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いつか来世で約束を 01  作者: 朱本来未
絶命因果編
28/63

第027話 死者延命02

「お迎えありがと。グウェン」

「あ、あぁ、無事でよかったよ。しかし、なぜ裸なんだい?」

「あなたの後ろの彼、治療師なのよ。致命傷だった私の傷を治してくれたの」

「そうなのか?」

「えぇ、三日三晩不眠不休で治療に当たらせていただきました」

「すまない、妙な勘ぐりなどしてしまって」

「私がこのような風体ございますからね。お気になさらず」

「そういうわけにはいかない。妻の命の恩人だというのに」

「それが私の仕事でございますから」

「仕事か。そうだな。今は手持ちが少ないが、礼金としてひとまずこれを受け取ってくれないだろうか」

「では、頂戴させていただきます」

「妻の命の価値を思えば足りないほどだ。後日、不足分を払わせてくれ」

「いえ、既に充分以上でございますよ」

「しかし、それでは」

「グウェン、あまり彼を困らせるものではないわ」

「そうか、エルがそう言うのなら」

「ごめんなさい、治療師の先生。彼、私のこととなると周りが見えなくなってしまうので」

「いえいえ、旦那様の気持ちは私にも痛いほどわかりますので」

「それで先生、出来ればさきほど頼んだものを……」

「申し訳ありません。こちらに用意してあります」


 そうして彼は着替えの服などをベッドの側に置く。その際に私は小声で「芝居に付き合わせて悪いわね。彼、頭がかなりおめでたいのよ」と囁いた。それを耳にした彼は心得ているとばかりに無反応を貫き通して部屋を出て行った。


「グウェン。あなたも部屋を出てくれると、その……」

「すまない。見惚れていまっていた」

「そういうのは、また今度ね」

「そうだな。場をわきまえねばな。着替えが済んだら教えてくれ」


 ようやく彼は部屋から出て行ったので手早く身体を清める。体表面はリンナに使わせた五衰除けの加護の効力が残っているらしく汚れていなかったのは幸いだった。

 身体を清め終えて着替えに袖を通す。私の遺体を引き取っただけあって服のサイズは身体にぴったり合っていたが服の趣味が少々可愛過ぎる気がしないでもなかった。


「お待たせ」

「よく似合ってるよ、エル」


 言うなり私を抱きしめようとするグウェンを片手で制して正面の相手へと頭を下げる。


「先生、ありがとうございました。術後報告でなにかとお伺いすることもあるかもしれませんので、そのときはよろしくお願いします」

「わかりました」

「では、失礼します」


 その場を後にして家路を歩みながら周辺の景色をしっかりと目に焼き付けていく。


「ねぇ、グウェン。ちょっと聞きたいことがあるのだけれど、いいかな?」

「なんだい?」

「あなたは私がどうなったって噂で聞いて探してたの?」

「あぁ、私の留守中に君が仕事の取引相手に縊り殺されたと」

「その犯人は、もう捕まった?」

「いや、まだなんだ。私の手で斬り殺してやりたいところなんだが行方どころか正体も掴めなくてね」

「私が死んでないって知ったら、もう一度殺しに来たりしないかな?」

「大丈夫だよ。君を殺そうとした犯人を斬り捨てるまで私が君の傍を離れることはないからね」

「頼りにしてる」

「任せてくれ」

「ありがと。それとね、もうひとつ聞きたいことがあるのだけど、どうやってあの治療師の先生を見つけたの? 私も全然知らない場所だったのだけれど」

「あぁ、あそこは君が殺されたっていう宿屋の主人に聞き出したんだ。なんでも君の死体を買い取ったひとがいたってね」

「死体を? 私は生きてるのに?」

「だから最初は犯人なんだと思ってたんだよ。でも君は犯人の顔を見ているだろうから彼が君を殺したわけじゃないというのはわかるんだけどね」

「うん」

「しかし、本当にどこにも違和感はないのかい?」

「ない……と思う」


 手を握ったり開いたりしてみせる。するとどういうわけか先程確かめたときとは違って指関節に違和感を覚えた。


「あれ?」

「どうしたんだい?」

「なんだか身体が動かしにくくて」


 直後、がくんと膝が抜けて身体を支えきれなくなる。それをとっさにグウェンが支えた。


「エル、やっぱりどこか」

「え、どうしてだろう。わからない」


 そんなことを言ってる間に身体からはどんどんと力が抜けていった。


「命の危機に瀕するほどの怪我か完治したばかりなんだ無理が出たのかもしれない。ひとまず屋敷へ急ごう」


 グウェンは私を抱き上げるなり、街道を駆け出す。私は彼の腕の中で次第に意識が遠退き、屋敷に着く前には完全に気を失っていた。


 次に目を覚ましたとき私は見慣れた部屋のベッドに寝かされており、そんな私の左胸にはなぜか大きな手が添えられていた。


「グウェン?」

「よかった。目が覚めたんだね」

「どうしたの? なんだか泣いてたみたい」

「気の所為……いや、そうかも知れないな。これから君に告げなければならないことを思うとね」

「告げなければならないこと?」

「あぁ、街の治療師を呼んで症状を診てもらったんだ。するとどうやら君は本当に死んでしまっているようなんだ」

「死んでる? 私が?」

「君自身の胸に手を当ててみるといい。君の心臓はもう動いてはいない」


 言われるままに自分の左胸に手を添え、わずかに首を傾げて尋ねる。


「停まってるの?」

「あぁ。君を治療してくれた男がいただろう? 彼はどうやら治療師などではなく骸操士ネクロマンサーだったようなんだ。君を見つけた場所にもう一度行ってみたんだが既にもぬけの殻だったよ」

「それって私が生骸ゾンビになったってこと?」

「そういうことになる。普通なら自我が戻ることはないそうなんだが、君は違ったらしい」

「死に直した方がいいの?」

「そんなことさせられない。どうにか生き返らせる方法を探してみせるから待っていて欲しい」

「問題ない気もするんだけど、今の私じゃ嫌ってこと?」

「君は気にしないのか?」

「死んだ気がしないもの」

「そういうことか。君がそう思うのなら私もそう思うことにしよう」

「うん」


 局長が私を殺し治すと言っていた意味を理解する。なにかデメリットがあるのかも知れないが、駆除し損ねた転生者の息の根を止めるまで身体が保てばいいのだから問題などまるで感じなかった。


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