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いつか来世で約束を 01  作者: 朱本来未
絶命因果編
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第060話 絶命因子11

 保管室内にノックの音が響く。兄上が戻ってきたのかとそちらへと顔を向ける。そしてそこに立つ人物を目にしてボクはどう対応すべきか判断に困った。


「随分と派手に散らかしてくれちゃったみたいだけど話は済んだかね」

「協会長、後始末はボクがしておきますので」


 人似偶像アイドルと間違われかねない母上のこともあり、どうにか場を誤魔化そうと言葉を口にして見たけれど彼はそれを遮るように軽く手を挙げてボクに黙るように示した。


「老けたんじゃない、シルト」

「何年経ったと思ってるんだ。10年だぞ、10年。私ももう三十路に片足を突っ込んでるんだ。老けて当然だろう」

「ふーん。苦労したみたいね」

「お前さんが無茶な頼みをいくつも遺して逝ったからだろう。まさか本当に蘇るとは思ってもみなかったが。しかし、派手にやりすぎだ。外にまで音が響いていたぞ。私の権限で人払いしていても意味がないじゃないか」

「うちの愚弟は10年経っても相変わらずみたいなんだよね。困ったものだよ。貴方が叩き直してくれない?」

「彼も相当に意固地でな、お前さんと過去に繋がりのあった私とは関わりたくないんだろうさ」


 唐突に目の前で親しげに繰り広げられる会話に困惑しながらボクは尋ねる。


「母上。母上は協会長とお知り合いなのですか?」

「えぇ、私も非公式ではあるけど審理鍛刻師エメスではあったから。一応、同期になるのかな」

「非公式ですか?」

「私の魔工具は大鎚じゃないからね。それで非公式なのよ」

「リィス、君の母上はそれほどまでに優秀だったということだ」

「ま、そういうことね。貴女のことも彼にいろいろと取り計らってくれるよう頼んでたの。金銭面で苦労したことはなかったでしょう?」

「じゃあ、ボクが審理鍛刻師エメスになれたのも実力ではなく」

「それは違う。それは違うぞ、リィス。万象改変術クリエイトに関する技能を手ずから君に教え、審理鍛刻師エメスとしての能力水準を満たしていたからこそ協会員の一員として推したのだ」

「実力が足りてなかったらどうするつもりだったの?」

「そのときは遺族年金との名目で資金提供を続けていたまでだよ。お前さんが稼いだ金なのだからこんな回りくどいことをせずにそのまま渡してしまっても構わなかったのだが」

「あの愚弟がお金の管理なんて出来るわけないじゃない。だから貴方に頼んだんでしょ」

「まぁ、言わんとすることはわからなくはないが」


 またふたりの会話が始まってしまいそうだったのでボクは先んじるように口を挟む。


「あの母上」

「なに?」

「実は協会長がボクの父上だったりすることは」

「ないわね。さっき教えたでしょう。あれが事実よ」

「そうですか」

「まぁ、彼が父親だったらもう少しやりようはあったんだろうけどね」

「私は別に養子として引き取っても構わなかったのだが断ったのはお前さんだろうに」

「元々予定外のことだし、うちのお家事情に巻き込む気はなかったからね」

「頼ってはもらえたとは言え、少し残念ではあるよ」

「はいはい、死んだ女に言っても仕方ないでしょ」

「変わらないな」

「とっくに死んでるからね。変わりようがないよ、成長も老いもないんだから。それよりも例のモノ返してもらえない?」

鬼鋏キキョウか? それならここに保管してあるぞ」

「母上、母上の大鋏でしたら兄上が」

「あー、違うの。あれは模造品だから」

「模造品?」

「あれに持たせてたのは死後長期間に渡って指示を出していくためにいくつもの文章を前もって魔力で織り込んだ魔工具で戦闘用のものとは全くの別物だよ。私が遠からず死ぬ可能性が高いことはわかってたからね。貴女を身ごもったのを知った時点から方々に手を回して準備してたの」

「その方々に当たるひとりが私というわけだよ」

「協会長も知っていたのですか? 母上が生き返るってこと」

「半ば疑ってはいたがね。それよりも時間がないんじゃないのか。鬼鋏キキョウならお前さんの亡骸が納められていた保管庫の隣の戸棚の上から三段目だ」


 母上は示された場所から大鋏を取り出して状態を確かめながら応じる。


「そうね。早いとこ場所を移さないと街が大惨事になるでしょうしね」

「例の命導律師ラヴィか」

「そ、あいつにここを死の巣窟にされる前に私はここを離れるから移動手段の手配をお願い出来る? 私がここを離れれば十中八九ここには寄ることなく私を追ってくるでしょうからね」

「行き先は?」

「私の生まれ故郷かな。あそこならもう誰もいないから」

「わかった。今すぐ手配させる。あと他に私が手伝えることはないか?」

「愚弟を叩い直しといてくれる?」

「善処はするが、期待はしないでくれ」

「母上、兄上は置いていくのですか? もうそろそろ戻ってくると思うのですが」

「戻ってこないわよ。今頃、大鋏から待機指示でも出されてるでしょうし。連れて行っても、あの命導律師ラヴィの異能でただ死ぬだけだもの」

「エル、その言い方からするとリィスを連れて行くつもりなのか」

「そうね。貴方には申し訳ないけれど、この子は私と一緒に逝くことになるわ」

「さすがにそれは看過出来ないぞ」


 険悪な雰囲気を漂わせ始める母上と協会長の間に割って入るようにしてボクは声を上げる。


「協会長、これはボクの使命なのです。母上の命ではなくボクの意思なのです」

「わかっているのか、リィス。死ぬことになるかもしれないのだぞ」

「承知しています。ですがこれは母上だけではなくボクの問題でもありますので」


 協会長の瞳を真っ直ぐ見つめながら告げると彼は困ったように顔を歪めて軽く頭をふった。


「そうか。いや、その前に謝罪する。お前さんたちふたりの会話は概ね立ち聞きしてしまっていたんだ。理解は出来なかったがね。私の立ち入ることの出来ない世界の話なのだろう」

「詮索はなしだよ、シルト」

「あぁ、わかっているよ」


 立ち込めていた刺々しい雰囲気は霧散する。母上は協会長の耳元で何事かを囁くと彼は呆れたといった表情を浮かべて深いため息を吐いた。


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