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いつか来世で約束を 01  作者: 朱本来未
絶命因果編
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第055話 絶命因子06

 転生者に繋がる明確な手がかりを掴めないまま時折もたらされる協会からの仕事をこなして日々を過ごす。その間も兄上は相変わらずのタダ飯喰らいで労働とは無縁の生活を続けていた。


 いつもであればボクが転生してから19年前後で駆除対象の転生者と邂逅を果たす。まだ因果が交わるには早いのではないかとも思わなくもなかったけれどボク自身が知らないだけで生まれる前に既に一度因果は交わっている。ボクの母上が転生者の手によって亡き者にされたのである。兄上は母上が殺されるところを目の当たりにしているらしいのにボクがそのことについて尋ねても口を噤むばかりで決して話そうとはしなかった。


 今まで母上に関する情報源は兄上しかなく、生まれ故郷すら伏せられた状態だったので調べるに調べられず調べたことはなかったけれど今は審理鍛刻師エメスの権限がある。母上が殺された理由がわかれば転生者の行方についてなにか掴めるだろうかと思い立ったボクは兄上には悟られぬように審理鍛刻師エメスの権限を用いて組合に保管されている過去に所属していた万象技巧士クリエイタに関する古い書類を探っていた。

 幸いにも母上は大鋏という今では使い手が皆無と言ってもいい魔工具を愛用していた。だからすぐに対象を数人に絞り込めた。そこに至ってボクは今更のように母上の名を知らないことに気付いたけれど対象の中にボクにとってとても馴染みのある名がひとつ混じっていた。

 それは本来ボクの名であるはずの『エル』という名だった。なぜその名が母上と思われる人物に付いているのか理解出来ないでいたが、ひとつの可能性がボクの脳裏に浮かぶ。


 麓街で会った死者の記憶を引き継いでいた魔象人形ゴーレムであるトールの存在がある可能性を示唆していた。ボクは本当の顕界文明管理官であった母上の記憶の一部を引き継いでいるだけの偽物であるという可能性である。ボク自身は転生者でもなんでもなく本当に実在しているかも疑わしい顕界文明管理官などというものであると思い込んでいるただの人間なのではないかと思うと急に不安がこみ上げて来た。


 なぜボクはそんな妄想に取り憑かれてしまったのだろうか?

 いや、まだそうだとは決まっていない。決まってはいないが違うとは断言出来ない。


 母上はどのように殺されてしまったのか、その状況がはっきりすれば事実であるかどうかわかる。死に関する因果は簡単には変えられない。それは顕界に於ける絶対の法則なのだから。


 ボクの資産でもある一軒家へと帰宅すると兄上が今日も外出することもなく母上の形見である大鋏の手入れをしていた。


「リーくん、またですか。鋏にばかり構っていないで働いてください」

「何を言っているんだ。こうして鋏の手入れに勤しんでいるじゃないか」

「はぁ。今日はもういいです。それよりも聞きたいことがあるのです」

「なんだ?」

「母上のことです」

「僕から話せることはないぞ」

「ボクの質問に『はい』か『いいえ』で答えてくれればいいです」

「それくらいなら、まぁ、いいが」

「ボクが聞きたいのは母上が死ぬ前の状況です。母上は下腹部を切り裂かれるなどしていましたか? もちろんボクをはらから取り上げるためではなくですよ」


 その質問を投げかけられた兄上はどういうわけか顔を綻ばせた。


「その通りだよ、リィス。あの男に胎を切り裂かれたんだ。やはり憶えているのか?」

「憶えて?」

「いや、なんでもない。他に何か聞きたいことはあるか? 今なら何でも答えてやるぞ」

「母上はボクに似ていましたか?」

「あぁ、生き写しと言ってもいいぞ」

「そんなに幼い顔立ちをされていたのですか、母上は」

「そういうことじゃない。何と言ったらいいんだ、面差しがな」

「今の質問は頭が悪すぎました。親子なら似ていますよね。えっと、そうですね。母上の名前を教えていただけますか。ボクはずっと母上としか呼んでいませんでしたからなんだか気になってしまって」


 するとなぜか兄上は何かを口にしかけてから一旦口を閉ざして、改めて「エルという名だったよ」と口にした。母上の名を口にする機会なんてなかっただろうから躊躇ったのかもしれない。


「もうひとつ、母上のことではないのですが」

「何が聞きたいんだ?」

「母上の仇というのは、ボクの父上なのですか?」


 なんて質問を投げかけた瞬間、兄上は顔を真っ赤にして「それは断じてない」と怒鳴った。


「あの男がリィスの父上であるはずがない。姉上とは面識など一切なかったんだ。それなのにいきなり現れて意味のわからないことを」

「姉上?」

「あ、いや、今のは忘れてくれ、言い間違えたんだ」

「リーくん」


 いつものように兄上の名を呼び、じっと下から覗き込むように顔を見つめる。すると兄上は観念したように肩を落とした。ボクはそれを待っていたとばかりに追い打つように質問を投げかける。


「ボクの母上はリーくんの姉上なのですか?」

「……そうだよ。リィスは僕の姉上の子さ」

「では、リーくんはボクの」

「叔父だね」

「ようやく納得出来ました。リーくんとボクがこんなにも歳が離れているのもリーくんがボクと母上が生き写しだと言ったのも」

「出来れば知られたくはなかったんだが」

「なぜです?」

「姉上がそれを望んでいたからさ」

「なにが問題なのです」

「僕にはわからないよ。姉上が何を思っていたのかはね」

「そうですか」

「今の話は忘れてくれ、リィスは今まで通りに僕の妹ということにしておいてくれ」

「それが母上とリーくんの望みということなのでしたら」

「あぁ」


 兄上は力なく答えると形見の大鋏を抱えて、ふらふらとした足取りで自室へと戻り、部屋に引きこもってしまった。

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