第057話 絶命因子08
先日回収した人似偶像の似顔絵を作成して周辺地域から情報を募ったところ象られた人物は故人であることがわかったが、その人物が亡くなったのは10年も前のことだった。
母上似の人似偶像やトールも同時期に命を落としているという関連性を得る。死の状況等はトールに関してだけは転落死だと思われるが、今回発見された人似偶像の元になった人物も母上同様に何者かに殺害されたということだった。
なぜ10年も経って死者の人似偶像を造ったのかは不明だけれど今後発見される可能性があるものの目星はある程度付いた。
それからすぐに協会は遺族からの許諾を得て今回発見された人似偶像の元となった人物の墓を暴く。すると棺桶の中にはなにも納められておらず空っぽだったという。これ関しては遺族も首を傾げて知らぬ間に墓荒らしにでもあったのかもしれないと自身を納得させていた。
続いて母上の墓を暴くことになった。母上に異常な執着を持つ兄上は許可を出すことはないだろうと判断してひとり娘であるボクの権限で暴くことをよしとしたのだけれどボクは母上の墓の場所を知らなかった。
以前、兄上に場所を尋ねたのだが彼は頑なに場所を教えようとはしなかった。仕方なくボクは街の共同墓地の埋葬者名簿を片っ端から目を通して行ったが、どこにも母上の名は記されていなかった。
偽名で埋葬されたのかもしれないと没年月日から当たって行ってみたが結果は同じだった。ここまで探して見つからないとなると付近の街には埋葬されていないのかもしれない。そう考えたとき、母似の人似偶像を構成していた念土の産地からひとつの可能性が脳裏に浮かぶ。
「リーくん。ボクは出張することになったのでうちのこと頼みますね」
「どこに行くんだ?」
「先日行った麓街ですよ。なんでも新たな人似偶像が見つかったそうなので」
「そうか。気を付けてな」
「今回はついて来るとは言わないのですね」
「前回、心配する必要がないとわかったからな」
「そうですか。それなら行って来ますね」
妙に物分かりのよくなった兄上をひとり残してボクはアリーシャの元へと赴く。彼女の伝で、この付近一帯の埋葬者名簿を管理している場所に案内してもらう。そこで改めて母上の名は探すも結果は空振り、ならばとこちらでも没年月日を当たって行くと該当者が2名浮かび上がる。その該当者の内の1名の名を目にしたとき、それが母上であるとボクは確信した。
ボクの母上と思われるひとが埋葬されているのは今現在ボクが滞在している麓街から東回りに山を迂回して行った先にあるちいさな集落だということでトールに頼んで案内してもらった
訪れた集落はひどく寂れていて暮らす人たちからも生気が感じられない。失礼なことだがあまりにも薄気味悪く、ここで一晩過ごすのは避けたかったボクは墓地を管理する人物の元へと足早に向かった。
出迎えた初老の女性に埋葬者の名を告げるとどこか懐かしそうな顔をした後、ボクの顔を見て納得したとばかりに深く頷き「あの赤ん坊がねぇ」と頭を撫でて母上の胎からボクを取り上げたときのことを語って聞かせてくれたが大した収穫はなかった。
長い思い出話に付き合い終わり、ようやく案内された墓標には没年月日とともに『リィス』とボクの名が刻まれていた。
ボクはこれから墓を暴くのを咎められないよう「ふたりだけになりたい」告げて女性には退いてもらった。
他人の目がなくなったのを確認して手早くことを終わらせるためにトールの手も借りて墓を掘り返す。掘り出した棺桶を無遠慮に開けると中身は予想していた通り空っぽだった。
ここで得た情報で今後現れる人似偶像の動向が少なからず予測出来るようにはなる。命導律師本人についてはまだわからないが、母上似の人似偶像が本来し得ない行動をとったために、それを追ってボクらの住む街付近へと拠点を移したのではないかと思えた。
母上の墓を元に戻してボクはトールに無理を言って頼み込んで本日中に協会本部まで戻る魔象人形の手配をしてもらった。
日付が変わるかどうかという夜も深くなった頃、協会本部に戻ったボクは執務室で書類作業をしていた協会長に調査内容を報告した。
協会長から労いの言葉を貰い執務室を後にする。強行軍で疲労はピークに達しており、幼い身体は睡魔に苛まれて限界を迎えようとしていた。ふらつく足取りでどうにか帰宅して倒れ込むようにベッドへも身を投げ出す。直後には睡魔に負けて深い眠りに落ちていた。
それほどまでに疲れ果て指一本動かせないのではないかと思える疲労感から深い眠りに落ちていたにもかかわらずボクはバツンという嫌な音が全身を伝い目を覚ました。
何事だろうかと目を開けると部屋には不審な人影がベッドの側にひとつ立ち尽くしていた。霞む目を凝らしてみると、それは兄上のようで彼はいつものように大鋏を両手に携えていた。
「リーくん、こんな夜更けになんの用ですか? 今日のボクはひどく疲れているので睡眠の邪魔をしないで欲しいのですが」
などと応じながら身を起こして霞む目を擦ろうとして異変に気付く。その異変を確かめるように目をそちらへと向けると、ボクの傍らには身体から切り離された左腕が転がっていた。
こういったことは記憶の中で何度となく経験している。だから心はどうにか状況を受け止めることが出来た。しかし、まだ幼い今のボクの身体は身に起こったことを認識した瞬間、激痛に襲われ涙交じりの絶叫を上げた。




