18 解説は二人きりで
その後の展開は早かった。
不正の疑いがありというウォルター様の建言が騎士団から魔法師団に伝達され、アナベル様が魔の森へ探索するその日に、調査隊が踏み込んだ。
偽物の魔力測定器に手を乗せている所を押さえられたアナベル様は、そのまま魔法師団控え室に連行された。侍女長も一緒にだ。
アナベル様は五年もの間、不正を続けていたという。
アナベル様の聖魔力は、シルバークラスを取得した最盛期から徐々に減っていき、ある日唐突に消えてしまった。ちょうど休暇中で、王都にいた最中の事だったそうだ。
焦ったアナベル様は、必死に策を練った。地位と収入の安定したシルバークラスに固執した。聖なる乙女としての地位を維持するために、出してはいけない手段に手を出してしまった。
聖魔法測定器そっくりの偽物を大金を払って作らせ、魔の森の宿舎に偽物を持ち込んだのだ。そしてアナベル様は弱みを握っていた侍女長を脅して仲間に引きずり込んだ。侍女長に偽物の測定器を管理し使わせること、書類を改ざんすることを打ち合わせて、侍女長の弱みは黙認した。アナベル様の侍女と護衛は完全に自費で固め、口を噤ませた。
国から派遣される専属護衛騎士だけは、この偽装に引き込むことができない。辛うじてシルバークラスは騎士を選べる特権があったため、アナベル様はクソ真面目で寡黙な男を選んだ。聖なる乙女の専属護衛は、聖なる乙女に忠誠を誓う。何を知ろうが黙っていなさい、という命令をアナベル様の専属護衛となった男は忠実に守り続けた。
初めはバレないものかと大人しくしていたアナベル様だったが、バレる気配は一切なかった。アナベル様は不正している意識が薄れた。どんなに傲慢に振舞っても、シルバークラスに意見する者などいない。
他のシルバークラスの聖なる乙女から、傲慢な態度を嫌な目で見られることもあったが、滅多に会うものでもない。魔法師団などは事なかれ主義で、仕事さえこなしていれば口を出してくることもない。
アナベル様は魔の森を探索するフリをする事だけが仕事だった。魔獣に襲われることもあったが、護衛に任せればいいだけの話。護衛は腕の立つ者を選んで雇っている。夜の相手としても選んでいる男たちは、すっかりアナベル様に骨抜きにされていた。自分との夜のベット権を巡って争う男たちを、笑いながら見下すのは快感だった、とアナベル様は語っていたそうだ。
アナベル様はアナベル様中心の世界で、不可侵の女王だったのだ。
私はその詳細を、休み時間中に中庭のベンチでウォルター様から聞かされていた。キヨラ様からも聞いていたけど、ウォルター様の方が断然詳しかった。キヨラ様は「こーえひといねぐなったね。えがっだね!」とにこにこしながら私の頭をなでてくれるくらいだったので、あんまり詳しい事は覚えてなかったのかもしれない。
ウォルター様に連れて来られたベンチは、木陰に紛れて人目につかないところにあった。私はベンチの端っこにちょこんと座っているのだが、ウォルター様は私の半身に背中を預けてしなだれかかるようにして座っている。ベンチ使用率二対三くらいの割合でウォルター様の方が多い。ベンチの使い方がおかしくないだろうか。
そして私との距離の取り方にバグが生じている。身体がくっついてるのはやっぱりおかしいです、ウォルター様。バグの修正を申し立てます。
「アナベル様と侍女長は王都へ強制送還になった。どんな罰を受けるかは王都で決められるだろうが、もうここに来ることはないだろう」
「魔法師団も面目がつぶれて組織の改編が始まるそうですね。魔の森駐在の魔法師がずっと固定だったから馴れ合いになったのではないか、でしたっけ」
「ああ。シルバークラスの能力査定も定期的に行うことになりそうだ。査定がないなんて、今までが甘すぎたんだよな。まあ、真っ当に仕事に取り組んでる聖なる乙女だったら、痛くもかゆくもないだろうけど」
「国から派遣されたアナベル様の専属護衛さんは、とばっちりでしたねえ。アナベル様の命令を忠実に守っていただけなのに」
「本人もかなり葛藤があったみたいだぞ。瘴気を素通りしていることはさすがに気づく。それを指摘するのは、護衛としては越権行為にあたるからな」
「でもそれってサボリじゃないですか。いいわけないじゃん」
「護衛は護衛対象を危険から守り安全を確保することが仕事だから。
……でも、ぼそっと言っていたな。一生目を瞑なければいけないのならこれほどの重荷はない、って。何のことだかわからなくて聞き返したが、なんでもないと流された」
「本当に、真面目な人だったんですねえ」
ウォルター様がこつんと頭を預けてきた。ただでさえ重いというのに。何やってんだよ、もう。
「騎士は主に忠誠を誓うが、主を選ぶことはできん。ロクでもない主に仕えれば心が病みそうになることもあるだろう。
あの人も俺みたいに、癒される何かを持っていればよかったのにな」
ウォルター様は護衛対象のキヨラ様が癒しだもんね。いつも一緒にいて癒されてるもんね。よかったね。
そういえば、とウォルター様が私の顔を覗き込んできた。触れるほど近くに鋼色の髪が寄せられる。鋼色の瞳が私を見つめている。
急に整った顔を近づけるのはやめてほしいんだが、ウォルター様。びっくりして心臓が跳ね上がるでしょうが。
そういうのは、キヨラ様相手にやってよね、もう。
甘えたいウォルターくんに気付かぬキキ。バグじゃないよ、故意だよ~




