15 近付く二人
連載、再開します!
私の、――侍女のくせに出しゃばった挙句、大人たちから助けてもらった上にギャン泣きしちゃった事件――からしばらく経ったのだが。
なんだか、聖なる乙女の宿舎内の雰囲気が変わった。
他の聖なる乙女たちや護衛騎士、さらには侍女に至るまで、キヨラ様と接する時に優しくなった気がする。優しくなったというか、肩入れしてくれてるというか、味方になったというか。
そもそもキヨラ様は、今まで聖なる乙女同士の交流をほとんど行ってこなかった。やっぱり訛りのある言葉のせいで、一歩引かれているところのあったキヨラ様だ。
ところがここ最近は、聖なる乙女たちからよく声をかけられるようになった。キヨラ様は他の乙女からお茶会にも呼ばれているし、お茶会を開催したりもしている。落ち着いていればほとんど標準語で話せるようになってきたキヨラ様だ。周りの聖なる乙女たちも安心して交友を深めているようだった。
これにより、私の仕事が劇的に変わってきた。
お茶会にお呼ばれする、はともかく。
お茶会を開催する、となると、侍女の私は大忙しになる。厨房に特別なお菓子の発注に行き、茶葉を吟味し、人数によってはテラスやサロンの予約に走り、茶器が足りなければ侍女仲間経由で他の聖なる乙女に連絡を取り頭を下げて茶器を借り受け、そもそも侍女の手が足りなければ手の空いている侍女をスカウトに行く。
……キヨラ様。キキはいっぱいいっぱいです。忙しくて目が回る、をリアルで体験しています。仕事が溢れかえっております。
私はバタバタしながら仕事漬けの日々を過ごしていた。キヨラ様は魔の森探索の日以外は、お茶会に呼んだり呼ばれたりしてつつがなく暮らしていた。
……ように見えていた毎日だったのだが。
ある日私は、ゴミ捨てから戻る途中で、庭園の片隅で語り合っているキヨラ様とウォルター様を発見した。二人で向き合って語っている姿が、それだけで恋愛小説のワンシーンのようだ。ラブミッション勃発だ。
通り過ぎようとした私の目が、ぐりんと振り返っていた。
ちょおっと、何なのよ! 私の知らないところで急展開してんじゃないのっ! いつからそんなことになってんの、事前に一言あってもよくない?
二人きりで語り合うなんて、今までなかったんだから。そもそもキヨラ様の言葉が通じなくて、沈黙していた二人なのにっ!
私はきれいに剪定された低木の影を縫いながら、こそこそっと二人に近づいた。あの二人が二人っきりでイチャついてる内容なんて、めちゃくちゃ聞きたいじゃない。興味あるじゃない。もちろん、邪魔する気なんてさらさらないのよ。
なんならこのまま恋愛ショーに突入でも一向に構わない。だけど、やっぱりセリフ付きでお願いしたいよね。ど甘いセリフに悶え苦しむキヨラ様が、どんな可愛い言葉を返すのか聞きたい。キリリとした風情のまま蕩けそうなセリフを吐くウォルター様の声音を、そっと心に録音しよう。永久保存版にしよう。
だからこそ、もう少し近づかなきゃ。声が聞こえるところまでは……!
「……の成果は……ですか。それは」
「んだから……がねば……ですね」
「……特に…は……でしょうか」
「ええ。……は…ですから、…は入らねんだば」
何言ってるか分かんないけど、キヨラ様が標準語にしようと努力している気配がしている。
そして一番の問題点としては、会話が全く甘くないということ。会話の内容からベタベタと甘い蕩ける成分が感じられない。あふれ出るようなスイート感が全然ない。恋愛交渉の香しい香りがしてこない。
なんだよ。真面目な顔して何の話してるんだ。
お互いに真顔で真剣に「好きだ」と伝えているようには思えないんだ。あの真面目くさった顔でお互いに「好き」って言い合ってるんだったら、それはそれで痒いんだけど。搔きむしりたいけど。どうもそんな空気感ではない。
もう少し、近づいて聞いてみないと……。
「……に監査を入れるには、どうしたらいいのでしょう」
「ある程度確証のある証拠を提出するのが、いっちぇ早えです。私のお友達も探って下さってるのですが、ばかなんぎだで、ゆうてましたから」
「えーと。ばかなんぎだで、とは」
「あ、あの……」
「とっても大変だ、と言ってます」
私は二人の間にもぞっと入り込んだ。
どう考えてもリアル恋愛ショーに繋がるような話じゃないんだもん。ここから熱烈な抱擁からの熱いキスは、起きそうにないんだもん。ちぇっ。
最近なんかこそこそしている気配はあったんだよねー。普通にしてるフリしてさ。私を除け者にしてさ。しかもキヨラ様とウォルター様だけじゃなくて、騎士様たちも侍女軍団も、何か裏で繋がっている感じがしていた。
キヨラ様とウォルター様を見ると、二人とも気まずそうにしている。私にこの会話を聞かれたくないから、こんなところで話してたんだな。私、いつも二人のそばにいるから。
「これは、何の話し合いです? 私に隠れてこそこそと」
「いや、別にこそこそとは」
「こそこそとイチャイチャしてましたか?」
「そ、そんげことね!」
「あるわけないだろっ!」
二人仲良く否定してきた。仲良きことは美しきかな。ただ、今の仲良しは不愉快だ。
私はじとっと睨め回す。一人だけ除け者にされている気分て、分かるかな。自分だけ当事者じゃない疎外感、想像できるかな。
とーっても不満でつまんなくて、置いてけぼりの寂しさとか、分かってるかな。
しばらく私の不貞腐れた表情を見つめていた二人だったが。
ここはキヨラ様が折れた。
ウォルター様の袖をつんつんと引く。
「巻き込みたくなかったけれど、キキに気づかれたのなら、仕方ありません。全部話してしまいましょう」
「しかし、キヨラ様……」
「一番立場の弱いキキを狙われたらコトです。キキを守るのは、絶対ですよ。
でもキキの立場なら、自分だけ蚊帳の外なんて、つーれろう」
「……つーれろう……」
「辛いでしょう、です。ごめんなさい。
キキ、長いお話をするから、お茶の支度をお願いするわ。もちろん、あなたの分も用意するのよ」
仲良く謀略に耽っている、ウォルターくんとキヨラちゃん




