ハユリさんは最後まで笑顔で闘い続けたのです
ここは教会。
リグルド様の面会の準備で来ている。
本来、竜の血を飲んだ汚れた私が入れる訳はないのだが。
「公女様どうぞ」
規定の儀式を行い中に入る。
すると
「リグルド様」
「よく、来られました、メイル。間に合ったのは神のご加護です」
にこやかな笑みを浮かべるリグルド様がいらっしゃった。
「リグルド様、お立ちになって大丈夫ですか?楽な体制でいらしてください」
「メイル、大丈夫ですよ。あなたが来られたと聞いて、活力が戻りました。これは神のご加護でしょう」
いつも通りのにこにこ顔。
「リグルド様、お手紙にありました件」
「ええ。メイル、心残りもありますが、私はここから去り、神の元へ戻ります。その上で、我が神教には、あなたの支援が引き続き必要なのです」
「はい。リグルド様」
「エグジル大陸は全て聖姫に降りました。我が大陸も、幾つかの国は聖姫の信仰に変えています」
聖姫。始まりは小国の王女。
その膨大な魔力で、災いを止め、飢えに苦しむ土地を豊かにした。
そして、軍事力ではなく、自らを崇めるか否かで、その恩恵を変え影響力を高めた。
初代は30年で死んだが、即座に転生体が現れ、初代と同じような力を奮った。
最近も代替わりしたのだが
「あの偽りの力から、私達神教は人々を守らねばなりません。そのためには、メイル。あなたの黄金と白銀、鉄を生み出す力が必要です」
「はい。リグルド様」
「神皇様は変わらずに、教義を説きます。そして、今まで通りに、あなたには私のこの部門と連携頂きたい。私の後継はアラメルスです」
「公女様、若輩者ではありますが、何卒よろしくお願い致します」
アラメルスは頭を下げる。
「はい。わたしはリグルド様にお尽くししたように、あなたに尽くしますわ」
「メイル、本来はあなたと昔話をしたい。けれどもそれが出来ぬことを詫びさせてください」
「なにを仰いますか、リグルド様。思い出は常に胸にあります」
そう言うと
「わたくしのような者に、最期まで慈愛を注いで頂いた恩を忘れることはありません。ハユリ様とリグルド様へのご恩、この身が尽きるまで、恩返しさせて頂きます」
ハユリさんの名前を出すと、リグルド様は目を細め泣き出しそうな顔をされた。
「ハユリ…彼女は偉大でした。最後まで、力尽きるまで戦い抜いた。今、この神教がまだ力を残していられるのもハユリの貢献です」
神女になったハユリさんは、聖女との対抗として、神教の最前線で活躍した。
しかし、その苦労は凄まじく、実益を即座に見せる聖女と、成果はすぐに出せない神女という比較もあり、ハユリさんは本当に厳しい状況に追い込まれていた。
それでも、これは神から与えられた試練だ、必ず乗り越えられると信じ込み、ハユリさんは最後まで折れずに戦い抜いた。
神女就任8年、年齢28歳で亡くなったのは、どう考えても過労と心労が原因だ。
だが、ハユリさんは私と会うといつも笑顔だった。
「あなたを教導できたことが、私の信仰の誇りなのです」
亡くなる直前も
「辛い時に、いつも思い出すのですよ。あなたと共に神様のお話をしたことを。私は寄付集めには向いていないと言われていた。実際にそうだったのでしょう。でも、寄付集めをしていなかったら、あなたと会えなかった。わたしは、わたしが信じる道を歩く。それが、神様の御心に通じると信じて」
笑顔で語った。
最後まで、ハユリさんはハユリさんだった。
そしてリグルド様が語る。
「メイル、本当にお願いします。わたしへの恩など微々たるものです。しかし、それを結び付けて頂いた神への恩としてお返し頂ければ」
そして
「くれぐれもよろしくお願いします。」
リグルド様は頭を下げた。
リグルド様との面会が終わった。
街に戻り
「明日識都にいくわ。皆はここで待ってて」
「龍姫様、お連れは一人もいりませんか?」
「ええ。これから会う人にはね、誰も会わせたくないの」
なんでああなったかなぁ、ニール。
龍の血が故か
元々はああだったのか。
元々とは思いたくない。
あの人は知識の為に全てを捧げた賢者だった。
そう言うことにしておきたい
識都のど真ん中にそびえ立つ巨大な塔。
全ての知識はここに集うと呼ばれる知識の宝庫。
ここの特別顧問としてニールはいる。
今は名前を変えているが
「ハイリンケル特別顧問にお会いしたく」
入口で面会案内。
怪訝な顔をされるが、通される。
「珍しいです。ハイリンケル特別顧問は、お伝えしても通されないんですが」
「なによりですわ」
部屋の入り口につくと
「うむ…懐かしい匂いがするな。久しいですな、公女様」
「ハイリンケル様、昔のようにメイルとお呼びになればよろしいのに」
そうしたらニールと呼びますけど。
「いえ、昔は昔、今は今です」
ハイリンケル。長い白髭と、白髪。
しかし姿勢がよく、老人にしては体格が良い。
威厳のある老人という風体だが、これはフェイクである。
口髭は付け髭だし、あの白髪も染めているだけ
ニールは龍族であることを隠しているのだ。
そのため老人のフリをしている。
そして、そのことを知り得ているのは。
「……」
キツい顔で睨んでくる少女。
ニールは助手に若い女性を任命し、洗脳により自分の物にしてしまう。
会う度に人が代わるが、彼女たちの末路は知りたくもない。
そしてなにより、この少女達の顔が苦手だ
どれもこれも、似ている。幼い頃の私に。
私の面影がある人しか選ばない。
一体ニールはなにを考えていたのかすけるようで最高に嫌だ。
当時のニールは女性よりも知識を最優先していた。
その反動だろうか。
しかし、その果てがこれか。
「……趣味が悪いと思います」
「似ているかね」
「ええ。取りあえず、ここで睨んでる、15の時の私そっくりな女の子を外に出して頂きたいのですが」
「…あなた、ハイリ様のなんなの」
無視する。こんなお人形と会話するほど慈悲深くない。
「私は、当時のあなたを心から尊敬し、あなたが知識に誠実であり続けていたからこそ、あの成果が得られた、と敬愛しているわけで。そういう思い出を汚して欲しくないなぁと」
「人は弱いものだ。私も当時はそう思い込んでいたとも」
ニールは深く頷く。
「叡智を求め、叡智の為に全てを捧げた。その結果、叡智の一端を知り得た時の、あの滑稽さは今でも忘れ得ぬ。叡智を求める為に必要な物は、知識のみの為に全てを犠牲にするのではなく、全ての事柄から知識を得ることだと知り得たのだから」
「…まあ、それは前にも聞きましたが。その結果が私のお人形と言うのは」
何度見ても気味が悪い。
なにが気味が悪いって、当時の髪型とか服とかまで似せているのだ。
「だから人は弱いのだ。未練はいつまでも引き摺る」
ニールはドラゴン殺しの積み重ねで、今までのドラゴン知識のアップデートと、生命と動力についての関係論文を作った。
これが高い評価を受けたのと、ドラゴン殺しの中で手に入れた黄金で、自ら識都に塔を建てたのだ。
そこに本を集め、識者を集めた。
この知識の塔により、我々の文化は高度に発展するのだが。
このあたりからニールはおかしくなった。
元々女へのアプローチなどしないタイプだったのだが、積極的に女性、しかも少女に目を向けるようになった。
しかし、それも珍しい話ではない。
若い女性は人気がある。
だが、その容姿に明らかな偏りがあった。
オルグナ曰わく
「メイルに似たやつばかり囲っているぞ、あいつ大丈夫か」
聖女の具体的利益の連発に、当時の神皇すら諦め、辞任する程の勢いでした。
それを、ハユリを神女にして防波堤とし、メイルの黄金と銀、鉄などの金属、貨幣で徹底的な抵抗を指導したのがリグルドです。
神教の内部の人間でありながら、実は信仰心の薄いリグルドは、徹底的なリアリストで、ハユリ、メイルを利用し尽くし防衛に成功しました。
通常の神教の人間にとっては、メイルの存在は恐怖と嫌悪そのものです。




