5 瘴気を祓う
もう少し投稿できそうなんで、明日も以降も投稿します!あと六話、推敲できたらホイホイ載せちゃいますね!
それ以降をガンガン投稿すると……貯金のない若造の頃明日の朝ごはんをどうにか手元ののラーメンスープでもっておじやにして生き延びようとする切ない心境を思い出す可能性ありますので、気をつけないと。
落ちついていこう。
そのまましばらく森を探索していると、ふいにキヨラ様が声を上げた。
「瘴気です。警戒お願いします」
瘴気……!
ついに、本物の瘴気に出会ってしまった。
どこ? どこから出てるの?
さすが聖なる乙女のキヨラ様だ。聖なる乙女は普通の人より瘴気を感知する能力が高いんだって。育ち切る前の小さな瘴気も見つけ出せるとか。
当たり前のようにセナ様が私の前に出てきた。すでに抜刀している。おお、これが護衛騎士さんの動きか。
他に三人いる護衛さんたちもキヨラ様を中心にして前後左右に散っている。もちろんウォルター様はキヨラ様の前で剣を構えていた。
おっと、乙女を守る護衛騎士かっけー! 精悍なウォルター様と清廉とした聖なる乙女。いいっ。どの角度から見ても映えるっ。写真撮りたい。
キヨラ様は目の前の灌木の向こうを指さしている。そこに瘴気が発生しているのだろう。
ウォルター様がゆっくりと灌木の傍に寄っていく。キヨラ様もその背後をついて行っている。私もついていきたいんだけどセナ様に阻まれた。
「危ないから、安全確保できるまで下がってな」
「……あの。瘴気って、見えるんですか?」
「うーん、見えるっていうか……歪んで見える」
「歪む?」
「陽炎に近いかな。空間がおかしな感じになる。間近なのに遠いというか、かといって気付けばすぐそこにあるというか」
「全然わかんないです」
「言われてみれば確かに、といった感じだ。素人で見つけるのはまあ無理だな。
でも、おかしいと思ったら近づくな。そしてすぐ報告しろ……って、事前にウォルターにクドいほど言われてただろ」
「はい、クドすぎて耳が腐るんじゃないかと思いました。てか、耳腐ってません? 形変わってません?」
「安心しろ、ちゃんと人の耳だ」
「よかったー。カビ生えてふさふさケモミミみたいになってたらどうしようかと」
「ぶふっ。ケモミミ可愛いじゃねえか。そうなったら俺が嫁にもらってやるよ」
「お? セナ様太っ腹。嫁入り先確保ー」
「おい、そこ! こんな所でふざけるな!」
ウォルター様の怒声が飛んできた。あ、ちゃんと目が怖い。私とセナ様は揃って首を竦めた。ふざけ過ぎちゃった。
私はセナ様の左背後に寄った。護衛しやすい位置だと聞かされていたからだ。瘴気の周辺は魔獣が潜んでいる可能性が高い。いつ魔獣が襲いかかってきても対応できるようにセナ様は警戒してくれている。猿顔だけど大変頼もしい限りだ。
キヨラ様は灌木の向こう側にたどり着き、胸の前で手を結んで言葉を紡ぎ始めた。聖魔法の呪文を唱えているのだ。
キヨラ様の前には、白い花をつけた草のからむ薮がある。その葉っぱの緑と白のコントラストがなんだかおかしく見えた。そこだけピントが合わないというか、見てるのに見えづらいというか。すぐそこに見えるのに、遠くにあるような……ああ、あれが。
「……あれが瘴気……?」
「ああ。油断するな。瘴気の周辺は魔獣が現れることがよくある。いつ魔獣が現れるかわからないんだ。俺から離れるなよ」
「はい……」
セナ様だけじゃなく、他の三人の護衛さんも緊張した面持ちで剣を構えている。ウォルター様も周囲を警戒しながら低い体勢で辺りを睨みつけていた。
ピリピリした空気の中、突然カサカサとした風切り音と共に黒い何かがかすめるように飛んできた。空を見上げると、複数の黒い何かが空中でバタバタと羽を動かしている。
夕方になると街でも見かける。空を飛び回りながら突然急降下してくる、黒い影。
私は見た事のある黒い影を眺めながら、呟いた。
「……コウモリだ」
ウォルター様の鋭い声が飛んできた。
「総員、戦闘開始! 聖なる乙女を守れ!」
「ええっ?」
「キキ、聖なる乙女になるべく寄れ! 護衛対象はまとまっていた方がいい。ただし瘴気には絶対に近づくな」
「え? ただのコウモリじゃ……」
「あれがただのコウモリなわけあるか!」
私の目の前を黒い影が急降下してきた。一瞬その姿が目に入る。
なるほど、ただのコウモリなわけない。
羽が1メートル以上あって、体が犬くらいあるコウモリは、どう考えても普通じゃない。近くに飛んでくると物理的に大きいのが分かる。威嚇して開いた口はたくさんの尖った牙が見えていた。
これが、魔獣。てか、めちゃくちゃ怖い!
「コウモリが、魔獣化してるっ?!」
「キキは頭を守ってろ!」
「ひゃい!」
「敵は八羽。降下してきた所を討ちとれ。噛みつかれるなよ」
ウォルター様の指示で騎士たちはキヨラ様を守りながら攻撃を開始する。風圧を感じるほどの勢いで降りてきたコウモリを騎士様が斬りつけた。びしゃりと血糊を撒き散らして巨大コウモリが地に落ちる。
一人の騎士様が手を空に向けて詠唱している。騎士様が使うのは通常魔法だ。すぐに魔法が放たれた。数本の氷の矢だ。羽を射られたコウモリはバランスを崩して木に当たりながら落ちてきた。灌木に引っかかったコウモリをセナ様が走りより、剣で胴体を貫く。
騎士様たちが魔獣コウモリと戦っている間、キヨラ様はずっと呪文を唱え続けていた。私はキヨラ様のそばに寄ったせいで、瘴気を間近に見てしまった。
おかしな気配。おかしな空間だった。自分の目が信用できなくなるような、現実ではありえない薮。あれが瘴気。
絶対に近づいてはいけない。人間だってあれに触れれば魔獣化してしまうかもしれないのだ。
キヨラ様の呪文は続く。途切れさせてはいけない。詳しくは知らないけど、途中で止めてしまうと聖魔法が発動されないのだとか。だからどんな状況になっても、聖なる乙女は呪文を切らさない。
無防備なキヨラ様を魔獣から守りつつ、魔獣の殲滅を目指す騎士様たち。絶対にキヨラ様のそばから離れない、専属護衛のウォルター様。騎士たちに命を預けて瘴気の浄化に挑むキヨラ様。
これが聖なる乙女たちによる、瘴気の浄化の現場なんだ。
ふいにキヨラ様の呪文が止んだ。キヨラ様は結んでいた指を解いてパンっと手を打ち鳴らした。
「……フィアット・ルクス」
世界に光が溢れた、と思った。
一瞬だけ真っ白な光が全てを飲み尽くし、一瞬で光は過ぎ去ってしまった。
空中で私たちを狙っていたコウモリたちがバタバタと落ちてくる。それに騎士様たちがトドメを刺しに行った。
キヨラ様と私の目の前にあった瘴気は、すっかりなくなってしまっていた。ここにあるのは、ただの白い花の草がからむ薮だけだ。
……これが、聖なる乙女の仕事。
すごい。
すごい、格好いい……!
私は自分の主であるキヨラ様を、今までよりも尊敬して見つめた。騎士様たちを見る目も変わってしまった。
瘴気の浄化は聖なる乙女一人の力じゃない。チームで行ってるんだ。
毎回魔獣が出る訳ではないと聞いてはいたけど、こんなに危ない仕事をしているのか。キヨラ様は森の探索の日は、疲れきって帰って来られる。こんなに危険な目に遭っているんだから当たり前だ。消耗する聖魔法も使うんだし。純粋に尊敬してしまう。騎士様たちもいつもより格好よく見えるし、キヨラ様なんて輝きが1.5倍増しに感じる。
みんなすごいです。格好いいよー。感動したよー!
ふと、キヨラ様がバランスを崩した。すかさずウォルター様がキヨラ様の身体を支えてあげている。キヨラ様は遠慮がちにウォルター様に身体を預けた。
わあ、どうしたの? 何があったの?
美男美女の接触の絵面が良すぎますよ!
小説の挿絵になりそうなワンシーンですけど!
「……キヨラ様、貧血ですか」
「わーりの、ウォルターさん。今回ばちっせけどばか濃い瘴気だったで。聖魔法がっとにこめねときかねと思っだでなあ」
「……通訳っ」
ええっ、こんな時にっ??
ウォルター様がキヨラ様を支えたまま、私をジロリと睨んでくる。仕事しろってか。
悪かったよ、心のシャッターチャンスに小躍りしてたのバレてんでしょ。
「すみません、ウォルターさん。今回は小さいけれどとても濃い瘴気だったので。聖魔法を強く込めないと効かないと思ったのです、です」
「おらの力がちんこててばほんねいつもめやぐてわーり。かんしぇなあ」
「私の力が弱くてて本当にいつも迷惑かけて申し訳ない。ごめんなさい、だそうです」
「いえ、これも護衛騎士の仕事です。迷惑なんかかかっていません」
「ほが、いっつもだっけえほんねせつね。なんぎばっかでおもしぇぐねえろう」
「でも、いつもだからとても辛いです。面倒な事ばかりで大変でしょう、って言ってます」
「私のことはお気づかいなく。聖なる乙女が滞りなく仕事を行えることが全てですから」
「……ウォルターさん、ええ人だべな」
これはさすがに意味が分かったのだろう。ウォルター様は戸惑ったようにキヨラ様から顔を背けた。なんなの、照れてんの?
キヨラ様もほんのり頬を染めたりしていて。これはもう、恥ずかしいとかじゃなくてそういうことよね。
やだー、この二人、やっぱりいい感じじゃなあい? 他の騎士様たちも身体ごと顔背けるか、生暖かい目で見守ったりしてるしー。
いやあ、通訳した甲斐があるってものじゃないの。今までもこんなシーンあったのに、言葉が分からなかっただけなんでしょー。
このスーパー通訳キキに任せなさいって。二人のココロの距離を縮めて見せましょうともっ!
キキのやる気がみなぎって参りました!




