106 結婚式
一ヵ月後、青空の下の大聖堂で結婚式は行われた。
真っ白なプリンセスラインのウエディングドレスに身を包んだフィオナは、アロイスの訪れを待っていた。
(婚約してから一ヵ月で結婚だなんて、ちょっと早すぎやしないかしら?)
そうは思うものの、何か言ったらアロイスが落ち込んでしまいそうで。
それに世間から見たらフィオナも立派な嫁ぎ遅れだ。人々のくだらない噂をさっさと払拭するためにも、彼女は早すぎるとも言える結婚に同意した。
しばらくすると、アロイスがフィオナの待つ控室に入ってきた。
「…………フィオナ」
「アロイス」
いつにも増して美しい彼女の姿に、アロイスは固まった。
彼もまた、フィオナに合わせるように真っ白なモーニングを着用している。
普段黒い軍服ばかり着ているからか、何だか新鮮だ。
アロイスはゆっくりと歩いてくると、フィオナの手を取って甲に口づけた。
「フィオナ、今日の君は世界で一番美しい」
「あら、ありがとう。嬉しいわ」
ニッコリと微笑むと、アロイスがフィオナに顔を近づけた。
そのまま導かれるように唇を合わせそうになってしまったが、今ここでするわけにはいかない。
誓いのキスまでお預けだ。
フィオナは何かと愛の重いアロイスを、何とか落ち着かせた。
彼は不満げな顔をしていたが、渋々お預けを受け入れた。
「行こう、フィオナ。みんなが待ってる」
「ええ、そうね」
フィオナはアロイスの手を取り、光へ続く道へと歩み始めた――
***
その後、結婚式が終わり、祝いのパーティーが開かれた。
パーティーでは、ある人物が二人を祝いに訪れた。
黒い礼服に、皇族を表す赤いマント。
彼は皇家の象徴である金色の瞳を細めて笑った。
「――結婚おめでとう、フェンダル公爵」
「殿下、ありがとうございます」
真っ先にフィオナとアロイスに祝辞を述べたのは、イザークだった。
「いやぁ、二人がこんなにも早く結婚するとはね。少し意外だったよ」
「そ、そうですね……私も驚いています」
フィオナとイザークの視線が、自然とアロイスに注がれた。
彼は何を言っているのかわからないとでも言うかのように知らんぷりでフィオナの肩を抱いた。
まるでイザークから彼女を守っているようだった。
イザークはそんなアロイスの無礼な行動に不快感を露わにすることもなく、面白そうに笑った。
「二人はとても仲が良いようだな。微笑ましいよ」
「ありがとうございます、殿下」
フィオナは少々行き過ぎなアロイスに、苦笑した。
「ところでフェンダル公爵、剣術大会の褒賞をまだ聞いていなかったな」
「そういえば……」
そこでフィオナは、剣術大会後のパーティーが事件によって中止されたことを思い出した。
本来なら二日目のパーティーの場で表彰式と共に何を褒賞として望むかを聞かれるのだが、皇帝毒殺事件という異例の事態が起きてしまった。
そのため、アロイスは未だに剣術大会の褒美をもらっていなかった。
「フェンダル公爵、一体何を望むんだ?貴殿には皇妃の一件で世話になったこともある。特別に何でも叶えてやろう」
「そうですか、それは嬉しいです」
アロイスはニッコリと笑った。
フィオナとイザークの視線がアロイスに集中した。
(アロイス……あなたは一体何を求めてあそこまで戦っていたの?)
実はフィオナですら未だに聞けていなかったことだった。
彼の欲しいものは一体何なのか。気になってはいたものの、いつまで経っても教えてくれなかった答え。
アロイスはフィオナを一瞥した後、ゆっくりと口を開いた。
「―――」
「………………え?」
待って、そんなもののために?
アロイスの答えに、イザークとフィオナはポカンと口を開けた。
***
パーティーが終わって夜になると、皇太子イザークを始めとした招待客たちが帰路につき始めた。
「皆様、今日は私たちを祝いに遠路はるばるありがとうございました」
「いえいえ、フェンダル公爵夫妻のご結婚を祝うために来るのは当然のことでございます」
主催者であるフィオナとアロイスは、最後まで会場に残り、一人一人を見送った。
イザークだけではなく、他の皇女や皇子たち、カイルやミランダ、アイリスまでもが彼女を祝いに来ていた。
「改めてご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます」
たくさんの人に囲まれ、フィオナは幸せの絶頂を感じていた。
招待客が全員会場を出た後、アロイスはフィオナに声をかけた。
「フィオナ、このあとは部屋で休むだろう?」
「え、ええ……やることが全部終わってからだけど」
その返事に、アロイスは不満そうに口を尖らせた。
今日は二人の結婚式で、このあと待っているのは初夜だった。
すぐに彼女と一緒にいれると思っていたアロイスにとって、フィオナの答えは青天の霹靂だった。
フィオナは仕方ないなと思いつつ、身体を寄せてアロイスの頬にキスをした。
「できるだけ早く戻るから、寝ずに待っててね?」
「ああ、もちろんだ」
その後、フィオナは十二時を過ぎたあたりにようやく彼の待つ部屋を訪れた。
五時間以上待たせていたにもかかわらず、アロイスはきちんと寝ることなく彼女を待っていた。
「なぜこんなに遅いんだ?」
「ちょっと立て込んじゃって……」
「まあいいか別に」
初夜に緊張してしまったフィオナがあの手この手を使って帰る時間を遅くしていたこと、当然彼は知る由もなかった。
――そしてその日の夜、フィオナは待ち望んでいた彼に抱かれた。
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