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いつか来世で約束を 01  作者: 朱本来未
絶命因果編
20/63

第019話 精神侵食06

 ショータが寄宿舎へと入り、2年が経過した。

 左腕が暴走して以降、彼とは年に数度顔を合わせる程度になった。その度に私は私ではないなにかに蝕まれた。幸いにも主導権は私にあり、意識的に拒絶することは出来たが次第に私の左腕は動かなくなっていった。そうして今となってはもう指先ひとつ動かすことすら叶わなくなっていた。


「ちょっと見て欲しいものがある」

「なに?」

「これなんだけどな」


 そう言ってロジィがテーブルの上に置いたのは『くろがね しょうた』と記されたネームプレートだった。


「どうしたの、それ」

「ショータを見つけたときにな」

「そんなものあったかしら」

「あたしが隠してたからな」

「なんでまたそんなことしたのよ」

「思うところがあってな。それは追い追い話していくが、お前さんはここに記されてる文字は読めるよな」

「えぇ、まぁ」

「どこで知ったんだ?」

「どういう意味?」

「このショータが使っていた言語の文字をどこで見たんだってことだよ」

「さぁ、どこだったかしらね」

「話せないか。話せないなら話せないでいいんだよ、別に。そんな気はしてたからな」

「なにが言いたいの」

「お前さんは、ショータがどこから来たと思うよ?」

「見当も付かないわ」

「異世界だよ」


 一瞬、どきりとして黙り込みそうになったが即座に切り返す。


「異世界ってなによ。バカにしてるの」

「至って真面目だぞ。お前さんもさ、原初の魔砲使いは知ってるだろ?」

「この街で暮らしてるなら知らない人はいないでしょ」

「お前さんにも話したことはなかったが、その原初の魔砲使いはあたしのひーじーさんなんだよ。あの人の遺した手記に書かれてたんだよ。異世界についてな」

「単に耄碌して、妄言書き殴ってたのかもよ」

「それはない。耄碌する前に逝っちまってるしな」

「で、それがなんなの」

「これは別に重要じゃない。異世界があるってことを知っててもらえばいいからな」

「じゃ、なによ」

「生前、ひーじーさんは命を狙われたことがあったらしい。狙われた理由は異世界から来たからだそうだ。しかも、その狙って来た相手は、まだ年端もいかないような少年だったらしいんだよな」

「らしいらしいって、なんとも頼りない情報ね」

「あたしが生まれる前の話だしな」

「それで、それは私が異世界とやらの言葉を知っていることとなにか関係あるわけ?」

「お前さんはショータを殺すために、この世界に来たんじゃないかってことだよ」


 核心を突く言葉だったが、なにをどうしたらそんな結論に達するのかまるで理解出来ない。


「私とショータの年齢的に順序が不自然でしょ。どうしたらそんな結論になるのよ。あんたのことだから私があんたと出会う前の素性とか生い立ちも調べてあるんじゃないの」

「産まれてすぐに変性型殻化症と診断されて所有権が親から学園に譲渡されてる。きっちり書類も残ってたし、それは間違いない」

「所有権ね」

「他意はない。今は話を優先して進めさせてもらうぞ」

「どうぞ」

「公式の書類上はそうなってるが、実際には変性型殻化症ではなかった。それは初診時に証明されてる。これに関しては事前に情報があったから診断出来たことらしい」

「事前に?」

「そう事前にだな。あたしのひーじーさんは原初の魔砲使いなんて呼ばれちゃいたが、能力の本質はそこじゃなかった。他に類をみない異能、予知能力を持ってたのさ」


 それなら今のような状況になっているのも納得出来なくもなかった。思い返して見るとショータを発見したときの状況も半ばロジィがお膳立てしたものだった。だとしたら彼女がショータに真っ先に駆け寄ったのも頷ける。おそらくあのとき彼女はショータに昏睡の魔術をかけていた。それを私に悟られないよう動揺したふりをして私の目を欺いた。街に到着して彼女が揺することでショータが都合よく目を覚ましたのも触れた際に施していた魔術を解除したからに他ならなかった。


「その異能でどこまで予知されてるの」

「ショータがお前さんに殺されるまでだよ」

「で、私をどうしたいの?」


 するとロジィはテーブルにごとりと何かを置く。それは肉厚で幅広の腕輪だった。


「なにこれ、手枷?」

「お前さんは自分の意思で左腕の異形化を抑えられるんだよな?」

「まぁ、そうね。その所為で左腕は使い物にならなくなっちゃったけど」

「みたいだな。だからその腕輪に魔杖筒バレルの技術を転用して腕の動作を補助する術式を刻印しといた。腕は動かなくても魔力自体は扱えるんだろ?」

「一応そうみたいだけど、なんのつもり?」

「ショータを殺そうとする原因の異形化を抑えられるんなら片腕を使えないの不便かと思ってな」

「ふーん」

「試してみろよい」

「ま、断れないしね」


 と素直に従って腕輪を付け、魔力を流し込んでみる。するとなにか薄い膜のようなものが腕全体を覆った。


「使い方わからないんだけど」

「腕を覆うように発生した薄い膜状の力場を操作して強引に指や腕を動かすんだが、慣れないとまともに動かせないかもな」

「魔力式の強化外骨格なのね」

「そんなところだな」

「ありがたく使わせてはもらうけど」

「デザインが好みではないとかか? 取り急ぎ今はそれしかないから、しばらくはそれで我慢してくれよな」

「そうじゃなくて」

「なんだ、まだなにもしてないのに罰されたいのか?」

「別にそういうわけじゃないけど、私を放置するわけにはいかないんじゃないの。その予知の関係で」

「未然に防げるなら文句は言われないだろ。予知はあくまで予知だからな」

「家の人たちに怒られるんじゃないの?」

「結果は出してる」


 確信に満ちた顔で断言するロジィの顔をみて、正体を看破されてしまった私は今後どう立ち回るべきかわからなくなっていた。

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