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いつか来世で約束を 01  作者: 朱本来未
絶命因果編
52/63

第051話 絶命因子02

「それでなにか収穫はあったのですか?」

「完全に空振りだな」


 にぎわう大衆食堂の片隅で夕食の並ぶ卓を挟んで兄上は肩をすくめて見せる。完全に役立たずの様相だが、なにを言ったところで改善されることはないだろうと諦めて話を進める。


「言いたいことはいろいろとありますが今はいいです。とりあえずボクの得た情報を話しますね。協会本部で分析してもらった結果なのですが、エイチァイ山岳地帯の土である可能性が高いということでした。ですので早速参りましょう。あそこの麓にある街は美味しいごはんで評判らしいですから」

「目的が変わってないか?」

「ボクがなんのために稼いでいると思っているのですか? リーくんを養うためではないのですよ。むしろリーくんにはボクの養育費を稼いで来て貰わないと困ります」

「それなら大丈夫だ。万象技巧士クリエイタ組合の依頼をいくつか受けて来た」

「これから出発しようというのに大丈夫なのですか?」

「あぁ、問題ない。受けた依頼は念土ねんど用の土を採集することだしな。あの魔象人形ゴーレム念土ねんどを分析して産地が割れるんなら、この依頼いけると思ったんだよ」

「運べるのですか、この街まで」

「そこは、ほら、街間道で貨物を搬送してる魔象人形ゴーレムにでも相乗りさせて貰うとかさ」

「それは無理だと思うのですよ。仮に相乗りさせてくれたとしても依頼料以上の運賃を要求されるだけなのです。元々その手の万象技巧士クリエイタ向けの依頼でしょうから。今すぐ依頼をキャンセルして来てください」


 受けて来た依頼に関して淡々と考えられうる事態をそのまま告げると兄上は急に眉をハの字にした。


「この依頼、キャンセルするとなると違約金が発生するんだが」

「だったら、その使い所のない大鋏を売ってお金を用意するか近場の採掘場に荷車を引いて行って来てください。組合の受付で尋ねれば場所くらい教えてもらえると思いますよ。荷車も組合で貸し出してくれたはずです。ボクは付き合ってられないので先に麓街に行ってますね」

「いや、待ってくれ。お前をひとりで行かせるのは心配だ」

「リーくんがそれを言いますか」

「今回だけ、今回だけだから違約金を立て替えてくれないか」

「兄上は妹にたかる気ですか」

「そう邪険にしないでくれ。ちゃんと返すから」

「返す当てはあるのですか?」

「いや、まだないが。向こうの組合で同じ依頼を受け直せばどうにか」

「それを専業としてやってる地元の万象技巧士クリエイタの方がいると思うのですが。土地勘もない外部の人間に出来るのでしょうか」

「それは」

「もし受けるのであれば地元の方に道案内を頼むことになるのではありませんか? 山岳地帯ともなれば遭難の恐れもありますからね。それでしたら、この近辺の採掘場に行って来た方がよいと思いますよ。ここならまだ土地勘もなくはないですから」

「しかし、だな」

「兄上は本当に働く気があるのですか? 母上の仇を口実にして誤魔化していませんか」

「そんなことは断じてない。絶対に」

「でしたら働いてください。ボクはもう兄上の面倒を見きれませんので御自分でなんとかなさってください」

「見捨てるのか。たったふたりの家族だろう」

「働いてくださるのでしたら文句はありません。これまでは母上の遺族年金で食い繋いでいましたが、それも途絶えてしまったのですよ」

「俺は、お前の面倒を見るだけで精一杯だったんだ。働き口を探している余裕なんて」

「ボクをここまで育てていただいたのは感謝していますが、これとこれとは別問題です。もうボクに時間を割かれることもないはずです」

「それはそうだが、どうすればいいんだ」

「ボクから言えるのはひとつだけです」

「なんだ?」

「働いてください」

「それが出来ないからこうして」

「働きもせずに母上の仇を探しているとでもいうのですか?」

「いや、それは間違ってはいないが」

「考えてみるとこれはいいきっかけだったのかもしれません。兄上、ボクたちは一度離れてみるべきです。いつまでも家族だからと一緒にいる必要はないのですから」


 タダ飯ぐらいの兄上を厄介払いするよい口実をようやく得たとばかりに笑顔で提案する。


「まだ子供のお前をひとりにするのはさすがに」

「兄上、自立してください。ボクは母上の生まれ変わりではないのですよ。依存されては困ります」

「何を言ってるんだ。俺は別に」

「以前、おっしゃっていたじゃないですか。ボクは殺された母上のはらから取り上げられたときに、ボクに対して『生まれ変わりなのかも知れないな』と」


 そんなボクの言葉を聞いた兄上は、驚いたような表情を見せた後、真剣な顔つきになり、ボクの肩をがしりと掴んで尋ねた。


「……お前は赤子だったときのことも覚えているのか」

「兄上は覚えておられないのですか?」


 なにか地雷を踏んだのだろうかと思って軽い調子で肯定を匂わせる程度の言葉を返す。兄上はわずかばかり黙り込み、なにかを決心したのかゆっくりと口を開く。


「わかった。すまない。荷車を借りて近くの採掘場に行ってくるよ。だから、先に行かずに待っていてくれないか」

「2日だけならよいですよ」

「あぁ、それでいい。それと呼び方なんだが、戻してくれないか。どうにも落ち着かなくてな」

「はぁ、リーくんがそう言われるのでしたらそうしますが」

「じゃ、すぐに片付けてくるからな」


 兄上は勢い込んで依頼をこなすために組合の方に駆けて行く。その背中を見送り、ボクは少し冷めてしまった夕食を口へと運ぶ作業に戻った。

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