23 婚約者候補
それから数日経った頃、フィオナは四枚あった釣書のうちの一人とお茶をしていた。
「セレナイト公女はとてもお美しいですね」
「まぁ……ありがとうございます」
彼女が最初に選んだのはリリアーン侯爵家の令息カイルだった。
長男ではなく次男だが、騎士としての頭角を現していて、将来有望なようだ。
見た目もよく、フィオナより一つ上なのだという。
何故、こんなにも優良物件な彼がこの歳になっても未婚なのか。
それは彼がある事情を抱えていたからだった。
「私の前の婚約者は他に愛する人ができたようでして……一年前に婚約が破談となってしまったのです」
「そ、それは……何という……」
フィオナは思わず言葉に詰まった。
リリアーン侯爵令息カイルには、幼い頃から婚約していた令嬢がいた。
しかし、つい最近婚約破棄となった。
理由は彼女の不貞。
令息に内緒で十年以上付き合っていた秘密の恋人がいたのだという。
「まぁ、私も多忙を理由に式を延期していましたし……お互い様かもしれませんね」
カイルは切なそうに呟いた。
彼が前の婚約者を愛していたのは有名で、その溺愛っぷりは近隣諸国にまで知れ渡っていたほどだ。
(リリアーン侯爵令息は私と違って婚約までしていたんだもの……そりゃあなかなか立ち直れないわよね)
カイルの元婚約者は、半年前にその相手と結婚した。
彼との婚約を破棄してから一ヵ月で婚約を結び直し、その五か月後には籍を入れるというとんでもないことを平然とやってのけたのだ。
フィオナはカイルの気持ちが痛いほど理解できた。
同じような傷を、彼女も持っているからだろうか。
「侯爵令息、私でよければいくらでも話をお聞きしますよ」
「……ありがとうございます、令嬢」
カイルは未だに元婚約者を忘れられないようだった。
フィオナはそんな彼の姿に、以前の自分を重ねた。
(落ち込んでいる人を放っておけないのは、昔と変わっていないのね……)
フィオナにとって初めてのお見合いは、相手の元婚約者についての話で終わるという異例の展開となった。
***
「あー、楽しかった!」
「お嬢様……お相手の前の婚約者様の話がそんなに面白かったですか?」
一時間ほどで見合いは終わり、フィオナは茶会をしていた庭から公爵邸へと戻った。
「そりゃあそうよ!まるで恋愛小説を読んでいるようでとっても素敵だったわ!彼と令嬢の初めての出会いから、好きになった瞬間、胸キュンエピソードまで。思わず前のめりになって聞き入っちゃったわ」
「……理解できません」
侍女が引いたような顔をした。
「私は、お嬢様を愛してくださる方と結婚してほしいと思っています」
「ええ、私も愛に溢れた結婚がしたいわ」
「なら、リリアーン侯爵令息はお断りするべきです。未だに前の婚約者様を想っているではありませんか」
「そうね……」
フィオナは部屋に備え付けられていた窓から外を眺めた。
「でもね……何だか彼とは良い関係を築いていけそうな気がするの……似たような傷を抱えているからかな……」
「お嬢様……」
カイルは前の婚約者が十年以上も浮気をしていることをまるで知らなかった。
『彼女は……最初から私のことを愛していなかったようです……婚約破棄の場では罵詈雑言を浴びせられました……彼女が好きだったのはずっとあの男だけだったのだと、そのときになって知りました』
愛する人から愛されなかったことの辛さは、フィオナもよく知っていた。
だからこそ、彼のことが気になったのだ。




