18 呆然
「フィオナ、話はつけてきたのか?」
「お兄様……」
部屋を出たフィオナを待っていたのは、キースを始めとした家族たちだった。
キースや両親は、アロイスと二人きりで話をしているフィオナが心配だった。
そのため、何かあったときにはすぐに駆け付けられるように外で待機していたのだ。
フィオナは泣きそうになる気持ちを必死で抑えた。
「はい、すべて終わらせてきました」
「そうか」
父親は安心したように微笑んだ。
「フィオナ、部屋に戻ってなさい。今日は疲れただろう、休んだほうがいい」
「はい、お父様」
フィオナは母親に付き添われ、自室へと戻った。
***
一方アロイスは、フィオナが部屋を出て行ってからずっと放心状態だった。
先ほどのフィオナの言葉が、彼の頭から永遠に離れなかった。
(俺は……一体何を期待していたんだろうか)
彼はフィオナが自分の元へ戻ってくると信じて疑わなかった。
いつだって優しい言葉をかけ、どんなときも彼を否定せずに包み込んでくれたのはフィオナだけだったからだ。
「アロイス」
「…………閣下」
部屋に入ってきたのはフィオナの父親・セレナイト公爵だった。
セレナイト公爵は娘のフィオナを溺愛していることで有名だった。
彼も昔は可愛がってもらっていたが、セレシアと付き合ってからはほとんど関わりがなくなっていた。
セレナイト公爵は冷たくアロイスを見下ろした。
「アロイス、もう帰りなさい。フィオナとの話は終わったはずだ」
「閣下」
「何の話をしにきたかは聞かないでおこう。私が馬車まで付き添うから」
公爵に促され、アロイスはゆっくりと立ち上がった。
彼はまだこの場所にいたかったが、公爵の目が厳しい。
「君」
「は、はい!」
セレナイト公爵に付き添われて馬車に来たアロイスを見た侍従は慌てて返事をした。
「フェンダル公爵はとても疲れが溜まっているようだ。邸でしっかり休ませたほうがいいだろう」
「はい、セレナイト公爵閣下!」
アロイスはずっと黙り込んだままだった。そんな彼を心配した侍従が声をかけた。
「閣下、大丈夫ですか?」
「……」
彼はずっと放心状態で、侍従の呼びかけにも反応しなかった。
「フィオナ……もう俺のもとには戻らないというのか……?」
「セレナイト公爵令嬢が……ですか?」
ポツリと呟かれたアロイスの言葉に、侍従は驚きを隠せなかった。
侍従はフィオナがどれだけアロイスを愛していたかをよく知っている。
いつだって一番に彼を思い、行動してきた。
だから今回もきっと、すぐに戻ってくるだろうと思っていた。
「まぁ、セレナイト令嬢とは結婚していたわけでもないですからね。彼女もやっと目が覚めたようでよかっ……ッ!」
「……」
アロイスの鋭い視線に、侍従は慌てて口を噤んだ。
彼はフィオナがアロイスの傍に居続けることを不思議に思っていた。
気持ちを返してくれるならまだしも、六年経ってもアロイスはフィオナに冷たいままだったからだ。
「じょ、冗談ですよ……閣下……」
「お前は俺に冗談を言うほど偉くなったんだな」
「……」
「しばらく一人になりたい、外へ出ていろ」
「は、はい……」
アロイスの命により、侍従はしばし外で待機することとなった。
「変だな……閣下はセレシア皇妃のことを愛していたのではなかったのか?」
彼はポツリと呟いた。
何故アロイスがフィオナが彼の元を離れたことに落ち込んでいるのか、理解できなかった。
アロイスの愛する人はフィオナではなくセレシア第三皇妃。
国中の誰もが知っていることだった。
しかし、さっきのアロイスの様子ではまるで……
「閣下がセレナイト公爵令嬢を愛しているみたいではないか……」




