6 恋バナして確信
「で、キヨラ様はウォルター様のこと好きなんですね?」
キヨラ様が寝る前のハーブティーを嗜んでいる最中に、私は単刀直入に聞いてみた。
キヨラ様は唐突にむせた。ミルクティー色の緩やかな髪が咳と一緒に揺れる。
カップを置いて、こほこほとソファに手をついて咳き込んでいるキヨラ様は、そんな姿でも愛らしい。可愛いって得よねえ。
すいませんね、キヨラ様。私の好奇心が歯に衣を着せずに襲いかかってしまいました。
でも聞きたいの。真っ正直なところを。
キヨラ様は赤い顔をして、まだこほこほ言っている。
「何で……っ?」
「だって、見るからにいい雰囲気だったじゃないですか。今日は会話ができてさらに一歩近付いた、って感じ?
帰りなんてウォルター様に途中まで支えられて歩いてたし。恥ずかしそうなキヨラ様、超可愛かったし」
「あれは……! おらがつーえ聖魔法すっと、腰ば抜げるすけえ。いっつもじゃねんよぉ」
「キヨラ様。言葉」
「あ、ああ、えっと……私が強い聖魔法使うと腰が抜けちゃうから。いつもじゃないのよ」
「まあ、セナ様もそんなことは言ってましたけど……でも、満更でも無いとか」
「キキ!」
みるみる真っ赤になっていくキヨラ様。もう、好きって言ってるようなものじゃない。好きな人と触れ合ってどうだったのよ、ねえねえ。
聖なる乙女の任務さえ終われば、キヨラ様は私と歳の近い普通の女子だ。好きなスイーツとか可愛い小物のこととか、今までも暇な時にちょこちょこお喋りしてきたんだけど。
初めて恋バナ入れ込んでみた。いい反応である。
私はキヨラ様の聖衣のほつれを繕いながら、キヨラ様に話しかけた。
「ウォルター様、カッコイイですもんねー。いかにも精悍な騎士様、って感じで。今日魔獣と戦ってる姿見て、改めて思いました」
「聖なる乙女の専属護衛は、その場での戦闘指揮官も務めるのよ。ウォルターさんを中心にして騎士様たちは動くの」
「ああ、確かにそんな感じでしたねえ。
護衛の皆さん、当たり前だけど皆さん騎士様ですもんね。騎士様自身も格好いいですけど、騎士様が着てる騎士服ってよくないですか」
「分かる! 青地に金の刺繍が入った騎士様のサーコート、格好いいわよね」
ほらね、食いついた。キヨラ様、女子らしい女子だから。
「ここだけの話だけど。騎士様たちに囲まれていると、お姫様みたいになった気分になれるの」
「でしょうね。騎士服着てるだけで、みんな三割増し男前になってるし。
そうだ、ウォルター様のサーコートだけ赤い刺繍も入ってますよね。あれは」
「あれは専属護衛の証なの! ウォルターさん、赤い刺繍もお似合いよね。クールなのに情熱を感じるというか。心の奥底に熱い想いを秘めているというか」
「氷の無表情の向こう側、ですねえ」
「ああ見えて、情に厚い方だと思うのよ。必要な時には必ず手を差し出して下さるし。素っ気ないように見えて私の事をよく見てくださってるから。さりげない優しさが随所に出てくるから、その度にドキドキしてしまうの。
そんな方が私の専属護衛を務めてくださるなんて。そう考えると、もう……」
「やっぱ、ウォルター様のことお好きですよね、キヨラ様」
キヨラ様は赤くなった頬を両手で包んで下を向いてしまった。だけど、否定の言葉も出なかった。
ほらあ、やっぱり好きなんだ。
私はむふふとほくそ笑んで糸を止めた。聖衣の補修、完了。
そして、キヨラ様の想い人確認、完了。
キヨラ様は頬に手を当てたまま、私を上目遣いで見てきた。うお、可愛いな。
「キキ、このことは、ウォルターさんには内緒にしてね」
「えー、内緒にするんですかあ。さっさと告っちゃいましょうよ」
「そ、そんげことできっわげ、ねろっ」
「でも、実際に護衛騎士様と聖なる乙女のカップル、いますよね」
「いらっしゃるけど……」
四六時中一緒にいるから情が生まれるんだろうな。
大っぴらにしてはいないけど、雰囲気が恋人同士なんだもん。そういうのって分かっちゃうよねえ。
「おら、おしょすぐて」
「おっと、聞きなれない言葉、きたー」
「あ、ええと……恥ずかしくて。
愛の告白なんて、今まで一度もしたことがないもの」
「ええっ、そうなんですかっ?!」
「キキはあるの?」
「あ、私もないや」
「それに私、ウォルターさんを目の前にすると、頭が真っ白になって方言が出ちゃうの」
「えっ」
「なにか話さなきゃって思うと、スラスラ出てくるのは方言ばかりで。私も困っているのよね」
……それって。
キヨラ様の通訳が必要なのは、キヨラ様の恋心が原因だってこと……?
標準語がぶっ飛ぶほどの緊張って。それだけ好き、ってことではあるけど。
二人の恋の間には、厄介な障害でしかないな。
キヨラ様はふと首を傾げる仕草をした。輝く琥珀色の瞳は思い出すように空間を見つめていた。
「……それに、ウォルターさんは私のこと、恋愛対象として見ていないと思う」
「そうかなあ。ウォルター様、ずっとキヨラ様のこと見てましたよ。それにキヨラ様、こんなに可愛いから」
「ウォルターさんに可愛いなんて言われたことないし。笑顔を向けられたこともないし」
「それは、氷の無表情・無感動男で有名なウォルター品質のせいでは」
「少なくとも、ウォルターさんから好意を向けられていると思ったことはありません」
キヨラ様が、思いのほかキッパリと言い切った。
えええー。ウォルター様、魔の森でキヨラ様の手を引いてくれたり、支えたりしてくれてたよ。確かに笑顔はなかったけど、それはいつもの事だし。見ているこちら側からは、素晴らしい景色だったのに。
あれでウォルター様に気がない、なんてことあるわけないよ。気持ちがなくてあんなに優しくできないよ。ウォルター様もキヨラ様のこと好きだって。絶対だって。
「キヨラ様。キキはキヨラ様の味方ですから! キヨラ様が幸せになれるように、精一杯画策しますから! ウォルター様にあの手この手を使って、キヨラさましかいないんだって、思わせて見せますから!」
「キキ、あの。そっとしておいてほしいのだけど。過剰な画策とか、しないでほしいんだけど」
「大丈夫ですって、キヨラ様! キキに任せてくださいよ!」
「キキ……話聞いて……」
よし、明日ウォルター様に突撃して聞いてこよう。キヨラ様のことが好きって、言わせてこよう。明日は休日だから、午前中はウォルター様も私も自由時間あるし。
ほらあ、私ってば恋のキューピッドだからあ。ここで二人の想いをピタッと繋ぎ合わせて。告り告られ恋愛ショーを間近で観察しなきゃ。
へへへ、リアル恋愛ショーもうすぐ開催だぜ。胸きゅん準備オーケー? 乞うご期待!
次回、キキはウォルター様に突撃インタビュー!ねえねえ、キヨラ様のこと好きなんだよね?? そうだよね?!
……と、勢い込んで聞き出すつもり、でおりますが




