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いつか来世で約束を 01  作者: 朱本来未
絶命因果編
49/63

第048話 生前想起08

 運転手さんに目的地を告げて後部座席でスマホをぽちぽちと操作する。短文投稿型SNSアプリを起動して最後に撮った画像を選ぶ。


@える

大切な人とふたりで。


 一文だけ添えてTLタイムラインに流してアプリを終了する。次に壁紙を変更しようと設定画面を開き、私とはじめちゃんのふたりが写った最新の画像をロック画面に設定した。


 ほどなくマンションに到着する。想い出に浸りながらエントランスを抜け、浮かれた足取りでエレベータに一直線に進む。たった今昇って行ってしまったエレベータを見送り、待っている間にここ数日間集合ポストを確認していなかったと気付きそちらの方へと戻った。

 すると中にはA4サイズの茶封筒が投函されていた。手に取ってみると封筒には宛名もなにもなく、ただ一冊の雑誌だけが入れられていた。

 正直、気味が悪かったけれど中を確認しておいた方がいいかと雑誌を取り出してみる。どこかよれよれのそれは2年程前のファッション誌だった。なんでこんなものがとよくみると付箋がされていたので、そのページを開いてみると私が載っていた。

 それを一目見て、2年程前に街で声をかけられて読モとして載せるのからと写真を撮られたことがあったのを思い出した。


 なんで今になってこんなものが?


 疑問に思う一方でなにか薄ら寒いものを感じた私は雑誌をエントランスに設置されたゴミ箱に捨てた。

 別れ際、はじめちゃんにはあんなことを言ってしまった手前だけれど明日また頼らせてもらおうと決めて早く部屋に戻ろうとエレベータのボタンを押した。


 10階に到着して廊下に出ると妙に暗かった。なんでこんなときにと思わなくもなかったが、誰かが連絡を既に入れていたらしく、つば付きの帽子を目深にかぶった管理員さんが電灯を新しいものに交換しているところだった。ほどなく、ぱっと廊下は明るくなる。一仕事終えた管理員さんは脚立を片付けて道具類が詰まっているらしい鞄を肩にかけていた。その脇を通る際に「おつかれさまです」と軽く会釈しながら通り過ぎる。

 直後、強烈な激痛に襲われて全身の自由が利かなくなった。脱力して身体が崩れ落ちる。唐突なことだったのに管理員さんがどうにか支えてくれる。意識はあるのに身体がいうことを利かない。なにが起こったのかわからず放心する私を管理員さんは「大丈夫ですか、部屋はこちらですか」と声をかけながら私の部屋の前まで運んでくれた。

 管理員さんは「鍵はこちらに?」と私のバッグをあさり、部屋の鍵を開けて私を中にまで運び込み、床に座らせてくれる。その段に至っても放心状態にあった私の前で管理員さんは後ろ手に鍵を閉めた。

 理解が追いつかない私の前で彼は肩からかけていた鞄からスタンガンらしきものを取り出すと私に押し付ける。すると先刻受けたのと同種の激痛に襲われた。ぐったりとする私の姿を見て彼は「なんだ気絶するわけじゃないのか」などとぼやく。全身に力が入らずなんの抵抗も出来ない私は猿轡で口を塞がれて引きずられるようにして寝室に運び込まれ、両腕をそれぞれベッドの柱に手錠で繋ぎ止められる。それからほどなくして脱力感は抜けたけれど抵抗するのは危険だろうと大人しくしていた。


「せっかく俺が見守ってやってたのに、あんなチャラそうな金髪のガキなんか連れ込みやがって」


 毒突くなり帽子を脱ぎ捨てた40代前後の男は私の服を無理やり脱がそうとする。上着は両腕を手錠で繋がれているためはだけるだけにとどまったが、もはや意味などないに等しかった。


「どうせ昨晩もあの小僧としけこんでやがったんだろ」


 などと的外れなことを言うのを聞き、彼がはじめちゃんのことを男だと勘違いしているのだと悟った。おそらく両親に密告したのも彼なのだろう。しかし、それとこの状況とが結びつく理由にはならず理解不能だった。

 どこかズレた男は鬱憤を晴らすように勝手に私の中を侵した。荒い息を吐き、にへら顔をした男は気持ちの悪い笑い声を上げて「あの小僧との子供が出来てないか確かめといてやるよ」と部屋から出て行った。

 すぐに戻ってきた男の手にははじめちゃんと買ってきた包丁が握られていた。なにをしようとしているのか思い至り、さすがに黙って抵抗しないままでいるのは危険だと暴れようとしたけれどスタンガンを押し付けられ脱力させられる。私は抵抗することも出来ずに下腹部を切り裂かれた。

 スタンガンの影響か、全身の神経が通常時と違っていたためか痛みが混ざり合ってよくわからない。出血はひどくはないけれど使用済みの包丁で切られたとなると雑菌の方が心配だった。

 助かるかどうかよりもそんなことばかりが脳裏に浮かぶ。


 私自身混乱しているのだろうか?


 困惑する私を切りつけた男は今度はチェストの上に座らせたねこくんに目を付け、ズタズタに切り裂いてしまった。

 内臓のように綿をあちこちからはみ出させて、ねこくんはベッドの脇に転がされる。それをにやにやと見ていた男は次の獲物でも求めるように私のバッグをあさり始め、スマホを取り出すと私とはじめちゃんが一緒に写ったロック画面を見るなり、包丁で何度となく殴りつけて画面をひび割れさせていた。

 それでスッキリしたらしい男は「また来るからな」と吐き捨てると部屋から出て行き、少しの間を置き玄関扉が開閉する音が響いてきた。


 痛みで額に脂汗を滲ませながら悩む。明日、部屋に置きっぱなしになっている衣類を店に持っていくとはじめちゃんには約束している。このまま放置したら明日の夜遅くにはじめちゃんがマンションまで様子を見にきて逆上した男に襲われかねない。私がこのまま殺されるだけなら別にいいけれどはじめちゃんにまで害が及ぶのは看過出来なかった。


 長くはない時間を費やして考えに考え抜いた末に至った結論を実行に移す。手錠で繋がれた右手を精一杯伸ばしてチェストの上に置かれているマッチ箱をどうにか指先で掴み取る。慎重に中から一本のマッチを取り出して片手でどうにか火をつけようと試みる。最初の数本は上手くいかずに手元からマッチが落ちたりしてしまったけれど5本目にしてようやく着火した。それをぽとりと落とす。落とした先にはズタズタに引き裂かれたねこのぬいぐるみが転がっている。マッチの火はちりちりと綿に燃え移る。その勢いを衰えさせないようにマッチ箱の中身をぶち撒けた。

 徐々に火の手は燃え広がり、布団や私の衣類も燃え始めた。


 多くの人に迷惑をかける最低な選択だとしてもはじめちゃんを危険から遠避けられるならそれでよかった。


 はじめちゃんは悲しんでくれるかな?

 ううん。たぶん、きっと怒るよね。


「バカなやつだよ、お前は」


 なんて言ってさ。


「ごめんね、ねこくん。こんなことに付き合わせちゃってさ。悪いけど、私と一緒に逝こうか」


 燃え残っているかもわからないぬいぐるみに向けて言葉をかけて焼ける痛みに苛まれながら鼻から煙を大量に吸って無理やりにでも意識を飛ばそうとする。髪も燃え始め、嫌な臭いが鼻腔を刺激した。


 もし叶うなら原型もわからないくらいに黒焦げになって生焼けにはならないで欲しいと願いながら私は赤く染まる部屋の中で昏倒した。

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