21 マダムマリーのブティック
「マダムマリーのドレスはいつ見ても本当に素敵ですね」
「まぁ……セレナイト公女様にそう言ってもらえるだなんて嬉しいですわ」
数日後、フィオナは皇宮の舞踏会に着ていくドレスを決めるためにブティックを訪れていた。
マダムマリーのブティックはフィオナの母・セレナイト公爵夫人御用達として皇都では有名だ。
普段は予約もできないほどの人気っぷりだが、フィオナは特別だった。
「お母様とマダムは昔からの知り合いなんですよね?」
「ええ、シンシア……いえ、公爵夫人とは幼い頃からの仲なんですよ」
マダムマリーとフィオナの母は幼馴染だった。
彼女は皇都でブティックを経営しているが、元々れっきとした貴族令嬢であり、今は侯爵夫人だった。
夫である侯爵とは貴族には珍しく恋愛結婚で、フィオナと変わらない年代の娘が一人いた。
「マダムも皇宮の舞踏会には参加なさるのですよね?」
「ええ、もちろん。公爵夫妻にも久々にお会いしたいですし」
「マダムがいらっしゃるなんて、お母様も喜びますわ」
フィオナは数着のドレスを試着し、その中でも気に入ったものを購入することを決めた。
「とってもお似合いですよ、公女様。公女様は本当に何を着てもお似合いになられますね」
「ありがとうございます」
「きっとフェンダル公爵閣下も公女様に惚れ直すはずですわ」
「フェ、フェンダル公爵!?」
フィオナは思わず声を上げた。
マダムマリーは未だにフィオナがアロイスに片思いしていると思っているようだ。
「あの……私、フェンダル公爵閣下とは何もありませんよ」
「まぁ、照れていらっしゃるのですね」
「いや、本当に違うんです……」
彼女がそのような反応をするのも当然だろう。
マダムマリーはフィオナの母親・シンシアから彼女とアロイスの話を聞いているはずだから。
(まぁ、どのみち私がフェンダル公爵邸を出て行ったことはすぐに広まるはずよ)
ドレスを選んだあと、フィオナは店内を見回した。
彼女はその中でも店の隅に置かれていた、青いリボンに目が留まった。
「あら、あのリボン……」
「あちらのリボンが気になっていらっしゃるようですね」
マダムマリーが声をかけた。
「いえ……友達に似合いそうだなと思って……」
フィオナはあのリボンがアイリスの淡い金髪によく似合うだろうと思った。
(アイリス様は美しい方だもの……きっとよくお似合いになるわ……)
ベルーシア侯爵令嬢アイリスはセレシアほどではないが、美しい見た目で貴族令息からの人気を集めていた。
セレシアが華やか美女ならアイリスは清楚系美女。
社交的なアイリスは友人も多く、社交界ではかなりの有名人だった。
(いいものを見つけたわ)
フィオナは香水のお返しとして、あのリボンをプレゼントするのはどうかと考えていた。
同性の友人に贈り物をするのは、フィオナにとっては初めてだった。
そもそも彼女にはアロイス以外の友人なんていなかったし。
「あのリボンもお願いします」
「はい、公女様」
マダムマリーはフィオナの選んだ青いリボンをプレゼント用の箱に丁寧に包装した。
(アイリス様ともっと仲良くなれそうだわ)
買い物を終えたフィオナは明るい気分でブティックを出た。




