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クセ強属性の聖なる乙女は、早いとこ護衛騎士様に溺愛されてほしい ~恋愛ショーをリアタイで見たいから~  作者: 工藤 でん


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14 反省はちょっぴり甘く(まずは甘いことに気付くとこから)

 

「……おっかねがった……」


 と、よろよろと歩き出してストンと椅子に座ったのは、キヨラ様だ。

 よく見たら顔面蒼白である。キヨラ様、すごく緊張してたんだ。

 格上の聖なる乙女の前でただでさえ緊張するのに、無理してくれたんだ。目上の人に歯向かうなんて、今まで一切しなかったもの。


 私は椅子に座ったキヨラ様に駆け寄った。青ざめたキヨラ様に何か言おうとして、急に胸が詰まって何も言えなくなった。

歯を食いしばってないと崩壊しそうで、でも歯を食いしばったら涙が滲んだ。


キヨラ様が私を助けてくれた。庇ってくれた。守ってくれた。


 言葉を出そうとしているのに、言葉じゃなくて涙が溢れ出してきた。涙の向こうのキヨラ様は、歪んでいてもやっぱり綺麗だった。綺麗で勇ましくて、同世代なのにすごく大人で、私がとてつもなく小さな子供に思えた。

 

 キヨラ様を、立っていられないくらい緊張させたのは、私だ。黙ってやり過ごすのが常套だろうに、思わず口を出しちゃったのは、この私だ。


 侍女として自分の主を守らなきゃいけないのに、キヨラ様に守ってもらった。下手したら窮地に立たされたのはキヨラ様だったかもしれない。キヨラ様がお咎めを受けることになったかもしれない。

 そんな状況に追い込んでしまったのは、私だ。自分を止められなかった私の責任だ。全部、私が悪い。


 私は馬鹿だ、大馬鹿だ。キヨラ様の侍女失格だ。

 

 キヨラ様にいっぱい謝らないといけないのに。後から後から涙が出てきて、子供みたいに嗚咽が切れなくて、言葉にならなかった。

泣くなんてずるい。ずるいのに止まらない。

私はこんなにこらえ性がなくて我儘で自分勝手で、迷惑なヤツだっただろうか。情けなくてまた涙がこぼれる。

湿っぽいのなんか望んでないのに。周りの人は私なんかが泣いてるから、きっと引いてる。いつも能天気に馬鹿なことやってる侍女が泣き続けてるから、呆れてる。


 私は子供だ。情けないくらい幼くて、成長しない馬鹿な子供だ。

 なんで、大人になれないんだ。

 こんなに格好いい大人に囲まれているくせに。


 格好いい大人に……私だって、なりたいのに。


「ご、ごめ……ごめな…………ヒッ……キヨ……ヒック……キヨラ、様……」

「いんよぉ、キキ。おめさ、おらんこと庇ってくれたんがねえ。ありがとねえ」

「だっ…て…キヨラ、様……ヒック………悪く……な……ヒッ……」

「泣ぐごとねよ、キキ。おめさもなあんもわーりごとねでな」

「あああぁぁん……うわぁぁん……キヨラざまぁ!」

「……キヨラ様。こいつ、向こうで落ち着かせてきます。

 ……おい。あとは、頼んだ」


 ウォルター様が他の護衛さんに声をかけて、私を部屋から連れ出してくれた。私は子供みたいに声を上げて泣きながら、ウォルター様に手を引かれて歩いた。





 小さな物置みたいな部屋に連れていかれて、私はわんわん泣いた。硬くて温かいものにしがみついて声を出して泣いた。こんなに泣くのはいつぶりだろう。本当に小さい時ぶりだ。

 ずっと温かい手が頭をなでてくれていて、そういうことするのウォルター様だよなあとぼんやり思った。そう思ったらなんだか冷静になってきて、喉でひっくひっくと癖になっていた嗚咽が、徐々に治まってきた。

 

 ふと、しがみついている硬くて温かいものの正体を確認する。青地に金と赤の刺繍が入ったサーコート。涙のシミがばっちりついていた。

 見上げると無表情の中にほっとした色を湛えた鋼色の瞳と目が合った。どう考えても近い。近すぎる。

 そりゃそうだ、私がしがみついてるんだから。


 私ってば、ウォルター様の胸でギャン泣きしてたの?!


 うひゃあと離れようとしたら、捕まえられて、さらによしよしと頭をなでられた。

 思いのほか優しい声が降ってくる。


「落ち着いたか」


……おおおおお?

 おおおお落ち着きましたが、落ち着きません。その声が落ち着きません。


 なんだ今の声。ウォルター様って優しいんじゃないかと錯覚しそうな声。

 氷の無表情・無感動男だよね、ウォルター様。

 何なの、キャラ変? 氷からの脱却?


 ほら。と、ちり紙を渡された。なんだよ、ウォルター様。優しいかよ、マメかよ。泣いたせいで鼻水がすごかったんだ。

 ありがたく洟をかませてもらった。そしたらその後、丁寧にハンカチで顔を拭かれた。

 ……いや、だから。優しいかよ。


 その優しさは私に対して発揮してていいのだろうか。それはさあ、キヨラ様と付き合った後に、デートの際に発揮していただきたいのだが。しかもできればその現場を見ていたいのだが。


 ウォルター様は再びぎゅっと私を抱きしめてきた。私の肩にウォルター様の顔がある。軽く体重がかけられて、よろけた。

 いや、これは、何のための、ハグ?


「……無茶するな……」

「あの……すみません。

 キヨラ様を馬鹿にされたと思っちゃって。キヨラ様のこと何にも分かってないくせに、って」

「ああ」

「ウォルター様への勧誘もいやらしくて。汚くて。気持ち悪くて。

 そのせいでキヨラ様が泣いちゃって、それ見たら止められなくなって。

 ……反省してます」

「うん。

 ……お前はまだ、純粋なんだな」


 優しく頭をぽんぽんされる。

 最近なんだか、ウォルター様にこれをよくやられる気がする。


「大人になると流せるようなことが、まだ心に引っかかってしまうんだ。その感覚は覚えておけ。批判する目は失うなよ。

 ただ、今日のように呑まれるな」

「……はい。

 ウォルター様は大人だから、こういう時流しちゃう?」

「そうだな。後の面倒を考えたら流せるトラブルは流したほうが楽。終わってからキヨラ様のフォローが必要、とは考えてた」

「ウォルター様も絡まれてたのに?」

「あんなもん、絡まれた内にも入らねえよ」

 

 あれで絡まれた内に入らないというなら、ガチ絡みはどんなことになるの……? どうも経験則から出た言葉っぽいんだけど。


 聞いても教えてくれなそうなので、私は黙って身を引いた。

 ウォルター様に向けてぺこりと頭を下げる。


「ウォルター様も、庇ってくれてありがとうございました」

「俺がお前を助けるのは当然だろう」

「えーと、キヨラ様のために? キヨラ様、私がいないと不便ですもんね」

「ん?」


ウォルター様が何言ってんだ?って顔で見返してきた。私は改めて心に決めた。

このどんな表情でもキマる騎士様は、早いとこキヨラ様と幸せにならねば! 私は恋の橋渡し役なんだからね!

こんなところでジメジメしている場合じゃないわ!


「私、ますます頑張りますね! 今日はバタバタしちゃって難しいかもしれないけど。ちゃんといいシチュエーション整えますんで!」

「いや、待て。考えようによっちゃ、まさに今がいいシチュエーションなのでは……とか」

「さあ、戻りましょう! キヨラ様にちゃんとお礼言わないといけません」

「キキ、おい! もう行くのか? まだいいだろう。

 珍しく二人きりだし。……なんなら、もう少し先に……進めてもいいか、と」

「なんですかー?

 キヨラ様、心配してるかな。一人にしちゃったな。早く戻りましょう、ウォルター様。

 ほら早く、早く」


 私はなぜかグズグズしているウォルター様の背中を押して物置を出た。ダメだよウォルター様、長々とサボっちゃ怒られるよ?


 キキ、完全復活!

 めざせ、ウォルター様とキヨラ様のリアル恋愛ショー!

 今度こそ愛の告白にふさわしい素敵な状況を作り上げて見せるわ。

 推しカプの溺愛を見るまで、この仕事辞められないのよ!

 



 

キキよ……ウォルターくんがグズグズする意味を、胸に手を置いて考えてみないか……?

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