20 贈り物
「フィオナ、ベルーシア侯爵令嬢から贈り物が届いているぞ」
「……私に?アイリス様から?」
茶会から数日、フィオナの元には茶会の主催者アイリスから贈り物が届いた。
ピンク色の小さな箱を開けると、中から香水が出てきた。
(あら、良い香り……)
アイリスがフィオナに贈ったのは、フローラル系の香水だった。
隣にいたキースが、フィオナが手に持つ香水を物珍しそうに眺めた。
「香水か?そういえば、ベルーシア侯爵家は香水の事業をしているんだったか」
「そうだったわね……」
中には、アイリスからの手紙が添えられていた。
『フィオナ・セレナイト公女様
この間はベルーシア侯爵家の茶会に参加していただき、ありがとうございました。
お近付きのしるしとして、令嬢にささやかな贈り物を用意しました。
またのご参加を心よりお待ちしております。
アイリス・ベルーシア』
丁寧な字で書かれたアイリスからの手紙に、フィオナはクスリと笑みをこぼした。
「お前、良い友達ができたようだな」
「友達……?」
フィオナは驚いてキースを見た。
キースは彼らしからぬ柔らかい笑みを浮かべてフィオナを見つめていた。
「……そうね、私もアロイスのことばかり気にするのはやめたのよ」
「それがいいさ、お前のためにも、アロイスのためにもな」
キースは妹の変化が嬉しいのか、微笑んだ。
フィオナは近くにいた侍女に返信用の封筒と便せんを用意するように命じた。
アイリスとは良い関係を築いていけそうだった。
彼女にとっては大きな一歩だ。
(是非また行かせていただきます……と……こんなものでいいかしら)
アイリスへの手紙を書いていたフィオナは、ふとあることを思いだした。
「そういえば、もうすぐ皇宮でパーティーが開かれるわよね?」
「ああ、そんな時期だったな」
キースは特に興味のなさそうに返事をした。
オランジュ帝国では、毎年四月に春の訪れを祝うパーティーを開いている。
年に一度、皇帝陛下、皇太子殿下を始めとした皇族が全員参加する特別な祭典だ。
当然、皇妃殿下も参加することとなるのだが――
(セレシアは去年も、その前も不参加だったわね)
第三皇妃セレシアは体調不良を理由に、毎年パーティーへの参加を拒んでいた。
フィオナの記憶では、セレシアはアロイスが四十三歳で亡くなるまでの二十四年間、一度たりとも公式行事に参加しなかった。
皇帝が死に、皇太子が即位したあともずっとだ。
そのため、皇妃になったあとのセレシアには会ったことがなかった。
「パーティーに着ていくドレスを選ばないといけないわね、装飾品も……お兄様も準備しないと!」
「俺はどうでもいい、自分の見た目に興味ないからな」
「もう、そんなんだからいつまでも結婚できないのよ!」
「なッ……余計なお世話だ!」
キースは女性に関心がなく、二十七歳になった今でも婚約者すらいない。
三十を手前に、彼は五歳年下の第四皇女との婚約を結ぶこととなる。
第四皇女は我儘で気位が高いと有名で、婚約がなかなか決まらなかった。
そんな皇帝が目を付けたのが、公爵家嫡男でありながら未婚のキースだった。
(可哀相なお兄様……)
私は絶対に性格の良い人と結婚するんだから。
フィオナは前世の兄を見てそう心に誓った。




