11 俺のことが好きすぎる、侍女キキ
今回もウォルター視点
さあさあ、気持ちがすれ違いますよお……!
《アナザーサイド:ウォルター視点》
キキを探しに出ると、思いの外早く見つけることができた。
……思わぬ姿のキキを。
キキは職員用の大食堂で、ホウキをギターにして歌っていた。
しかも自作ソングらしい。「掃除なんてしてられっか」ソングである。侍女長をコケにもしている。
たまらず入り口の柱に手を当てて笑いをこらえた。身体もドアにぶつかってしまった。
……なんでこいつは……いつでもどこでも歌ってんだ……!
聞けば、侍女長からの罰で、大食堂の掃除を命じられたらしい。
一度に五十人は入る食堂だ。女の子一人で掃除できるような広さではない。
あのババア、キキが気に入らないからって、無理な雑事を押し付けやがったな。
俺はキキの手伝いをすることにした。
俺の意図に気づいたキキが目を丸くして俺を見返している。まさか俺が手伝うとはかけらも思っていなかったようだ。まん丸の目が信じられないと俺を見上げていた。
あ、可愛いな。
いつもこういう顔してろよな。
ずっと見てられる……
……いや、いやいやいや。可愛いってなんだ? ずっと見てられるってなんだ。何を見てられるって? キキをか……?!
俺は動揺を隠すようにバケツに水を汲みに行った。
同僚たちの会話が思い起こされる。「意外と可愛い」「俺、行っちゃおうかな」。
そんなもん、許すわけないだろ。少なくとも俺は許さん。許さないんだが……いったいどうしたいんだ、俺。
悶々としながら水を汲んで、食堂に戻った。キキと雑談しながら掃除を進める。
キキは炊事洗濯掃除もする騎士の話を、珍しそうに聞いてくれた。手は淀みなく掃除を続けている。キキは侍女としての能力もしっかりと高い。一緒に仕事をしていてやりやすい。特に好きでもない掃除が……なぜだか、楽しい。
思っていたより早く掃除が終わってしまった。
キキに礼を言われたが、俺としてはばつが悪い。楽しかったなどと正直なことは言えなかった。
話がある、とキキに伝えると、キキも俺を探していたという。個人的に聞きたいことがあるというのだが。
――個人的に、聞きたいこと。
キキが、個人的に。
俺に直接、聞きたいことがある、ってか。
不覚にも胸が高鳴った。
個人的に、俺を探して、見つけて、聞きたいこと……なんて。告白の大前提みたいじゃないか。何を言い出すんだ、コイツ。
まさか、な。このキキが、そんなつもりのはず……ないよ。
そして、キキから爆弾が落とされた。
「ウォルター様って、好きですよね?」
『好きですよね?』
……!!!
お前っ!
……………唐突に、隠してた俺の核心をついてくるな!!
なんでっ。俺もまだ、はっきりしてなかったっていうのに。なんで俺の心の内の、一番深いところを突いてくる!
しかもキキはぐぐっと俺に顔を近づけてきた。好奇心を湛えたきらきらした大きな目が、俺をまっすぐに見つめてくる。
ああ、もうっ。分かりやすく可愛いじゃねえか!
「やっぱりそうでしょ?! そうだと思ったんだよねー」
「おまえっ……突然そんな、直接的にっ」
「だってあの距離感であんなに気のある素振り見せられたら、絶対好きに違いないって思いますよー」
「……は?」
「いつも無愛想な無表情のくせにー。急に優しくされたらときめくでしょー」
……俺、気のある素振りしたか? ない……とは言いきれないか。意識はしていた、と思う。
いつの間に態度に出てたんだろう。
キキはさらに言い募ってくる。
「でも好きなんでしょ? 好きなんですよね?」
さらに顔を近づけてくるキキが直視できなくて、俺は顔を背けた。可愛い。近くで見るとやっぱり可愛い。小動物みたいに見上げてくる目が、愛らしい。
うーっと唸り声が漏れてしまった。やばい。触れたい。抱きしめたい。顔近すぎんだろ、分かってんのかこいつ。
「……気になっている、かもしれん。と最近思い始めていたところ……」
「ハイ、キター!!」
キキは立ち上がって拳を上げた。
なんだよ、俺に告らせて自分は盛り上がってんのか。いい性格してんな。
それどころか、キキは俺に人前で告白することを要求してきた。それが楽しみで生きていると。こういうところは、理解不能だ。どうかしている。
俺は立ち上がってキキを見下ろした。キキは俺を見上げるために直角に顔を上げた。
うぅ……………めちゃくちや可愛いじゃねえか。
この距離感、たまらん。脳が俺に本能のまま動けと命じてくる。手を出しちまえ。向こうだって期待してる。ここさえ乗り切れば好きにしていい。
わかったよ。はっきり言えばいいんだろ。
俺はお前のことが……!
……と、いうタイミングで。侍女長がヒステリックに怒鳴り込んできた。キキが掃除を終わらせていないこと前提で、耳障りな声を上げて。
部下の失態をいびることの大好きな女だ。もともとそんな性癖が目に余っていたのだが。
俺がガラにもなく愛の告白ってのをしてやる、と決めたタイミングで、この女。
邪・魔・す・ん・じゃ・ね・え!!
怒鳴りつけたいところだが、冷静なふりして侍女長を追い払った。ブチ切れるのは簡単だったが、後でそのとばっちりを食うのはキキだ。侍女長の神経を逆撫でて理不尽に八つ当たりでもされたら。職権乱用かまされて、キキに何かしらのペナルティを与えるかもしれない。それは避けたい。
憤懣に心を燃やしている俺を、キキが尊敬するようなまなざしで見つめてきて、俺は顔を背けた。そんな目で俺を見るな、邪魔だから追い払っただけなんだ。
キキは俺に殊勝に礼を言い、そういえばと問いかけてきた。俺がキキに話したいことがあると言ったことを、思い出したようだった。
俺はキキに通訳を引き受けてくれた礼を言った。魔の森という危険な場所に引きずり込んだのは俺だ。仕事とはいえ、さすがに罪悪感はある。
キキは軽く笑って言った。
「それは覚悟の上で引き受けてますんで。
通訳の役職手当と危険手当もいただいてますから。お給金爆上がりで、うはうはですよー」
……こういうところだ。キキのこの、ちゃらけたような気遣いがたまらなく好きなんだ。
俺はキキの小さな頭に手を置いた。
たまらなく愛しさが生まれてきた。
そして確認したくなったのだ。
キキの気持ちを。
俺は俺の気持ちを自覚した。
そういう、お前はどうなんだ?
お前の気持ちを聞いていない、と尋ねた俺に、キキは憤然となってこう返してきた。
「私の気持ちなんて、そんなのもう。
……全部丸ごと、大好きに決まってるじゃないですか!」
「……うっ」
「疑われるなんて心外です。私の『好き』を疑わないでください!」
「……それは……つまり。
……そういうこと、だと思っていいんだな」
「あったりまえじゃないですか」
言葉にできない気持ち、とはこのことか。
どうしようもなく気分が盛り上がった。キキの心を手に入れた確信を得た。キキは、俺のことを、そんなに想ってくれてたのか。そうなのか。
なんか、グッとくる。有頂天になったと言っていい。
思い切って、告ってよかった。
自制が勢いよくボンっと吹き飛んで、俺はキキを抱きしめた。ありがとう、とだけは何とか伝えた。
今日から俺の彼女。
俺の彼女の、キキだ。
キキ。キキ!
いつまでも抱きしめていたい。俺の中に閉じ込めておきたい。もちろん、恋人としての行為は、少しずつ進めるつもりだが。
ああ。先が楽しみだ。
俺のものだ、キキ。
ずっとこのままでいられたらいい……
キキって罪深いよね! 誤解を生むような言葉を選ぶでないよ……
有頂天にもなるよ、ウォルター様。ウォルター様が一人で盛り上がったまま、お話は続きます……www
次の投稿までしばしお待ちを。




