20 デート1
デートに行きますよ!
デートするだけで四話になっちゃったとさ。
聖なる乙女にだって休暇はある。
王都の魔法師団本部で聖なる乙女たちのスケジュールを調整し、各乙女に休暇が割り振られることになっている。しっかり働いてるんだから、休暇くらい貰わないとね。
魔の森探索任務について、真面目にお仕事すること四か月。キヨラ様もついに休暇を取れる順番が回ってきた。まだ新人なので四日間だが、取れるだけでも大したもんだ。
来週休暇に入ります、と告げられた私は、キヨラ様の自室で高らかに拳を上げた。
「きゅうかー! 初めてのきゅうかー!!」
「嬉しそうね、キキ」
「だって、休暇ですよ、キヨラ様。お休みなんですよ! 仕事しなくていいんですよ、我々はがんじがらめの職圧から解放されるのですよ!」
まあ、と口に手を当てて微笑むキヨラ様。琥珀色の瞳は柔和に細められ、ミルクティ色のふんわりとした髪は微笑みと共に優しく揺れた。
あうう、可愛い~。美人~。好き~。投げチューして~。
キヨラ様は悪戯っぽく私を覗きこんできた。
「そんなに私のお世話は大変だった?」
「うわあ、キキの仕事はキヨラ様のお世話係だった! がんじがらめの職圧なんてのは嘘ですごめんなさい! キキはキヨラ様のおそばでお世話焼くのが一番です、好き!」
「冗談よ。キキ、相変わらずおもっしぇなあ」
「危うくキヨラ様に謀られるところだったわ。
……キヨラ様は休暇は何をして過ごされますか」
「そうねえ。先輩の聖なる乙女から近くの湖のコテージを勧められたの。自然が豊かで静かで美しくて、いいところだって」
「おお。優雅な休日ですね。お仕事を忘れてゆっくりできそうな」
「でもね。私、田舎者なのよね」
「はい?」
「自然が豊かで静かで美しいところって、うちの実家みたいだなって」
……うーん。
キヨラ様の実家は山村の小さな集落にある。美しい山や川や草原が、家を出たら目の前にどこまでも広がっていたそうで。
そんな景色を毎日見ていたキヨラ様が、美しい景色を見て日常を忘れる、なんてことはできなそうだ。なんなら暇にあかせて空いた土地を開墾して畑にしてしまうかもしれない。
「……もしかしたら、キヨラ様は街で過ごされた方が、楽しいかもしれませんね。一番近くの街は、馬車で一日の距離ですし」
「でも私、街で遊んだ経験がないのよ。王都にいた頃も修行ばかりで、城内の訓練所と寮の往復しかしてないし。突然街に放り込まれても、何をしていいか見当もつかないわ」
「おう、まだお若いのに……」
「しがだねえが。おらあ、ざいごだすけえ」
田舎者だから、ね。そうですよねえ。
あ、そうだ。いいこと思いついちゃった。街での遊び方を知らないなら、知っている人に案内してもらえばいいじゃない。
街のことを知らないキヨラ様を、街育ちのウォルター様が案内する。ってのはどうよ?
ウォルター様は特別遊び人風ではないけど、若い女の子が喜ぶ場所くらい知ってるだろう。普通にモテそうだし。デート経験たくさん積んでそうだし。
どうせキヨラ様は護衛なしに街歩きなんてできないんだから、いっそ専属護衛が案内したら一石二鳥じゃん。推しカプ街歩きデートが見られる私も嬉しい、一石三鳥。もちろん、私は遠くから見守りますけどねえ。
キヨラ様に提案すると、目を逸らしながら「ウォルターさんがいいと言ったら」と承諾してくれた。ほんのり恥ずかしそうな様子が初々しい。やだもう、照れちゃってるのね。可愛いんだからー。
私はスキップしながら扉の向こうでキヨラ様の護衛についているウォルター様に話をつけに行った。ウォルター様にとってもいい話に違いないから、こちらの気分も上がるってもんよ。
くーくっくっく。素敵なデートセッティングしたよ、ウォルター様! 熱い告白タイムはいつでも万事OKですがな!
街での告白はどの辺りがいいかな。静かなカフェ? 教会? 公園の噴水前?
それとも大胆に。小路を入っていきなり抱き寄せてぎゅっ、からの「好きだ」……とかあ! いい! いいぞ、ウォルター! 私、こっそり小路覗き見するから! 見つからないように気配を消して半透明になって見てるから!
私が涎たれそうなだらしない笑顔で扉の向こうを覗くと、お仕事モードの完全無表情ウォルター様が、胡散臭そうに私を見返してきた。
……はて。どうしてこうなった。
私はキヨラ様と、腕を組んで街を歩いていた。後ろにはウォルター様がついて歩いている。石畳で整備された街並みにはたくさんの若者たちがいるが、我々はわかりやすく注目されていた。透明感のある美女キヨラ様と、清潔感のあるスッキリイケメンウォルター様が揃ってれば、そりゃ注目も浴びるよな。
キヨラ様に街を案内する、というデートプランを提案されたウォルター様は、「キキと一緒なら」という条件を出して承諾してくれた。本来なら専属護衛は聖なる乙女と共に休暇に入り、王都から派遣された護衛さんと交代することになっている。キヨラ様によれば、休暇中なのにプライベートに付き合ってくれるだけでもウォルター様はいい人だ、ということだけど。
ウォルター様だって好きな人と過ごすんだから、街歩きに付き合うの、当たり前じゃんね。キヨラ様と初デートじゃん。内心ではバラ色のライトが縦横無尽に交錯してるんでしょ。ね、ね、そうでしょ。ウキウキしてんでしょ。うりゃうりゃ。
私たちの後ろを歩いている私服のウォルター様は、今日は一見して護衛のようには見えない。無地のシャツに無造作に上着を羽織った姿のウォルター様は、どっからどう見てもただのイケメンで、騎士様な気配がない。ていうか、私服のセンスも男前なあたり、イケメン歴の長さを感じる。
キヨラ様は小花柄のワンピースにローヒールの靴で、ミルクティ色の髪はゆるく三つ編に結っていた。ちょっといいところの町娘風だ。文句なしに可愛い。この可愛い町娘が聖なる乙女だなんて、誰も思わないだろう。
本当ならウォルター様とキヨラ様を並べて歩かせたいのだが、キヨラ様がなぜか私を離さなかった。私が着ている山吹色のベストと藍色スカートの組み合わせはキヨラ様の見立てなのだ。この派手めな私を連れ歩くのが楽しいのだという。
昨日は王都から派遣された女性の護衛さんとキヨラ様で、きゃあきゃあ言いながら服屋さんを巡っていた。ウォルター様が私用で都合が合わない日だったので、ウォルター様との街歩きは今日に持ち越しになったのだ。
そんでもって、キヨラ様は私を着せ替え人形にして遊ぶ、という楽しみを見つけたらしい。私に服をあれこれあてがっては、女性護衛さんと一緒に、これ可愛いこれも似合うこれなんて最高きゃーどうしよう、と盛り上がっていた。
毎日黒と白の侍女服姿の私に、キヨラ様は明るい色を合わせてみたかったのだという。「かわいい」「かわいすぎる」「お持ち帰りする」を連発して、キヨラ様と護衛さんと交互に何度も褒められて撫でられた。なんかすげー疲れた。
キヨラ様プロデュース『パッと見かわいいと思ってよく見たらめっちゃかわいい女の子・キキ』は、とりあえず女子には受けたということだ。そのコンセプトの趣旨はよくわからんけど。
だってさ、なんだか男子受けは悪そうだもの。ウォルター様はちらりと私を見て目を逸らせたもん。まるで興味はないんだろうけど。キヨラ様に「キキ、かわいいでしょ?」と聞かれて「はい」としか答えてなかったし。
その割にはさ。歩いていると視線を感じるんだよ。ウォルター様からじぃっと見られている気がする。ねえ、ずっと見てくるよね。
いっそ変なら変って言ってくれていいんだからね。こんな色の取り合わせの女子、街で見ないから。どうせおかしいんでしょ。
他にもさ、スカート斜めにズレてるとか、寝癖復活してるとか、気づいたら言ってくれないかなあ。キヨラ様に気兼ねすることないよ。
落ち着かないことこの上ない、私なのであった。
街デート開始です。
キヨラ様のウキウキが止まりませんねえ。




