第046話 生前想起06
「教えるまでもなかったな」
「そお?」
「不器用でも手際が悪いわけでもないし、調理器具の扱いもそれなりで味音痴ってわけでもないだろ」
「教えられた通りにやってるだけだよ」
「レシピを知らないだけって感じなんだよな。そんなものは調べれば済むんだから実質私が教えられることなんてなにもないよ」
「見直した?」
「出来ないふりでもしてたか?」
「えー、そういう結論出しちゃうの。私、そんなしょうもない嘘つかないよ。すぐバレるし」
「だよなぁ」
「うん。だから素直に褒めてくれていいよ」
「はいはい、えるちゃんは優秀ですね」
「なんか冷めてる」
「ほら、そんなことよりつくった料理が冷めちゃうから早く食べような」
はぐらかすはじちゃんの言葉に従い箸を手に取る。食卓に並ぶのは青椒肉絲・海藻サラダ・たまごスープの一汁二菜。私の普段の食事を考慮してか私の皿には野菜多めに盛られていた。
「量、多くない? たぶん食べきれないよ」
「そのときは私が片付けるよ」
「じゃあ、さっそく」
「まだ一口も食べてないだろ」
「味見はしてるから大丈夫だよ」
「なにが大丈夫なんだよ」
「不味くはないって保証済みだから安心して食べられるよ」
「一緒につくってたんだから知ってるよ」
「はい、あーん」
はじちゃんの口元に料理を運ぶと仕方ないなと諦めたようにそれをぱくりと口にした。
「おいしい?」
「そりゃね」
「そこは、おいしいって言っとこうよ」
「はいはい、おいしいおいしい」
いつものおざなりなはじちゃんの反応に満足して私は自分の食事をゆっくりと口にしていった。15分もすると想定していた通り、全部は食べきる前に満腹になってしまった。
「ごめん、もう無理」
「ちょっと張り切ってつくりすぎたかもな。一応ふたり分の分量でつくったつもりだったが」
「一品一品の量はいいんだけど三品となるとさすがにね」
「そういやうちの店で食事するときは毎度一品しか頼んでなかったもんな」
「はじちゃんがつくってくれる料理を食べきれなかったりしたらやだから余分には頼まないよ」
「ほら、こっちよこしなよ」
「残したのサラダだけだし、明日の朝にでも食べるよ。サラダなら一日くらい経っても平気でしょ、たぶん」
「そうか」
「うん。せっかくつくって貰ったんだもん」
「無理してまで食べるもんでもないとは思うが、お前がそうしたいんなら」
「うん。じゃ、空になった食器洗っちゃうね」
「今日は私がやるよ。今、満腹できついんだろ」
「じゃあ、お願い」
「はいよ。食休みしてな」
「うん」
洗い物をするはじちゃんの背中をぼんやりと見ていたときスマホが着信音を響かせる。誰からだろうかと画面を見るとママからだった。なにか緊急の用事だろうかと電話に出るとなにやら私が部屋に男を連れ込んでいるらしいとどこかから聞いたらしい。
「違うよ。ほら、ママも会ったことあるでしょ。はじめちゃんだよ。最近この辺りで不審者が出て怖かったからしばらくうちに泊まってくれるように頼んだの」
事情を説明するとママは一応は納得してくれた。しかし100%信用というわけにはいかず、はじちゃんと代わってもらった。それでようやくママは信じてくれたようで無事に通話は終了した。
「ひとり暮らし辞めて家に帰ってくるように言われるのかと思って焦っちゃったよ」
「ひとり娘だとなにかと心配なんだろうよ」
「はじちゃんも心配してくれる?」
「でなきゃ、今ここにいないだろ」
「だよね」
そんなことがあってから20分ほどして胃がこなれてきたので一番風呂に入る。長風呂をして上がるとはじめちゃんが随分と暇そうにしていた。
「お前いつも夜はなにしてるんだ?」
「ストレッチとかかな? あとスマホいじってるくらいだと思うよ」
「部屋にいないときは?」
「友達のうちで一緒にドラマ観てたり、彼氏の相手してたりかな」
「そういや、この部屋に入ったの私が初めてなんだっけか」
「うん。もしかしなくても、暇?」
「率直に言っちゃうと、そうだな」
「対戦ゲームでもやる? アプリ入れればすぐ出来るだろうし。アナログゲームの方がいいなら買いに行こっか。コンビニにもトランプくらいなら売ってたと思う」
「風呂上がって眠くなきゃちょっと試してみるか」
「うん。じゃあ、準備しといてあげる」
スマホを要求するように手を差し出す。躊躇うかなと思ったけれど、そんなことはなくロックを解除してすんなり渡してくれた。
「好きにいじっといてくれ」
とだけ言い残してはじめちゃんはお風呂へ。私は渡されたスマホの画面に目を落とす。インストールされていたのはSNSアプリが数個入っている程度でゲームなどはなにも入れられていなかった。
ちょっとSNSアプリの中を覗いてみたい衝動に駆られたけれど、さすがにそれは控えた。
とりあえず適当に対戦可能なアプリをいくつかインストールして私のスマホの方にも同様のアプリを入れてきちんと対戦できるかなどを確かめる。それらの作業は大して時間はかからなかった。
はじめちゃんがお風呂から上がってくる様子はない。手持ち無沙汰になった私ははじめちゃんのスマホで自撮りしてロック画面の壁紙に設定する。そんないたずらにどんなリアクションをしてくれるかなと思っていたけれど、はじめちゃんは画面を一目見るなり軽く肩を竦めて、なにも見ていないとばかりにスルーして淡々と壁紙を元に戻していた。
「コメントは?」
「かわいく撮れてたんじゃないか」
「ちょっと喜んじゃって悔しい。さっきの画像消したりはしてないよね?」
「ちゃんと残ってるよ」
「そっか、それならいいよ」
「そうかい。それはそうと聞き忘れてたことがあるんだけどさ」
「なに?」
「明日は遊園地行くとか言ってたけど何時出発でどこに行くんだ?」
「起きるのは今日と同じ時間で大丈夫だと思う。場所は着いてからのお楽しみね」
「じゃ、そろそろ寝た方がいいか。ゲームはまた今度な」
「うん」




