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いつか来世で約束を 01  作者: 朱本来未
絶命因果編
36/63

第035話 死者延命10

 その日は珍しくグウェンに朝早く起こされた。普段は魔力消費を抑えるため昼前に起こされている。それを不思議に思っていると彼は説明してくれた。


「今日は君に会わせたい人がいるんだ。昼過ぎに来る予定だから花壇の世話は早めに済ませてもらえると助かる」

「わかった」

「すまないね。私の都合に付き合わせてしまって」

「いいよ。大切な用事なんでしょう?」

「あぁ、私たちの末長い未来に関わることだよ」

「それじゃ、今のうちに済ませておくね」

「頼むよ」

「うん」


 魔力供給を兼ねた口付けをするとグウェンは部屋から出て行った。扉が閉まり、彼が完全に遠ざかるのを待ってから今日のような日のために用意しておいた小瓶をふたつ懐に忍ばせる。小瓶の中には変貌させた左手の爪先から生成した毒液がなみなみと満たされている。魔力効率が向上して以降、左腕の変貌の程度は変わらなかったが、鋭く尖った爪の先からわずかばかりの毒物を生成できるようになっていたのは幸運だった。


 怪しまれぬよう言いつけ通りに花壇の世話を終えて土で汚れてしまった服を着替えてから書斎にいるであろうグウェンの元を訪れる。私の姿を見ると仰々しく部屋へと招き入れて口付けた。


 それから数時間、彼は客人を待ちきれぬといった様子で、どことなく落ち着きがなかった。ようやく客人が訪れるとグウェンは「すこし驚かせてしまうかもしれないが我慢してくれると助かる」と言って玄関先へと向かう。彼の後ろに続き玄関先で迎えた客人はグウェンと同年代くらいの見知らぬ男性とキースだった。

 キースは私の顔を見て複雑そうな顔をしていたが、私はそんなことなどどうでもよかった。それよりも彼が抱えているものが気になって仕方なかった。彼が抱えた大きな包みは厳重なまでに幾重にも布で包まれていて、その内容物からは異能を発動していると思われる魔法力を放っていた。


「こうして顔を合わせるのは久しぶりだね、カイン」

「だな。しかし、グウェン。この屋敷少しばかり埃っぽくはないか? 庭も荒れ放題なようだし、人を雇って掃除でもさせた方がよくはないか。その程度の金はあるんだろう?」

「以前は住み込みで働かせていたが面倒が多くてね。今は10日に一度だけ人を入れて掃除させているが、それ以上の頻度となると邪魔でね」

「まぁ、私らの研究を思えばそれは仕方ないか」

「そういうことだよ。とりあえず上がってくれ」

「じゃあ、お邪魔させてもらうよ」


 グウェンの案内に従って私たちは応接室に向かう。私はここに初めて入るがキースはどことなく慣れた様子だったところを見ると御使いで訪れた際はここに通されていたのだろう。ぱっと見渡せる程度の室内にはテーブルとソファがあるのみでがらんとしていた。年長のふたりがソファに腰を下ろすのを見届け、私はグウェンの後ろに控えるように立っていたが、彼は隣に座るよう促したのでそれに従った。キースは大きな包みを抱えているため立ったままカインの指示を待っていた。


「それで、それが例の物なのかい?」

「あぁ、そうだ。キース、見せて差し上げろ」


 指示を受けたキースは包みをテーブルの上に置き、丁寧に包みを一枚また一枚と開いていく。中から姿を現したのは赤黒い胴体トルソだった。なぜこんなものをとよくよく見れば五体の断面からは、どくりどくりと血が滲み出しており、心臓からは異能の発動に伴う魔法力が放たれているのがわかった。そしてなぜ転生者の生存が不明であったかを理解する。確かにこれでは死んでいるとは言えず、また生きているとも言えなかった。


「生きて……る?」


 驚愕した表情をつくり、口元に手を当ててつぶやく。するとグウェンが安心でもさせるように「怖がることはないよ」と囁き、肩を抱き寄せた。


「心臓はまだ動いているようだが、残りの五体はどうしたんだい」

「これを買い上げた時点でこの状態でな、残念ながら五体までは手に入らなかったんだよ」

「しかし、こんな状態になっても生きているとはね」

「私も初めて目にしたときは我が目を疑ったよ。異界の生物、業魔ごうまなど眉唾だと思っていたんだがね」

「あと二体売りに出されていたようだが、私は手に入れることが出来なかったよ」

「稀少なようだからね。私はこれを入手したあともう一体手に入れる機会に恵まれたんだが、心臓が破壊されてしまっていてね。修復もままならなかったから残念ながら廃棄せざるを得なかったよ」

「肉体そのものを魔術触媒として使えなかったのかい?」

「どうもその個体は多量の毒素を含んでいたらしくてね。取り扱っていた弟子数人が犠牲になってしまったよ」

「そういうことか」

「それでもなかなか諦めきれなくてね。業魔ごうまの肉を鼠に与えてみたんだが、この世のものとは思えぬものに変貌したよ。まぁ、毒の影響ですぐに死んでしまったがね」

「この個体の血を与えた場合はどうなった?」

「変貌こそしなかったが、魔力を蓄えやすく、かつ術の影響を強く受けやすくなったよ」

「だからこそかい?」

「そういうことだ」

「それで完成したのか」

「一応な。ただこれまでの試作品と比べると精製に少々時間がかかっていてな。精製の終わった完成品は後ほど弟子がここへと運んで来ることになってる」

「そうか」

「それでそっちの成果物をそろそろ見せてもらえないか?」

「彼女がそうだよ」


 グウェンは私の肩をとんとんと軽く叩いた。


「なにをバカな。生きている娘を連れて来ただけではないのか?」

「確かめてみるといい」

「そこまでいうのなら」


 腰を上げて私へと距離を詰める男に身体を硬直させ、グウェンを見る。すると彼はすっと立ち上がり、場所を空けた。

 なんで? と困惑した顔を見せるも彼は大丈夫だと言わんばかりの表情を返すだけだった。

 数瞬後、見ず知らずの男の手が私の首筋へと伸びる。首元に見知らぬ人物の手が触れ、思わず身体をびくりと硬直させる。


「脈はないな。それに体温も感じられない」


 彼はそうつぶやくと今度は耳を私の口元へと寄せ「呼吸はしているようだな」と言った。そして身体を起こし、グウェンへと向き直ろうとして体勢を崩した。いや、崩されたようだった。

 直後、彼は首からぱっと血を散らしたかと思うとグウェンに背後からざくりざくりとナイフを何度となく突き立てられる。突然の凶行に私とキースは呆気にとられ、身動きひとつ取れずにいた。

 飛び散った生温い血が頬を這うように伝う感触が酷く気持ち悪い。ただそんなことだけが脳裏に浮かぶばかりだった。

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