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いつか来世で約束を 01  作者: 朱本来未
絶命因果編
31/63

第030話 死者延命05

 人身売買をしていた男が見つかったとグウェンに聞かされてから数日が経過した。あの日以降なにも有益な情報はもたらされていない。私が彼の前で演じている人物像のせいで、自分が殺されたという事実を恐れていなければならないことに加えて、彼に任せておけば安心だと思っているように立ち振舞わなければならないだけに聞くに聞けずにいた。


 その間、こまめに世話をしていた庭先の花壇は緑を濃くして蕾を付けたものもちらほらと見受けられるようになっていた。


 今日もいつもと同じように日が高くなった頃、花壇に水やりをするために庭へと出る。屋敷を出る直前に魔力供給してもらっているので活動時間に余裕は充分にあり、のんびりと作業にあたる。細かな雑草を抜いたり、もぐもぐと葉を食していた青虫を右手で摘み上げて垣根の方に放って取り除いたりとしているうちに思いの外時間が経っていた。

 そろそろ魔力残量が心許ないので作業も切り上げどきかと本日の手入れ最後の仕上げとして如雨露でぱらぱらと水を撒く。


「こんにちは」


 唐突に声をかけられ、水を撒くのをやめて顔を上げると先日の少年が鉄柵を隔てた向こう側に立っていた。ようやく来たのかという気持ちを押し隠して微笑みで応じる。


「こんにちは。うちになにかご用事?」

「こちらの旦那様に、うちの師匠せんせいからの言伝にお伺いしまして」

「もしかして居なかった? ついさっきまで書斎にいたと思うのだけれど」

「いえ、旦那様へのご報告は済みましたので、その帰りなんです」

「そうでしたか。お疲れ様です」

「ありがとうございます。それで、あの」

「はい。なんでしょうか?」

「こちらでなにをなさってるんですか?」


 彼は自身の印象をよくしようと言葉遣いに気を使っているせいか妙に堅苦しさを覚える。加えて見てわかるようなことをわざわざ尋ねてくる辺り、話題となるようなものはなにもなく話しかけるきっかけがなにもなかったのだろうというのがわかる。こういう手合いにこちらから水を向けるのは、あまりにも手間だった。


「青虫を探してたんです」

「青虫ですか?」

「えぇ、最近暑さのせいかあまり食欲がなくて、この炎天下でも青々とした葉っぱをおいしそうにもりもりと食べる彼らを見たら私も食欲がわくかなっと思いまして」

「最近暑いですもんね」

「今日の陽射しもかなりきついですし、今すぐ水浴びしたいくらいです。でも、ここにある如雨露だと花たちに水浴びさせてあげるくらいしか出来ないんですよね」


 答えながら中途半端になっていた水撒きを再開する。そうしてすぐに如雨露は空になり、水撒きを終えた。


「それじゃあ、お仕事頑張ってくださいね」

「あ、待ってください」

「はい。なんでしょうか?」

「お姉さんの名前を教えていただけませんか?」

「私のですか?」

「はい」

「エルですよ。あなたは?」

「あ、俺、いや、僕は、キースです」

「キースさんね。はい、覚えました。それじゃあ、また機会がありましたら」

「はい、よろしくお願いします」


 よくわからない返答をしてくるキースに背を向け、その場を後にする。彼が有能かどうかは未知数だった。相手をするのは面倒そうだけれど時間をかけて誑し込む必要がないだけましだと言えた。

 年の頃は16前後と若く純情そうで、きっかけを掴もうと私に話しかけてこれる程度には奥手ではなく、それなりに行動力はある。一度言葉を交わしたことで次回からは少なからず砕けた調子で話しかけてくるだろう。そのためになにかしら話題を用意してくるだろうけれど、さっきの話を真に受けて青虫を捕まえて来そうな気がしなでもないだけに、あの切り返しは失敗だったかも知れない。ただ彼の様子から煽てて唆せば多少の無茶くらいはしてくれそうだった。


 下手に引き止められたことで魔力切れ間近となり、どうにかこうにか屋敷の中までたどり着く。その足で書斎に居るグウェンの元へ行くと彼は、なにやら考え込んでいた。普段なら私が入室した時点で気付くはずなのだけれど今日はそうではなかった。


「グウェン」


 そう呼びかけて私が書斎に来ていることに気付いたくらいだった。先ほどの彼がなにか重要な情報でももたらしてくれたのかも知れない。


「あぁ、すまない。少しばかりぼんやりしていたようだね」

「疲れてるの? 大丈夫? 無理してない?」

「大丈夫だよ。君はなにも心配する必要はないよ」

「うーん、心配くらいはさせて欲しいかな。今の私にはそれくらいしか出来ないから」

「ありがとう。その気持ちだけで元気になれるよ」

「本当に?」

「本当さ」


 グウェンは椅子から立ち上がり、私の元へと来るなり口付けて抱き締めてきた。私はそれに応えるように彼の腰に両腕をまわして、上目遣いに彼の顔を見上げた。


「ちゃんと休んでね。最近なんだか無理してるみたいだから」

「そう見えるかい?」

「うん」

「君にそう見えてしまっているのなら私の落ち度だね。きちんと休むよ。君の目の届くところでね」

「そうしてもらえると助かるかな」

「わかったよ。今夜は私の部屋に来てくれるかい」

「うん、わかった。先に寝てちゃダメだよ」

「休ませてくれるんじゃなかったのかい?」

「どうだろうね」

「大丈夫、起きて待ってるよ」

「それじゃ、私は夜まで休んでるね。グウェンに何度も魔力貰いに来てちゃ、余計に疲れさせちゃうしね」

「私の方は、いつでも大歓迎だよ」

「ダメ、また夜にね」


 それだけ言い残して私は自室へと戻る。魔力消費を抑えるため眠るように意識を一時的に閉ざした。

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