第028話 死者延命03
「ねぇ、グウェン。くっつき過ぎじゃない?」
「なにがあるかわからないからね」
「殺されたばかりだから仕方ないかも知れないけど」
これまで彼は私事には一切干渉してこなかったから自由に動き回ることが出来ていただけに面倒極まりなかった。だけれど今の身体が抱えた欠点を考えると彼を遠ざけるわけにもいかないだけに転生者の情報収集は遅々として進んでいない。それもこれも生骸の身体が魔力を自己生成出来ないにも関わらず活動するのには魔力が必要不可欠なためだった。そのため私は迂闊に単独行動も出来ずにいた。
「そろそろ魔力供給が必要なんじゃないかい?」
「さっき魔力供給してくれたばかりじゃない。しばらくは大丈夫だよ」
「わかっているよ。ただ君に触れる口実が欲しくてね」
「あんまりべたべた触られたら、この身体壊れちゃうよ」
「あれから私も独自に骸操術を学んで生骸の治療法も心得ているから安心して欲しい」
「そういうことじゃないんだけどな。でも、うん、ありがと」
「君のためだからな。それに君を生骸にした男の痕跡を追って行く過程で情報が入ってくるからね」
「あのひとの居場所わかったの?」
「それがさっぱりなんだよ。彼が人体売買を生業にしていて、その彼と取引していたらしい人物は数人ほど見つかったが、そちらも失踪していたりでね」
「失踪? 後ろめたいことでもあったのかしら」
「人体売買は違法行為には違いないからね。彼が消えたことで身の危険を感じたんだろう」
「もし私も意識が戻らなかったら売られてたのかな」
「どうだろうね。生骸化していたくらいだから自分で使役するつもりだったのかも知れないが可能性はないとも言えないかな。とても許せることではないが」
グウェンの情報収集能力からして遠からず私が彼に商品を提供していたことにたどり着きそうだけれど、どう対処したものだろうか。
今の私に夢魔のような精力強奪能力でもあれば生骸化した私でも楽に立ち回れるだけの環境を外部に構築出来ているだけに、それを腐らせている現状は勿体なさ過ぎた。
「そういえば、調べていてひとつ気になる情報があったんだよ」
「気になる情報?」
「彼が取引していた商品の中に人間ではないものが混じっていたようなんだ。しかし、どうも動物でもないようでね。リスト上では業魔と記されていたんだが、あれは一体なんなのだろうな」
既に私が彼と繋がっていたことまで突き止めているのだろうか? 知っていて聞いてるのかと疑いたくなる情報の切り出し方だった。
「なにかの暗号なのかな」
「取引リストには過去3度しか表記されてなくて、他の数十から数百倍の値が付いていたから魔術士の遺体かなにかなのかも知れないね」
「普通のひととなにか違うの?」
「魔導具の材料や魔術の触媒として最適らしくてね。欲しがる人はそれなりにいるそうだよ」
「なんだか怖いね」
「そうだね。もうこの話はやめよう」
そう言って彼はひとを雇って集めたさせた情報を記した紙束を片付け始める。なにが書かれているのか気になるところだけれど、この世界では幼少期を劣悪な生活環境で育ったため識字能力に欠けていた。
自力でどうにかしようとしたこともあったけれど、どうにか出来るような代物ではなかったので過去に「文字を読めるようになりたい」とグウェンに頼んだことがあったが、彼は「私が君の代わりに読んであげるよ」などと言って教えてくれようとはしなかった。
「グウェン」
「なんだい?」
「私に文字を教えてくれないのはなにか理由があるの?」
「理由かい? 君のために文字を読んであげられなくなるからだよ」
「その紙もなにが書いてあるのか気になるよ」
「さっき伝えた通りの内容だよ」
「どうしてもダメなの?」
「そんなに哀しそうな顔をしないでおくれ」
「泣いたら教えてくれる?」
「ずるいなぁ、君は」
「だって生骸になっちゃってから外に出れないし、やれることないんだもの」
「それはどうにかしてあげたいが」
「じゃあ」
「わかったよ。この件が片付いたら私が教えてあげよう。この役目は他の人には譲りたくはないからね」
「うん。楽しみにしてるね」
はぐらかされた気もしなくもないが、これ以上喰い下がっても無駄だろう。どうあっても彼は教える気はないらしい。無知な女が好みだとかそういうことなのだろうか?
などと考えていると視界が暗くなってきた。
「グウェン、お願い」
と手を伸ばして彼の袖をつかむ。すると彼は椅子から立ち上がり、私の傍に来るなり口付けると同時に魔力を供給してくれた。
こうして彼から魔力をわけてもらっても意識は3時間程度しか保っていられない。身体を動かそうものなら1時間と保たなかった。
どうも肉体が腐らぬよう保持するのに魔力を消費しすぎるらしく、勝手に休眠状態に陥るらしい。その状態でなら半日は再供給の必要はないとのことだったけれど意識が途切れていては意味などなかった。




