8 確認して確信する
すごーい、もう終わった。
自由時間なくなる覚悟だったのに、ほんの四半時かからず食堂の掃除は終わってしまった。ウォルター様の手際がいいのと、圧倒的に力があるからだな。力持ちがいると仕事の効率が違うわあ。
ウォルター様、そんなにムキムキな人じゃないのにな。でもめくったシャツからのチラ見えの二の腕は、鍛えられた人のそれだ。なんせ騎士様だからなあ。ただの顔のいい兄さんじゃないもんなあ。
ジロジロ見てたら、ウォルター様に訝しげに睨まれてしまった。
「なんだ」
「いやあ、騎士様の力は大したものだと」
「……騎士の腕力は掃除のためにあるわけではない」
「椅子やバケツの重みに耐えられる無限の腕力は称賛されるべきです。いよっ、騎士様っ、ナイスー!
おかげで助かりました。ありがとうございました」
「いやまあ、これでお前と話す時間が取れただろ」
「……?
私と話す時間ですか? そもそもウォルター様はどうしてここに?」
「キキを探してた」
「ありゃ、ホントですか。実は私もウォルター様を探してました。ウォルター様に個人的にお聞きしたいことがあって」
私の言葉にウォルター様は一瞬目を見開いた。「個人的に……」とか呟いてる。そわそわして見えるのはなんでだろう。
まあ座れ、とウォルター様が椅子をすすめてくれるので、大人しく座る。すぐそばでウォルター様も座った。やっぱりちょっとそわそわしてるように見えた。
「キキの話から聞こうか」
「あ、いいんですか? ではお言葉に甘えて」
「ああ」
「私、前から、そうじゃないかなーっと思ってて。ちゃんと確認しておきたかったんです」
「なんだ?」
「ウォルター様の素振りが、そうだよって伝えてくるんで。憶測から確信に変わったっていうか」
「だから、なんだよ」
「ウォルター様って、好きですよね?」
私は直接ガツンと聞いてみた。キヨラ様のこと、好きじゃないわけないもん。確実に好きなんだって、言葉でもらわないと。
ウォルター様は目に見えて狼狽した。背もたれに背中を押し付けて慌てている。
お、ビンゴ!
私はぐぐっとウォルター様に顔を近づけた。
「やっぱりそうでしょ?! そうだと思ったんだよねー」
「おまえっ……突然そんな、直接的にっ」
「だってあの距離感であんなに気のある素振り見せられたら、絶対好きに違いないって思いますよー」
「……は?」
「いつも無愛想な無表情のくせにー。急に優しくされたらときめくでしょー」
キヨラ様に優しく手を貸したりとか。魔の森の中でも、何度も疲れてないかとか休憩が必要かとか、そりゃもうこまめに気を遣ってたし。キヨラ様なんかぽわっとしちゃって可愛かったんだから。
ウォルター様はなんだか納得いかなそうに首を傾げている。
「いや、そんなに。あからさまに、などしていない。いないよな……」
「おいおい天然かよっ! レアタイプの逸材かよっ!」
「何言ってんだ?」
「でも好きなんでしょ? 好きなんですよね? 四六時中考えちゃうくらい大好きで、自分の好きを止められないんですよねっ?」
熱い想いを隠すことないんだぞ、コノヤロー。むしろどんどん出していけ。私が見たいし聞きたいから!
私が目力を込めてさらに近づくと、ウォルター様は私から顔を背けた。
そして、うーと唸り声を上げた。
「……そこまでのつもりは、ないが……」
「ないが、なんですかっ」
「………………気になっている、かもしれん。
と、最近思い始めていたところで」
「ハイ、キター!!」
私は立ち上がって拳をあげた。
キヨラ様、やりました!
キキは言質を取りました!
ウォルター様は、キヨラ様のことが好き、のスタート地点に立ったところです。オンユアマークセット、まできています。あとはGOと声をかけるのみ!
私が鼻息も荒く拳を振り上げていると、ウォルター様は呆れたように声をかけてきた。
「キキお前。こんな時でもおちゃらけるんだな」
「何を言ってるんですか。キキは本気です!」
「……本当に。
そういうところが……気になるというか……いつも目で追わざるを得ないというか……」
「なんですか? 聞こえなかったです。もっと大きな声で。さん、はい!」
「言うかそんなもん!」
「ウォルター様の声は、もともと低くて聞き取りづらいんだから。告白するなら大きな声にしてくださいね。オーディエンスが納得しないですよ」
観客代表・キキとしては、ちゃんと聞き取れる音声で告ってほしい。ここ大事なポイント。できればキヨラ様を骨ごと悩殺するような、甘ったるい長台詞でお願いしたい。
それ聞きながら鳥肌立てたい。
ウォルター様は心底嫌そうな目つきで私を見てきた。
「……ここには誰もいないし。もう告白したようなもんだろうが」
「何が? どこが? どれが? まさかいつの間にか観客不在で告白していたとか?!」
「俺は衆人環視のもとで告らないと、告白したことにならんのかっ」
「だって、それを楽しみに生きてるんだからしょうがないじゃん!」
分かってないな、この朴念仁は。
リアル恋愛ショーでも見ないと、こんな辺境で娯楽なんてないんだから。
ウォルター様は立ち上がって私に一歩近づいた。
椅子に座っている私は首を直角に曲げて見上げることになる。
うぉ、でかい。
綺麗に整った生真面目な顔に緊張感を湛えて、ウォルター様は私を見下ろしてきた。
「……人前ではできん。それくらいは許せ」
「まあ、私が満足できる環境下であれば、それで」
「俺は、お前のことが……」
「キキッ!!」
甲高い声が唐突に割り込んできた。
聞きなれた罵声に私はぴょんと立ち上がった。
侍女長が眉を吊り上げて食堂に入ってきたところだった。
何かしらの誤解が生まれ始めております。
皆さま、お気づきでしょうか……笑




