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いつか来世で約束を 01  作者: 朱本来未
絶命因果編
35/63

第034話 死者延命09

 グウェンに文字を習い始めて十数日、独学でやろうとしていた頃とは比較にならないほどに識字能力は向上して時間をかければ本も読めなくはない程度にはなった。とはいっても知っている簡単な単語だけを拾って継ぎ接ぎした文章を脳内で補填しているので内容を正確には読み取れていない。それを証明するようにゲイルに頼まれた骸操術ネクロマンス関連の文献が都合よく書斎にあったのでこっそりと中を見てみたけれど専門用語が羅列されていてまともに読み解くことは出来なかった。それをゲイルは予測出来ていたから目次だけでもかまわないと言っていたのだろう。


 その程度の識字能力しか持ち合わせていない私だったが、報告書程度なら専門用語など使われてはいないだろうと判断してグウェンが私を殺した人物を探していたときに集めさせていた情報が記された資料を調べようとしたのだが全て処分済みだったらしく、なにひとつ残されていなかった。都合の悪いことでも記されていたのだろうかと勘ぐってしまうが、尋ねたところで彼は惚けるだろうとしか思えなかった。

 もう彼からは有用そうな情報が引き出せる気もしなかったので、自身の時間を確保するために文字を習うのはもう充分だと切り上げることにした。


「グウェンに時間を取らせてばかりいるのも気が引けるから読んでる本でわからないところがあったら質問にくるね」

「私は君のためにならいくらでも時間を費やせるから気にしなくていいよ」

「私が気にするの。グウェンにもちゃんとグウェンのためだけのことやって欲しいから。私は花の世話をしたりとか自分のやりたいことやらせて貰ってるし」

「君がそれを望むのなら私も趣味に興じてみるかな」

「うん。そのうちどんなものなのか教えてね? グウェンが趣味でどんなことやるのか楽しみにしてるから」

「あぁ、楽しみにしててくれ」


 これで今後は定期的な魔力供給のときのみ顔を合わせればいい。今日も今日で書斎を退室時に魔力供給も済ませたので充分な自由時間を確保出来たと花壇へと向かった。


 花壇に蒔いた種が発芽していた。ちょっと遅過ぎるくらいだったので世話の仕方を失敗したかと思ってところだったので安堵する。この種を渡した張本人は師匠せんせいの御使いで近いうちに来るかもしれないと言って以降姿を見せていない。


 グウェンと師匠せんせいの接点が途絶えてしまったのだろうか?


 などと考えているととすんと静かに敷地内に誰かが入り込んで来た。


「どうもっす」

「今日は御使い?」

「いえ、御使いは明日だったんすけどなしになったんすよね。師匠せんせいが直接ここのダンナと取引するらしいんで」

「同行もしないんだ」

「ですね。なんか大事な要件で俺ら抜きでの交渉らしいんすよね」

「ふーん。で、あんたはなにしに来たの?」

「花壇の様子を見にっすよ」

「それならあんたがくれた種が発芽したところよ」

「そりゃよかったっす」

「そ、なら草むしりしていきなよ。暇なんでしょ?」

「時間はどんな感じっすかね」

「私はまだここに来たばかりだからそれなりに」

「文字の勉強の方はどうっすか?」

「もう辞めちゃったわ」

「え、辞めちゃったんすか」

「誰かさんが教えるとか言ってたのにねぇ」

「あ、いや」

「冗談よ。簡単な本くらいは読めるようになったからあとは自分で勉強やることにしたの」

「それで例の件は」

「なしよ。見返りがなにもないんだもの」

「そうっすよね」

「たぶん、あんたが望んでいるようなものはなかったわよ。骸操術ネクロマンス関連の文献あったけど入門書みたいなものだったみたいだし」

「ここのダンナ、骸操術ネクロマンスに関して師匠せんせい並みに詳しいみたいなんでなかなかお目にかかれないような文献とか秘蔵してるんじゃないかと思ったんすけど、当てが外れたみたいっすね」

「そうなの?」

師匠せんせいの話だとそうみたいっすよ。俺自身はダンナが骸操術ネクロマンス使ってるとこ見たことないんでわかんないんすけどね」

骸操士ネクロマンサーって、みんな生骸ゾンビ動かしたり出来るんじゃないの?」

生骸ゾンビって言っても幅が広いっすからね。虫や四足獣の生骸ゾンビなら初心者でもそれなりに動かせるんすけど、人間を二足歩行させたりとかになって来ると一気に難易度が上がるっすね。歩かせられてもなんだかバランスをうまくとらせられなくて、酔っ払いみたいにふらふらした感じになっちゃうんすよ」

「じゃあ、生骸ゾンビに魔力供給するだけなら誰でも出来る?」

「魔力供給自体は誰でも出来るんすけど、上手く魔力を循環させられないと生骸ゾンビが簡単に腐っちゃうんすよね。こっちはこっちで動かすのとは別の技能が必要になって来るんすよね」

「そうなんだ。思ってたより難しそうね、骸操術ネクロマンスって」

「なんで俺もまだまだ勉強が必要なんすよね。虫くらいでしか練習出来ないから上達してるのかもよくわからないってのもあるかもしれないんすけどね」

「あんたはなにを動かす気なの?」

「自分自身っすよ」

「そんなこと出来るの?」

「わかんないっすけど、理論上は可能なはずなんすよね。生体のまま自身に骸操術ネクロマンスを施せれば、なんすけどね」

「よくわかんないけど、なんかすごそうね」


 それからゲイルはスイッチが入ったらしく、数分に渡って持論の力説していた。それを半ば聞き流しながら花壇の世話を済ませていると彼もさすがに私が興味を失ったそぶりをしているのに気付いたらしく、耳を赤くしていた。

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