17 解決手段を提示してみる
まさかの、キキ推理
「そんな回りくどい方法を取らなくても、物的証拠を押さえちゃった方がよくないですか」
私の言葉に、キヨラ様とウォルター様が驚いたように私に目を向けてきた。
いやあ、驚いたお顔も大変目の保養になる二人。眼福眼福。
私は冷たくなったカップにお湯を注いで温めて、新たにお茶の準備をした。
ポットにもお湯を注ぎ温める。それから新しい茶葉を入れる。これで香りと味が全然変わってくるのだ。
「物的証拠を、押さえられるのか」
「まあ、私の予想が当たっていれば。
お話を聞いてるうちに、限りなく黒に近いグレーだと思いましたんで」
「キキ、どういうこと? 何に気づいたの?」
「だって、魔法師団をたばかるような真似、アナベル様お一人でできるわけないじゃないですか。まあ、アナベル様個人で雇っている護衛や侍女はグルでしょうけど」
「もっと内部に、アナベル様の不正の協力者がいる、ってことか」
「そうです」
「誰だ、そいつは!」
いきり立つウォルター様をまあまあと手で制した。不正許すまじ、っていう顔してるよ、ウォルター様。落ち着けって。
私はカップのお湯を捨てて、ゆっくりと紅茶を注いだ。最後の一滴までしっかり注ぐ。お茶の最後の一滴はゴールデンドロップといって、しっかりとした味と香りが付くんだよね。注ぐ際につい「せいやっ」て掛け声をかけちゃうのは一滴も逃したくないからなんだけど、侍女長に見つかるととても怒られる。
「私こう見えても、ここの侍女の中では一番怒られてる自信があるんですよね」
「自慢できない自慢すんな」
「まあまあ。
侍女長に呼び出されてあーだのこーだの、よくお説教になるんですけど。
ちょくちょくね、お説教の途中で侍女長を呼びに来るお助けマンがいまして。それが、アナベル様付きの侍女」
「アナベル様の侍女……」
「『アナベル様が探索のお時間になりますので』って、侍女長を呼びに来るんですよ。侍女長も私へのお説教そこそこに、アナベル様の元へ向かいます」
私はトレイに紅茶を乗せて二人の元へ向かった。温かい紅茶の香りが鼻腔をくすぐってくる。上手に淹れられたかな。
「私は聖なる乙女の侍女なんで。魔の森探索の直前に、侍女の仕事なんてないことを知ってます。せいぜい主人の荷物持つくらい? そんなの、アナベル様付きの侍女がやればいいだけで、侍女長を呼ぶ必要ないでしょ」
「……」
「それが、わざわざ侍女長を呼ぶってことは、侍女長の仕事が発生しているってことじゃないですか」
「……侍女長は、何をしてるんだ」
「不正をする方法で、王道の手段がありますよね。
例えば、商人が客に麦を売るとき、普段より小さな枡を使えば儲かる。麦を少なくしていつもの値段で売ることができるから。枡を変えるだけの簡単な詐欺です」
「キキ、どういうこと?」
キヨラ様の琥珀色の瞳が戸惑ったように私に向けられている。
私は、どうぞ、とキヨラ様の前に紅茶を置いた。
「偽物の道具を本物と入れ替える、という典型的で簡単な詐欺の方法ですよ。
聖魔法の魔力測定器、アナベル様用に、本物そっくりな偽物が用意されているとしたら? 侍女長が用意した魔力測定器で安定した聖魔力があると見せておいて、実はアナベル様の魔力は尽きているとか」
「そんなこと……!」
「侍女長はアナベル様に呼ばれて部屋を出るとき、必ず手提げ袋を持っていきました。何が入ってるかなんて知りませんが、とっても怪しいですよね。
それに、アナベル様が実際に行った瘴気祓除の話を聞かない。それでもアナベル様はシルバークラスを維持している。シルバークラスを維持できるだけの実績が数字として残っている、と考えていい」
「そうでしょうね」
「魔法師団に書類を提出するのは、侍女長です。隙を見て書類を改ざんすることができるのは、侍女長だけなんです。
てことで、アナベル様の不正の協力者は、侍女長でほぼ間違いない」
険しい目をしたウォルター様の前にも紅茶を置いた。
研ぎ澄まされたような鋼色の瞳が、私をじっと見つめていた。少し驚いたような気配もしている。
キヨラ様が悩ましく額に手を当てた。
「……でも、どうして、侍女長が……」
「それは私にも分かりません。アナベル様に弱みを握られてるのか、お金を積まれたのか。
ただ、明確に分かってることが一つ」
私は自分の前にも紅茶を置いて、キヨラ様とウォルター様ににっこりと笑いかけた。
「もしも、アナベル様が侍女長の用意した偽物の聖魔法測定器を使っている現場を押さえられたら、どうなります? 状況証拠と物的証拠が一度に揃って、言い逃れできないワクワク展開になりますよねえ」
アナベル様と侍女長の悪事、暴きます。
どんなワクワク展開になるのかは、次回!




