線を向けた。

突然振られたキースはビクッと肩を上げたあと、照れ臭そうにフィオナから視線を逸らした。



「……まぁ、似合ってると思うぞ」

「ありがとう、お兄様!」



兄に褒められるのは初めてかもしれない。

いつもは毒づいてばかりの兄だけれど、何だかんだ家族思いで優しいのだ。



素直になれない兄を、両親がからかった。

部屋では仲の良い家族の和やかな時間が流れていた。



「それより、彼はまだかしら?」

「もうすぐ着くと思うぞ」



ちょうど両親がそんなことを口にし始めたそのとき、一家が集っていた部屋の扉がノックされた。



「――失礼します」



顔を出したのは家の執事だった。

噂をすれば。彼が着いたようだ。



「お嬢様、リリアーン侯爵令息が到着したそうです」

「すぐに行くわ」



フィオナは膨らんだドレスの裾を持ち、部屋を出て行った。

階段を降りると、エントランスにカイルが立っているのが見えた。



前と違って正装姿の彼は、舞踏会用に髪の毛をガッチリと固めていた。

彼女は彼に駆け寄った。



「リリアーン侯爵令息!」

「……セレナイト嬢」



手袋を嵌め直していた彼がフィオナの声に振り返った。



「迎えに来てくれるだなんて、ありがとうございます」

「私たちは婚約する身ですから、当然のことです」

「それもそうですね」



そこまで言うと、彼がフィオナのドレス姿を上から下までじっくりと眺めた。



「今日のセレナイト令嬢は……いつにも増してお美しいですね」

「あ、ありがとうございます……」



フィオナは思わず顔を赤くした。



家族に褒められたときとは違って、彼女は何だか照れ臭くなった。

フィオナはアロイス以外の男と深く関わったことがなかった。

唯一の男友達であるアロイスともそのような関係ではない。

そのため、前世含めて彼女の男性経験はゼロだ。



(私ったら、本当にこういうのに免疫が無いのね……)



真っ赤になるフィオナに、カイルはコホンと咳払いをした。

そして、白い手袋をはめた綺麗な手を彼女に差し出した。



「行きましょう、セレナイト嬢」

「ええ、舞踏会が始まりますわ」



彼の差し出した手を、フィオナが取った。

二人はそのまま馬車に乗り、皇宮へと向かった。



***



数十分馬車に揺られ、皇宮へと到着した。

目の前に広がる大きな宮殿。オルタナ帝国の皇帝陛下を始めとした皇族たちが住んでいる国の中枢。



(いつ見ても豪華ね……)



フィオナは前世でアロイスが病気がちになってからというもの、皇宮へは一度も来たことがない。

看病するため、常に彼の傍に寄り添っていたからだ。



「……皇宮なんて久々だわ」

「……一ヵ月前にフェンダル公爵閣下と共に登城したと聞きましたが」

「あ、いや、そうでした」



私ったら忘れてましたわ、オホホホとフィオナは慌てて誤魔化した。

ポロッと失言してしまうのは彼女の悪い癖だ。



馬車から下りたフィオナに、カイルが手を差し伸べた。



「ありがとうございます、侯爵令息」



アロイスは彼女にこのような気遣いを見せたことが無かったせいか、何だか慣れない。

カイルの手はアロイスほど大きくはなく、剣を握り続けているせいかタコができていた。



彼に手を引かれてパーティーホールまでの道のりを歩いていると、隣にいたカイルが前を向いたまま口を開いた。



「ところで、お互いの呼び方をそろそろ変えませんか?」

「あ……たしかに……」



カイルに言われてフィオナはようやく気が付いた。

近いうちに婚約する身だというのに、いつまでも家名で呼び合っているのは不自然だ。



「フィオナ――とお呼びしてもよろしいですか?」

「ええ、もちろん。では私はカイルと呼びますね」



カイルは無言で頷いた。

二人の距離がほんの少しだけ縮まった瞬間だった。



フィオナはアロイスを、カイルは前の婚約者を。

二人は長い間一人の人物に熱烈な想いを寄せていた。

しかし、報われることはなかった。



他の人にはない、そのような共通点がお互いの心を惹き合った。



「会場に到着したようです、フィオナ」

「あら、もうすぐパーティーが始まるようですね、カイル」



外が暗くなり始めていたちょうどその頃、皇宮のすぐ傍に位置しているパーティーホールからは光が漏れていた。



「よろしくお願いしますね、カイル」

「こちらこそ、フィオナにとって楽しい会になりますように」



扉の前で待機していた二人は光の中へ、足を踏み入れた。




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