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いつか来世で約束を 01  作者: 朱本来未
絶命因果編
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第049話 業務更新07

 魂魄修復の術後だからなのか、それとも生前の記憶を追体験していたからなのか、ひどい倦怠感に見舞われながらふらふらと施術室から自分の個室に戻った。ベッドに倒れこむようにして横になり、ごろりと気怠く仰向けになる。部屋の明るさが煩わしく、左腕で目線を覆った。

 ひとつ深々としたため息を吐き、このまま眠り込もうとしていると誰かが部屋に入ってきたらしく、ドアの開閉音が耳朶を打つ。私は目を覆ったまま「誰?」と尋ねたが、その問いに訪問者は答えることはなく、つかつかと私の側にまでやって来ると横たわる私の上にのしかかってきた。


「凍結はもう解けたの?」

「よく私だってわかったね」

「ここでこんなことするの貴女くらいでしょ」

「まぁね。それよりさ、エル」

「なに?」

悪夢ゆめは見れた?」

「嫌な言い方するのね」

「せっかく私が貰っておいてあげたのに」

「私の記憶の一部が欠落してたのは貴女のせいだったのね。左腕と一緒に引き取ってたの?」

「そだよ」

「結構なことね」

「気が利いてるでしょ」

「皮肉よ、皮肉」

「知ってる」

「前より性格悪くなったんじゃない?」

「半分くらいはエルの影響だよ。そこは理解してるでしょ」

「リンナの私に対する執着って私の記憶が影響してるの」

「はじめちゃん、はじめちゃんってやつ?」

「そ、それ」

「勝手に自分のものにしないでくれるかな。この執着は私自身のものだよ」


 凄むリンナは私の目を覆う左腕を引き剥がして自身に目を向けさせて、お互いの額をこつりと合わせる。間近に迫るリンナの吐息が肌に触れる。それほどまでに迫られているため焦点は上手く合わせられず視界はぼやけてしまっていた。


「エルはさ。管理官としての任期を全うしたら報酬として、例の人と同じ顕界・同じ時代に再転生することを望んでるんでしょ?」

「えぇ、そうだったみたいね。貴女に記憶の一部も持っていかれてて今まで忘れていたみたいだけど」

「意味なくない? だってさ、任務のときと違って今の記憶全部消去された上での転生なんだよ。今の執着なんて無意味になると思うんだけど」

「なにを今更言ってるの。知ってるよ、そんなこと。それを知った上で、その報酬を望んだんだからさ。勝手に意味をなくさないでくれる? 私にとっては意味のあることなのよ」

「ふーん。そ、いいねどね。満期を迎えるまでに報酬内容変更するかもしれないし」


 リンナは顔を離して元々私のものだった左手で私の頰に触れながらつまんないとばかりに口を尖らせた。


「で、本命の用はなんなの?」

「あー、つまんなーい。ちゅーしてくれたら話す気になるかも」

「したところでゴネるでしょ」

「そりゃね。ま、今はいいけどね。してくれなくてもさ。それで、一応伝えとこうと思ってたことなんだけどさ。次の駆除対象のことなんだよね」

「なんだか含みのある言い方ね」

「まぁね。だってエルが死ぬきっかけをつくった人間だもん」

「死ぬきっかけ? まさかとは思うけど、はじめちゃんのこと?」

「いや、そうじゃなくて。生前に最後に顔合わせたやつだよ」

「あのおじさん? どう見ても40代くらいだったよ、老け顔だったとしてもハイティーンとは言えないんじゃないかな」

「あー、うん。そこなんだけどさ、最近いろいろとさ観測結果が外れてたりしてたじゃない。大抵、時間が早まったりだとかでさ」

「あれの原因がわかったの?」

「うん。あいつらもさ、こっちと同じことしてきてるっぽい。時間遡行させて、ハイティーンに近い年齢まで魂魄が保有する時間を遡らせて実年齢とか偽ってたみたい」

賽苑サイオンに漂着するのって、確か親に先立って早世した子どもじゃなかったけ」

「厳密には天命を全うせずに死んだ人間なんだよね。親がどうとかってのは生まれの順からいってそうなるのが当然の結果になるからそう言われてただけなんだよ。エルも天命を残したまま死んじゃってるから賽苑サイオンに流れ着いたんだし」

「それが次の駆除対象となにか関係があるの?」

「本来はさ、賽苑サイオンに漂着した魂魄には宿業カルマを付与して、比較的短命な顕界に転生させて残りの天命を消費させるんだよね。それをあいつらは記憶を保持させたまま宿業カルマとして偽装した異能ときっちり転生したと見せかけるために偽りの年齢情報を与えて顕界に送り込んでるんだよ。そのせいで顕界にどんな影響が出るかも考えずにね」

魂魄洗浄ソウル・ロンダリングだっけ?」

「うん。でね、あいつらさ。ハイティーンの人間を送り込んでたのもう隠す気もなくなってきてたってのもあって見落としてたんだけど、あいつらより高年齢層の人間を時間遡行で若返らせてハイティーンの人間として偽装してたみたいでさ。それで観測結果に狂いが出てたみたい。まぁ、時間遡行出来る限界値は機材の関係で20年までだから40近い年齢の人間までみたいだけどね」

「それを使って私の死にまつわる因子を持った人間をピックアップして向こうは送り込むことにしたってわけね。というか死んでたのね、あの男」

「エルを殺害した疑いをかけられて、逃げてる最中に追っ手を振り切ろうと遮断機の降りた線路内に入ってバラバラになったみたいだよ」

「ふーん。それで対象の転生時刻は?」

「当然のことだけど20年前だよ。限界値ぎりぎりだね」

「私の魂魄だと最大で19年334日しか遡れないんだけど、どうするの?」

「エルの絶命因子に関する情報はこれまでの任務である程度揃ってるから最低限の対抗措置を取ってみるけど相手は絶命因子をもたらした大本だからね。どこまで防げるかは微妙なところだよ」

「その辺は任せるわ。竜宮一の事象予報士さんにね」

「自称だけどね」

「珍しいわね。卑屈になってるの?」

「こんなくだらない方法で出し抜かれてたんだから卑屈にもなるよ」

「今の私には貴女の左腕があるんだからどうにかなるわよ」


 左腕を伸ばしてリンナの頬を撫でる。


「安い気休めだね。でも、こういうの嫌いじゃないよ」

「そ、じゃあ、私を殺させないでね」

「当然でしょ」


 リンナは屈託無く笑うと任せろとばかりに左手で自身の胸元を力強く叩いてみせた。

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