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侍女曰く。聖なる乙女は早いとこ護衛騎士様に溺愛されてほしい ~恋愛ショーをリアタイで見たいから~  作者: 工藤 でん


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3 通訳、やります

ウォルター様はにがり切った表情で腕を組んだ。口をへの字に曲げて愚痴り始める。


「……キヨラ様の言葉が、俺にはまったく分からん」

「まあ、訛りが強いですもんねえ」

「あれを訛りとひと括りにしていいのか? すでにこの国の言語ではないぞ」

「ウォルター様、ナチュラルにキヨラ様の故郷を敵に回してますよ」

「俺はどうも、キヨラ様の言う『めんごい馬』を彷彿とさせるらしい。そのせいか、キヨラ様からほぼ故郷の言葉で話しかけられる」

「ぶふっ」


ウォルター様の口から『めんごい馬』って聞かされると、違和感すごい。真面目な騎士の面構えで『めんごい』。ぶはははは。


ウォルター様は不快げに眉をひそめて私を睨んだ。


「笑い事ではないのだが」

「ふひひひ、めんごい、ウォルター様」

「おい」

「すいませんすいません。

で、ウォルター様は私にどうしろと?」

「お前はキヨラ様の訛り言葉も分かるのだろう?」

「まあ、だいたい。分からなかったら聞き直しますし」

「……通訳としてついてくれないか」

「通訳? 私が?」

「割と切実に困っているんだぞ」

「えー」


確かにキヨラ様とウォルター様が会話している所はあまり見たことがない。キヨラ様の背後をウォルター様がついて歩いているのはよく見かけるけど。


せっかく好きになった人とお話できなくてつらいのね、ウォルター様。でも、第三者が間に入っての会話でいいのかなあ。うーん、口説き始めるにはもっと仲良くなってからってことかあ。


「まあ、いいですけど……ウォルター様がキヨラ様語を覚える方が早くないですか」

「いや無理だ。単語が入ってこないんだ」

「そうやって、いきなり否定から入らなーい。歩み寄るたゆまぬ努力を怠らなーい」

「護衛任務で、こんな苦労は聞いてないぞ」


渋い顔をするウォルター様。本当に大変なのか、氷の無表情が分かり易く歪んでいた。

やだなあ、ウォルター様。好きな人と話したいのなら、こんなの苦労の内に入らないでしょうに。


ウォルター様に、恋の道筋は平らであることはないのだよと、お説教かまそうと思ったところで。

ちょうど裏庭の渡り廊下を通りかかったキヨラ様に声をかけられた。


「あんれ、キキ。そげんとこおったげな」

「あ、キヨラ様。……また訛り出てますよ」

「いけない、標準語でお話しないとですね。咄嗟だとつい」


にっこりと笑みを浮かべるキヨラ様は今日も可愛らしい。

聖なる乙女は貴族位が与えられているため、普段着でも略式のドレスになる。水色のワンピースに同色のリボンでハーフアップに髪を結んだキヨラ様はどこに出しても自慢できるお嬢様だ。ちなみに今朝ドレスを選んで髪をセットしてメイクしたのは私だ。いい仕事してるぜ私。へへん。


ウォルター様は黙って胸に手を当てて一礼している。むう、こちらも様になってて格好いい。できればキヨラ様の隣に並んでくれないか。貴重なオフツーショットを、心のシャッターでもって光の速度で連写するから。


「キヨラ様はどちらに?」

「お部屋にお花を飾ろうと思って。裏庭のお花は自由にしていいと聞いたから」

「そんなことキヨラ様にさせられません。キキの仕事です」

「私がやりたいのよ。大目に見てちょうだい」

「そうですかあ? キヨラ様がそう言うなら。しょうがないですねえ」

「ありがと。キキ」


パチンとウィンクしてくるキヨラ様。やだもう、お茶目も可愛らしいっ。

何も話さないのもどうかと思ったのか、ウォルター様がキヨラ様に話しかけた。


「キヨラ様は花がお好きなんですか」

「んだ。花ばあっど落ちづぐでな。部屋ば飾りたなんべ」


……あれ。

キヨラ様、標準語は?

訛り出ちゃってるよ、キヨラ様っ。


「そんげなごど侍女の仕事だば言うけんどもおらがやりてぐてやってんだ。おらが花ぁ生けっどお、村でもよぐ褒められてだがんな」

「(小声)……キキ、なんて言ってる……」

「(小声)そんなこと侍女の仕事だって言うけど私がやりたくてやってるのです。私が花を生けると、村でもよく褒められてました」

「……そうですか」

「こんだ、生けだ花ば見でくらせえ。部屋ば、あんがるぐなっでるべさ」

「(小声)今度生けた花を見てください。部屋が明るくなってますよ」

「……ぜひ」


キヨラ様はウォルター様の返事に微笑みかけて、裏庭に下りて行った。背後にはウォルターさん代理の護衛さんもついていく。


私はウォルター様を見上げた。めんごい馬に似ているウォルター様だ。別に馬面ってわけでもないのに、可哀想に。


「……もしかして、いつもああですか?」

「俺と話すと、いつもああなる。何を言われているのか分からないから、二人で沈黙している」

「気まずっ」

「切実だって言っただろう」


……確かに、これはなかなか大変だ。

訛りが二人の恋の進展に支障をきたしていたとは。まさか言葉が通じないなんて。


キヨラ様、めんごい馬思い出さずにウォルター様を認識して標準語でしゃべってくれないかな。ほら、この人イケメンだよ。

ウォルター様は早いうちにキヨラ様語をマスターしてくれないか。好きな子の言葉じゃん。


そんなもどかしい二人を繋げるのが、私の仕事? 通訳ってそういう意味か。


……ふむ。恋の橋渡し役、ってやつだ。

二人の関係の深まりが、間近で見られる……。

お互いの言葉が分かってお互いの気持ちが寄り添う、その瞬間に居合わせられる。


おお? つまりスペシャルレアシーンに遭遇できちゃうってこと?


会話を重ねてより惹かれ合っていく二人。思わず繋ぎ合う二人の手と手。見つめ合い、心を交わしたことを実感し、自然と近付く二人の唇……。


あ、それ……リアタイで見たい。是非生で拝みたい。見逃せない。


私はそんな浅はかな妄想で「通訳、やります」と答えちゃったんだな。




推しカプは妄想することがイノチとも言えますから

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