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いつか来世で約束を 01  作者: 朱本来未
絶命因果編
27/63

第026話 死者延命01

 男が呻く。下腹部に異物感と不快な生温さを感じ、まぶたを押し上げると私は男に伸し掛られていた。眼前にある男の顔を睨み付けると彼は驚愕に目を見開く。直後に私は覆い被さっていた男の腹部に蹴りを入れ、強引にベッドから叩き落とした。


「ひとが寝てる間に随分と好き勝手してくれたようだな」

「姐さん、どうして」

「どうして? それはお前が言う台詞か」

「いえ、その、姐さんは死んだはずじゃあ」

「死んだ? なにを意味のわからないことを。そもそもここはどこだ」

「ここは、その、私の家でございます」

「どういうことだ?」

「えー、なんといいますか。姐さんは7日前に亡くなられたのですが。その遺体を私が引き取らせていただきまして、えぇ、はい」

「死んだ? 7日前に? 私の身体が腐ったり損傷してる様子はないが謀ってるんじゃないだろうね。薬で昏倒させてここまで運んできたというのならまだ納得出来るが」

「どう証明させていただいたらよいかわかりませんが、かなり念入りに殺されてまして。寝ているところを縊り殺され、さらに首筋の血管を切断さた上に肺と心臓を刺し貫かれておりまして」

「その割には傷ひとつ見当たらないようだが。そもそも死体には治癒魔術など効かないことくらいお前でも知っているだろう。嘘をつくならもっとましな嘘をつけ」

「いえ、その、本当に嘘ではないのです。私の仕事柄どうにか商品の価値を損なわぬよう損傷した遺体を修復するすべなどないものかと骸操士ネクロマンサーの先生に手ほどきしていただいたことがありまして」

「そのすべとやらを具体的に説明してもらえるか? 吹かしとしか思えんのでな」

「それで信じていただけるのでしたら」

「あぁ、信じてやるとも。だから早くしろ」

「では、わずかばかりお耳を拝借させていただきます。骸操士ネクロマンサーの方は生骸ゾンビを使役していらっしゃいますでしょう。それが損傷した場合どう修復されているのか尋ねてみますと治癒魔術だとおっしゃる。なにをバカなことをとさらに踏み込んで聞いてみましたところ、生骸ゾンビではない遺体は心臓が停止しているために魔力が全身を循環していないから腐るとのことでして、では循環させるとどうなるのかと問いましたところ、なんと意思がないだけで生者と同様の反応を示すようになるとのこと。試しに私も自前の魔力を遺体の血管を介して循環させながら治癒魔術をかけましたところ、なんと驚くことに傷がみるみる治癒したのでございます。しかも、その治癒魔術が奇蹟とも呼ばれる再生魔法並みの効果を発揮するとあってなお驚きましたよ」

「くどい。もう少し噛み砕いて話せんのか、お前は。とにかくなんだ、死体を騙して治癒魔術を施したらよく効いたということか」

「えぇ、まぁ、はい、そんなところです」

「で、お前は私を殺したやつに遺体を売ってもらったというわけか。7日間お前がナニに私を使ってたかに関しては今更とやかく言わないが、お前が買い取った金額の3倍は出してやる。私の所有権を引き渡せ、ついでに清潔な湯と布それと着替えもだ。足りないなら追加で払ってやる。可能なら私を殺したやつの情報もよこせ」

「所有権はタダでお譲りします。ですから、その、情報についてはご勘弁いただけないでしょうか」

「さすがに今後の商売に響くか」

「ですから、ご勘弁していただけると」

「まぁいい。それで手を打とう。しかしなんだ、再生魔法並みの効果を発揮すると言っていた割には私の古傷は治さなかったようだな」

「その傷も含めての姐さんですので」

「まぁ、なんだ。お前の趣味や性癖に関してとやかく言うつもりはないが、とりあえず他を当たれ。それと服を早く持ってきてくれ、いつまでこの格好でいさせる気だ」

「申し訳ございません。すぐ用意しますゆえ、しばしお待ちを」


 ようやくひとりになり全身の各部関節に違和感や切傷・刺し傷のあったという箇所の皮膚のひきつれなどがないかを調べる。伝聞情報で7日間死亡していたという割には身体のどこにも不具合はなかった。だからか、どうにも疑わしくて別の世界で出くわした記憶操作の異能と同種のなにかによる影響でも受けているのではないかとさえ思えた。

 なにか他に確かめる方法はないものかと頭をひねっていると室外から口論しているような声が聞こえてくる。ひとりはここの家主である先程の男のようだが彼相手に鋭い口調でまくし立てている人物の声はどこか聞き覚えがあった。

 声は屋外からしているようだったので窓から顔を覗かせて声のする方へと視線を向ける。すると玄関先で家主と口論しながら家屋の中をどうにか窺おうとしていた男と目が合ってしまう。彼は私の姿を認めると声を張り上げて両手をぶんぶんと大きく振って主張してきた。私はそれを無視して窓とカーテンを閉めた。

 過去の経験から彼をここへ誘い込むには、これが一番効果的だった。現に階下から家主が制止する声が響いてくる。それを振り切るようして誰かがこちらへとずんずんと近付いてきて、勢いよく扉を開く。


「無事だったんだね、エル。迎えにき──」


 彼は一糸纏わぬ私の姿を目にして最後まで言葉を紡ぐことが出来ずに口を噤んで硬直した。

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