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他に愛する人のいる彼の元を去ったら、何故か彼が追いかけてきます  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)


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27/51

27 変化

呆然と立ち尽くすフィオナに、彼女の様子を見つめていた老人が声をかけた。



「どうかしたか?何か気になる本でも?」

「い、いえ……何でもないんです……」



フィオナは平然を装って書物を読み進めた。

セレシアという名前のヒロインと、アロイスという名前のヒーロー。

挿絵に描かれている二人の外見は、フィオナのよく知るあの二人にそっくりだった。



(偶然にしてはあまりにも……)



それだけではない。

物語の中盤、セレシアが皇帝に一目惚れされ、望まぬ形で側室にされてしまう。

皇帝に連れて行かれてしまったセレシアを前に、アロイスは何もできず彼女を遠くから想い続けるというところまで。

あの二人が置かれた境遇と全てが一致していた。



フィオナは夢中でページをめくった。

しかし、結末までは知ることができなかった。



(あれ……?ここまでしかない……)



エピローグに続く最終章のページは何者かによって破られた跡があった。

そのせいでフィオナは、エピローグだけは読むことができなかった。



彼女は諦めて本をパタンと閉じ、元あった本棚に戻した。



(何だか気分が悪くなったわ……)



主役がアロイスとセレシアで、自分が悪役だなんて。

一体私が何をしたというのか。

ただ愛する女性を失って疲弊していたアロイスを支え続けただけではないか。



不満を抑えきれないまま店を出ようとしたフィオナに、老人が尋ねた。



「もういいのか?」

「はい、今日は少し気分が優れないので……そろそろ帰ることにします」

「そうか」



老人は引き留めることもなく、フィオナを見送った。

彼女はそんな老人を振り返った。

細められた鋭い瞳と、視線がぶつかった。



一歩前に踏み出したフィオナは、この場所を見つけてからずっと疑問に思っていたことを聞いた。



「あの……ここは一体何なんですか?」

「……」



老人は答えなかった。

彼は息を吐いて立ち上がると、そのままフィオナを無視して店の奥へ入って行く。



(聞いてはいけないことを聞いてしまったかしら……)



フィオナは不安になりながらもその小さな後ろ姿を見つめていると、突然老人が振り返った。



「……君は、他の人間たちは違うようだな」

「…………どういう、意味でしょうか?」



フィオナは彼の言っていることの意味がわからなかった。

私が他の人間たちとは違う?



(私がただの平民ではなく、公爵家の令嬢だということに気付いたのかしら……)



フィオナは老人と目を合わせると、ニッコリ笑った。



「お爺さん、私も普通の人間ですよ」

「何だって?」



彼が眉をピクリと上げた。

フィオナの発言が意外だったようだ。



「恥ずかしながら、私も以前まではそのような考えを持っていました。でも違うということに気が付いたんです。平民も貴族も。みんな同じ人間なんです」



フィオナは、前世でアロイスが亡くなったあとのことを思い浮かべた。

四十を過ぎた彼女は、今さら結婚なんて望める立場ではなかった。



家族の元にも帰れず、社交界でもありとあらゆる噂を立てられて爪弾きにされる日々。

結局フィオナはこれ以上貴族として生きることは出来ないと考え、平民として郊外に移り住んだ。

元貴族だった彼女を、元々いた住民たちは深く関わろうとはせず、ただ遠くから眺めていた。



しかし彼女が病気で寝込んでいたとき、一部の人が医者を呼んでくれたり、食料を届けてくれた。

その優しさを、フィオナは今でも忘れられなかった。

最後は誰からも顧みられることなく一人で死んでいったけれど、久しぶりに誰かに優しくされた彼女の目からは涙が溢れた。



平民にも貴族にも、良い人もいれば、悪い人もいる。

フィオナは遅ればせながらそのことに気付いたのだ。



「……そろそろ帰りますね。今日はありがとうございました、お爺さん」

「……」



老人は何も言わずにフィオナを見つめていた。

彼女は一礼すると、今度こそ扉から外へ出た。



「――お嬢様!!!」

「あら?あなた……」



外へ出た瞬間、突然目の前に付き添いの騎士が現れた。



「もう、どこへ行ってたんですか!突然一人で走って行かれるから、心配していたんですよ!旦那様や奥様に知られたら私がどうなるか……」

「ご、ごめん……でも、書店を見つけたから……」



そう言いながら、フィオナはたった今フィオナが出てきた小屋を指さした。

そんな彼女に、騎士は首をかしげた。



「書店?そんなものがどこにあるっていうんですか?」

「え……?」



驚いて振り返ったフィオナは、思わず目を見張った。



(ど、どうして何も無くなっているの……!?)



ついさっきまでそこにあった古びた小屋が、跡形もなく消えていたのだ。

たしかにここにあったはず。フィオナは書店が位置していた場所を歩き回った。



「お嬢様、私に迷惑をかけたうえに嘘までつくんですか?」

「ち、違うのよ……さっきまではたしかに……」



再び歩き出そうとするフィオナの腕を、騎士が掴んだ。



「お嬢様、今日はもう帰りましょう」

「ええ!?まだ来たばっかりよ!?」



フィオナは猛抗議したが、彼の意思は揺らがなかった。



「危ない行動を取ったので今日はここまでです」

「そ、そんな……!」



彼女は騎士に引きずられながら、公爵邸へと戻った。





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