第020話 精神侵食07
「さ、話してくれよな」
「なにを?」
「異世界のことだよ、異世界の」
「この世界の生まれだっての」
「前世の記憶とかそーゆーのがあるんだろ?」
「あると思う?」
「思うね。じゃなきゃ、お前さんが失言するのを長々と待って、交渉材料になりそうなもの用意したりとあたしの十数年に渡る苦労が水の泡じゃないか」
「随分と気長に私と付き合ってたのね。あきれるわ」
「こんなチャンスをみすみす逃す気はないからな。ショータは異世界の記憶が一切なかったからあとはお前さんだけなんだよ」
「そもそもさ、話せると思う?」
「監視でもされてるってのか?」
「されてるのかな? ここって既にかなりの影響を受けてるから制限自体は緩いみたいだけど。いつもなら、あの言語も使えないし」
「その左腕切り離したら制限外れたりしないか?」
「あんたのために腕切り落とせっての? 冗談でしょ」
「なんでもいい。その制限内で異世界のこと聞かせてくれ」
「あんたが欲しがりそうな技術的なことはなにも話せないわよ。話せるとしたら日常的なことくらいよ」
「それでいい。むしろそれでいーぞ。技術的なことに関しては、ひーじーさんが色々と遺してるしな」
「あぁ、そういうことね」
そうして請われるままにかつての学生生活などについて話す。ところどころ記憶が制限されているのか思い出せない箇所もあったがロジィは充分に満足させられた。
「なるほどな。で、なんで今はこんなことしてるんだ?」
「死んだからでしょ。どうやって死んだのかなんて覚えてないけど」
「いやいや、そこじゃねーよ」
「うん?」
「お前さんもあたしのひーじーさんと同じで普通に学生生活を送ってたんだろ。それがなんで他の異世界人を殺すなんてことをしてるんだ?」
「仕事だから」
「仕事? 今回が初めてってわけじゃねーのか」
「何度目かは覚えてないわ」
「なんかおかしくねーか」
「なにが?」
「普通の学生だったお前さんが仕事だからと割り切って他人を殺せるようになるのか? 異世界で生活していた頃の話を聞いた限り、ひとを殺せそうもない人間に思えたぞ。ショータのことも遠ざけようと腐心してるみたいだったから暗殺染みたことを無理やり押し付けられて躊躇ってるんだとばかり思ってたんだが。その左腕、お前さんの情緒面にも作用してるんじゃないか」
「いや、それは、どう、なの?」
指摘され、私は戸惑いを覚える。本当にロジィの言っている通りなんだろうか。
「仕事に関して制限されてない範囲で全部聞かせてくれねーか」
ここ最近のリンナたちへの不信感も手伝って、ロジィの言葉に応じるように口を開く。するとどういうわけか言動を制限されることはなく、顕界文明管理官としての仕事に関して全て話せていた。
「二勢力間でひとの命使ってゲームしてるとしか思えねーぞ」
年齢を保持したまま転生させられる者は、強靭な肉体と異能を付与される。それはショータたちのことだが彼らは私のような転生者から命を狙われていることを知らない。
対して私は異世界で生まれ直して長い月日をかけて社会的な基盤を構築することが出来るが、人並みの肉体と能力しか与えられていない。しかし、標的の情報を前もって与えられている。ただ宣告なしで一方的に殺すことは出来ず、殺すための条件が設定されていた。
これらのことを踏まえてロジィは二勢力間でのゲームなのではないかと言った。
「あといくつか気になったことがあるんだよな」
「なに?」
「まずひとつ目だが顕界文明管理官についての情報が制限されてないのはおかしくないか? それがお前さんの妄想だったら制限もなにもないとは思うが、そうとは思えないんだよな」
「それは私にもわからない。制限されてると思ってたのに、なにひとつ制限されてなかったから」
「だよな。それでふたつ目なんだが、その左腕の暴走って明らかにルール違反だよな。ショータは異能を使ってないにも関わらず問答無用で殺しにいってた。しかも、お前さんの意思を無視してだ」
「あれも私にはわからない。初めてのことだったし」
「これもか。それとみっつ目。ショータの記憶を消す意味はあったのか? 話を聞く限りショータの年齢で持ち合わせる知識だけで転生魂魄特別措置法とやらにひっかかることはないだろし、その対策とは思えないんだよな」
「より強い異能与えるための条件かも知れないけど」
「これが本当にゲームなら制限をきつくした分だけ有利に進められるような異能を与えられても不思議じゃないが、ショータはそもそも異能を使えていないしな。それとも自覚してないだけで発動自体はしてるのか?」
「あの子からそういった魔法力は感じないけれど、以前も異能を使えない転生者はいたから」
「異能じゃなく、別のところに優位性を与えてるなんてことはないか? 例えば言動の制限を撤廃するとかな」
「それで私の言動が制限されてないってこと?」
「ありえなくはないと思うんだよな。憶測でしかないが、ショータ側の運営者は今回の勝負を捨ててる。その代わり、お前さんに運営者に対する不信感を植え付けようとしてんじゃねーかな」
ロジィの言っていることが本当のことのように思え、私は困惑する。
「転生者が条件を満たさない場合は手出しする必要はないんだよな?」
「えぇ、天命を全うするまで見届けることになるけど、大抵は無理やり異能を使わせるか、異世界の知識を披露させて駆除することになるわ」
「そういうことか。なら今回は、わかるよな?」
そう言ってにやりと笑うロジィに気押され、私はこくりとちいさく頷いた。




