12 告白なかった上にからまれた
連載再開します!
明後日まで予約投稿済です。
ウォルターが完全に勘違いしたまま、続いております……
《キキ視点に戻ります》
キヨラ様とウォルター様による、生ライブ恋愛ショーが見られるはず。と、わくわくしながら迎えた翌日。
今日はキヨラ様の聖魔法鍛錬と、明日の予定である魔の森探索の打ち合わせが行われる日だ。専属護衛のウォルター様と聖なる乙女のキヨラ様ががっちり顔を合わせる。落ち着いた屋内で、しっかりと、じっくりと、ゆっくりと、語り合える日なのである。
告白タイミングはバッチリだよ、ウォルター様。くくくく、できるだけ激アツ激甘で悶え苦しむような告白を希望します。ウォルター様の氷の無表情が溶けて輪郭がなくなりますように。キヨラ様のオーラがピンク色に輝きますように。
うふふふ、愛の告白バッチ来い来い、ようこそ待ってたウェルカーム……だったはずなのに。
ウォルター様は、いまだ実際の行動に移していない。ていうか、何にもしてない。
キヨラ様に、愛の告白を行っていないのだ。
キヨラ様が聖魔法を鍛錬している最中、ウォルター様は鍛錬室の部屋の警護に当たるらしく、扉の脇でじっと立っているだけだった。私もその時間は侍女の仕事をこなすため、キヨラ様の部屋にいたから見てないんだけど。
二人が直接顔を合わせる魔の森探索の打ち合わせでも、事務的にルートを確認するだけだった。明日同行予定の護衛さんも含めて、地図を確認しながら細かいところを打ち合わせている。キヨラ様の通訳が必要なこともあるから私も同席したけど、本当に単なる打ち合わせだった。
「今回は南北に長いルートですが、ある程度道は確保されています。足元がかなり楽になりますので、何事もなければ早めに終了できるでしょう」
「んだば、気いつげで左右見どったらいんべ。おがしなとごあればゆうすけえ」
「それでしたら、気をつけて左右を見ていたらいいですね。おかしなところがあれば言いますから、だそうです」
「二年ほど前に瘴気が発生した箇所がありますので、そこは重点的にチェックをお願いします。残滓があれば即座に聖魔法を」
「んだ」
「わかりました、です」
って感じだった。
事務的な会話しかない。甘い要素が一切ない。ウォルター様は何なら地図ばっかり見て、キヨラ様のこと見もしない。なのに、たまに私には視線をくれる。鋼色の瞳がチラリと私を確認して、再び地図に向かっている。
何やってんのよ、ウォルター様。話が違うじゃん。
キヨラ様に愛の告白するんだよね? 昨日の話ではそういう流れだったよね? 私も目一杯激励したじゃんか。俄然やる気で盛り上がってたじゃん。
私は昨日ちゃんと、ウォルター様はキヨラ様のことが好き、って確認したんだから。まさかだけど、騎士のくせにヘタレたんじゃないでしょうね。寝て起きて冷静になったら告白なんてやっぱ無理とか、だらしないこと思ってないよねっ?!
まあ昨日話してみて、ウォルター様は人前で堂々と告白するようなタイプではない、という感じはしたけど。
ここは聖なる乙女と護衛さんたちが集まるカンファレンス室だから、明日魔の森に向かう他の乙女と護衛さんもいる空間だ。それぞれのシマで明日探索の打ち合わせ中だから、わりと大人数がいる。高らかに愛を叫ぶ環境ではない。それくらいは私にも分かっているけど。
もう少しキヨラ様に近づくとかさ。うっかり手が触れ合ってみたりとかさ。触れ合ったきっかけで、そっとテーブルの下でお互いの小指と小指を絡めるとかさ。
しろよ。
見せつけてこいよ。
それどころかウォルター様、なんなら私にさり気なく近づいてきてないか。ちょっと袖とか触れてないか。もしかして、私にキッカケ作ってくれよヘルプミー、とか思ってんの。いや、今そんな場面じゃないよね、さすがの私だって分かるぞ?
モヤモヤしてヤキモキしていたら、明日の打ち合わせが終了してしまった。
ちょっとー、終わっちゃったじゃんか! 何にも起こらなかったよ。どういうこと??
話が一息ついたのを確認して、私は人数分の紅茶を淹れなおした。もう、隙があったらお茶を淹れる作業は侍女としての性になっている。自分の分も用意するのが面映ゆいけど。
お茶をしながら騎士様たちから最近の魔獣の傾向だとか、出現頻度とか、討伐警戒種の見極めだとか、そんな話がメインで流れていく。ウォルター様も真剣な様子で話を聞いているのは、護衛同士の情報交換になっているからだろう。仕事中のウォルター様は相変わらず群を抜いて格好いいな。そして騎士様たちの話にうんうん頷いているキヨラ様も、群を抜いて綺麗。透明感のある麗しの美少女。
いやあ、尊い。早いとこくっつかないかな、この二人。
私はふぅと紅茶の表面に息を落とした。
うーん。明日は私も魔の森か。明日の探索は魔獣に出会わなければいいなあ。やっぱ、どう考えても怖いし。私は足手まといのお荷物でしかないし。皆様の重荷にならないように、言われるがまま素早く行動するようにしないと。
と、素人の私はぼーっと考えながら、話し合いの場を眺めていた。なんといっても、このタイミングで恋愛生ライブは確実に発生しないからね。気も抜けるってもんよね。
なんとはなしに周囲を見ていたから、私は部屋の奥から一つの集団がこちらに近寄ってくることに気づいた。聖なる乙女が先頭で、数名の護衛を引き連れている。専属護衛を自費で増やす聖なる乙女もいる。そういう人は格上の人が多い。
聖なる乙女を改めて見ると、やっぱり格上の乙女だった。
「あら、田舎者の聖なる乙女もいたの。ごきげんよう」
声を掛けてきたのはベテランの聖なる乙女の一人だ。名前は、アナベル様、だったかな。
お姉さんと呼ぶには少し薹が立っている、分厚く顔面を塗りたくった……じゃない、手の込んだメイクをした乙女である。近くに寄るとお化粧の匂いがツンとしてくる。ただし、身体はものすごく女性らしくて妖艶だ。ゆったりとした聖衣の上からでも分かるほどの大きな胸と、きゅっとすぼまった腰。おしりは丸くて大きくて、よく男性陣が目で追っている。時々宿舎内でお見かけするけど、私はちょっと苦手だ。
派手なお化粧のアナベル様の聖衣の胸元には、銀色に輝くブローチが付けられていた。聖なる乙女の上位者の証である。
この方は、シルバークラスの聖なる乙女だ。
聖なる乙女は実績に基づいて位が存在する。ブロンズ・シルバー・ゴールドの順にクラスが上がっていく。
キヨラ様は新人だから、一番下のブロンズクラスである。ほとんどの聖なる乙女はこの位階で、ブローチも付かない。瘴気を見つけ祓いはするが、指導を受ける立場でもある。聖魔法鍛錬には必ず魔法師団から派遣された魔法師がいて、ブロンズクラスたちの指導をしていた。
一方、アナベル様が属するシルバークラスは、大きな瘴気を祓った経験を持ち、魔法師団の長老たちから一人前と認定された人達だ。シルバークラスは聖魔法が安定したと見なされて魔法師たちから指導を受けることはない。報酬もぐんと上がるらしい。今現在、八人の聖なる乙女がシルバークラスの位階を持っている。
ちなみに最高位はゴールドクラス。
ブロンズ・シルバーでは手に負えない瘴気を一人の力で祓える実力者だけがなれるらしい。現在ゴールドクラスの位階を持つ聖なる乙女は、一人もいない。
つまりアナベル様は、聖なる乙女の最上位者であり、キヨラ様の先輩であり上司、ということになる。
身分も立場の上の方なので、全員立ち上がって頭を下げた。
アナベル様は得意げに顎を上げてそれを受けた。勝気な雰囲気が体中から滲み出ている人だ。分かりやすくキヨラ様を下に見ている気配が強い。胸の大きさでも見下してると思う。だって胸の下で手を組んで大きさを強調してるもん。
アナベル様の主張の強い胸から目を逸らして、キヨラ様が深々と頭を下げて挨拶を返した。
「ごきげんよう。アナベル様」
「キヨラ、聖なる森の巡回も慣れてきたようね。
聞いたわよ。祓った瘴気の数で言えば、新人としては過去最高だとか」
「い、いえ。私なんか、まだまだです」
「何を言っているの。キヨラは実績を上げているのだから、堂々としていればいいのよ。
……ただ、不穏な噂も流れてきたわ。あなた、出身地の言葉のせいで、専属護衛とは上手くいっていないのですって?」
かなり含みのある声音でアナベル様はキヨラ様に問いかけてきた。
なんだか迷惑な嵐が来る予感……




