第047話 生前想起07
「ここなんだ」
「そだよ。予想外れた?」
「近辺で一番でかいテーマパークに行くものだと思ってたからな」
「遊園地だって言ってたでしょ。それにそっちだとないんだよね、ミラーハウス」
「ミラーハウス?」
「うん。好きなんだよね、ミラーハウス。はじめちゃんと行ってみたかったんだ」
「なんでまた」
「そろそろ順番来るし、入ってから理由を考えてみるといいよ」
「あるんだ、理由」
「なくはないってだけだけどね」
「鏡相手にご飯食べることあるって言ってたくらいだし。鏡が好きなのか?」
「覚えてたんだ、それ」
「つくり話だったのか?」
「本当の話だよ。そんな嘘ついてどうするのさ」
「だよな」
「ほら、入ろ入ろ」
万華鏡の中に迷い込んだような光景をスマホでぱしゃりぱしゃりと撮影する。はじめちゃんだけで数枚、私だけで数枚、ふたりで数枚と何度も撮影していたら出口に着くまでにかなりの枚数を撮っていた。
「本当に好きなのな」
「理由わかった?」
「見当もつかないよ」
「ま、特に理由らしい理由はないんだけどね。単純に好きなんだ」
「なんだそりゃ」
「意味ありげなことを言ってみたいお年頃なんだよ。さ、次行こ、次」
「はいはい」
その後はローラーコースターなどの絶叫マシンをふたつほど乗っただけでお昼を迎えてしまった。週末ということもあってか家族連れが多く、そこそこの順番待ちであまり回れそうもないのは最初からわかっていたので残念だと思うことはなかった。
昼食はホットドッグと軽めに済ませて午後は食後ということもあって激しい乗り物は避けた。そうして園内で遊べるだけ遊ぼうとあれこれ回っているうちにすっかり日は暮れてしまった。
充分に遊園地を満喫した私たちは茜色に染まる園内で最後に今日という日の記念の一枚を撮るための場所を決めかねていた。
「観覧車があればよかったのにな」
「ミラーハウスの前でいいんじゃないか? 好きなんだろ」
「外観が好きなわけじゃないんだけど他に思い浮かばないし、それ採用ね」
「はいはい、それじゃ行きますか」
「うん」
出口の方へと流れて行くひとの合間を縫ってミラーハウスに向かう。どうにか日没前に到着してミラーハウスの入口脇から少し離れた位置にふたりで立つ。
「はじめちゃん、右手貸して」
「右手?」
「うん。こう、私の腕と交差させてね。私の左手と同じ形つくって合わせて欲しいの」
「あぁ、ふたりでハート型つくるのな。逆の手の方がやりやすくないか?」
「それだと写り映えがね、ちょっと。手だけ撮るなら問題ないんだけど」
「誰かに頼もうにも、みんな帰り支度してるもんな」
「こればっかりは仕方ないよね。それじゃ、撮るよ」
スマホを持った右腕を伸ばして何枚も撮影する。その中の数枚はどうにかまともに撮れていた。
「これ以上暗くなると撮れなくなりそうだね。じゃ、今度は逆の手ね」
「今度はどう撮るんだ?」
「合わせた手だけね。手でつくったハート型で空を切り取る感じの写真が欲しいなって」
「高さはこれでいいか?」
「うん。それならなんとか私が届く高さだから。じゃ、撮るね」
「はいはい」
こちらはさっきとは違いすんなりと綺麗に撮ることが出来た。これでもう満足だとスマホでの撮影を切り上げる。
「カメラは買わないのか? 写真撮るの好きみたいだが」
「写真撮るのが好きっていうより、そのときそのときの記念として場面を切り取れれば満足だから。うーん、どうなんだろう? やってみたら案外ハマったりしてね」
「そのときはいろいろと見せてもらいたいものだね」
「ほとんどが私自身の写真だろうけどね。ほら、私って自分のことが大好きだから」
「だから鏡が好きなのか?」
「かもしれないね。この容姿かわいくてとっても気に入ってるもん。私のどこが一番好きかって質問に顔って答えてくれるひととは気が合うかもね」
「今までの彼氏とも?」
「うん、だいたいね。さっきの質問で性格なんて答えるような相手だったら即さよならだよ。内面の上っ面だけで判断されたらあんたに私のなにがわかるんだって感じだもん。だけど少なくとも外見なら美的価値観の共有は出来るでしょ」
「そういうものか」
「うん。はじめちゃんは自分の容姿は好きじゃない?」
「嫌いだったら周囲に溶け込むようにって、とっくに髪を黒く染めて黒のカラコン入れてるよ」
「よかった。私ね。私の容姿以上にはじめちゃんの容姿の方が好きなんだよね。だからはじめちゃんがはじめちゃんの容姿を好きでいてくれて本当によかったよ」
「ありがとうとでも言うべきなのか?」
「さぁ、わかんない。私は私の好みの話をしただけだから」
「そっか。なんか話し込んでるうちに暗くなっちまったな」
「だね、帰ろっか」
「晩御飯はどうする? 外で食べてくか?」
「うん。帰りにどっかで食べてこっか」
「なにか希望は?」
「特にないからファミレスとかでいいんじゃない? 食べたいものそれぞれで頼も」
「じゃ、そうするか」
「うん」
適当に晩御飯を済ませて帰りの電車の中ではじめちゃんに先延ばしにしていた話を切り出す。
「もう大丈夫だよ」
「今日はどうする?」
「はじめちゃん、うちからだと学校行くの大変でしょ」
「大して変わらない気もするが本当に大丈夫か?」
「うん。もう少し一緒にいてもらいたい気もするけど、これ以上はわがままかなって気がしてさ。そっちの方が気になっちゃうんだよね」
「いつも押せ押せで来るのに変なとこで遠慮するんだな」
「私も押してばっかりじゃないってことだよ」
「今更だと思うけどな」
「いいの。これ以上一緒に居たら離れられなくなりそうだもん。はじめちゃん依存症になっちゃうよ」
「そういうことか」
「うん。だから今日はひとりで大丈夫。はじめちゃんの着替えとかは明日お店の方に持ってくね」
「マンションの前まで送ってかなくて平気か?」
「平気平気。駅からタクシー使うから」
「ま、なにかあったら電話しろよ。すぐ行くからさ」
「うん。ありがと」
それから間もなく駅へと降り立ち、短い別れの言葉を告げて私たちはそれぞれの家路についた。




