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第5話

 宵ばな亭の奥にある飯処で、夕飯を出してもらった。まかないだがカロッツァ特製絶品シチューにふわふわのパン。目が覚めてからこれまで神エル世界に感動し過ぎてあまり感じなかったが、そういえばお腹がとても空いていた。

 食べ物を食べて味がするのかな、と心配だったがシチューはよく煮込まれてトロトロの野菜が最高に美味しい。

 パンをちぎりながら、私は窓から外の景色を見た。聳え立つマラーナ城はオレンジの夕陽に照らされて美しさが増していた。これは夢でなく現実なんだと実感する。

 

「はぁ、もうずっとここで暮らすので、いいやぁ」

 

 私は今日あった様々なできごとを思い返しながら、ため息をついていた。アレン隊長は厳つくて品性正しくその使命感に痺れたし、ルシフェル様はその凄まじいオーラとカリスマ性で場の空気を圧倒していた。キャリーちゃんは、思った通り気だるそうで可愛かった。

 虚な目でパンを齧っていたが、ふと思う。私は倒れてからどうやって医務室に運ばれたのだろうか。もしかして、もしかしてだけど、アレン隊長がお姫様抱っこしてくれたとか?!ルシフェル様という可能性も……いやしかしルシフェル様ってナイフとフォークより重いものを持たないって噂だから、やっぱりアレン隊長が!

 想像して、私は顔に血が上った。

 

「ふんぎゃああああああ!!!!」

 

 全国のアレン隊長夢女さんたち、ごめんなさい!!!特に月影スフレさん!SNSで毎日アレン隊長への愛を五千字語らないと眠れない重症度の高い夢女だっていうのに!申し訳ない!!申し訳ない!!

 木の机に額を擦り付けながら奇声をあげた。

 目の前には下働きのアレックスが同じく食事をしていたが、私の様子を奇異の目で見ていた。

 

「お前……今日ずっと気持ち悪りぃな」

 

 その言葉で私は慌てて居住まいを正し、パンを口に運ぶがニヤついた表情はなかなか元には戻らなかった。アレックスはカウンターに呼ばれて、そっちに向かった。

 いけないいけない、私はこの世界の住人としてちゃんと自覚を持たなければならない。この宿屋には確か女中が2人いるから、そのどっちかに転生したんだろう。メイン進行に絡まないからあまり記憶に残っていないけど、パン運びなどで王宮に出入りする役割があるので嬉しかった。

 

「ほら」

 

 ドンと目の前に、麦酒のジョッキが置かれた。アレックスがカウンターから持ってきてくれたらしい。

 

「え?これ……」

「ん」

 

 飲めという事か?お前いい奴だな……前に血迷ってアレックスおねショタ小説書いたこと本当に謝るよ。

 

「ありがとう!」

 

 そう言って、ジョッキに手を伸ばしてごくりと喉に流し込んだ。麦の味が強くて、すごく美味しい!

 

「ぷはー!最高!」

「はぁぁああ?何やってんだよお前は!」

 

 手からはジョッキをひったくられて、頭上からアレックスの怒号が飛んだ。

 

「はい?」

「あっちのテーブルに持っていくやつだったのに!」

 

 え?給仕しろって事だったの?プリプリ怒っているアレックスをみてぽかんと口を開けた。

 どうやらこの世界でも労働から逃れることはできないらしかった。


 ガシャァァン!!


 奥から盛大に何かが割れる音が室内に響いた。皆の視線が音の方に注がれて、賑やかだった店内が静まり返る。カウンターより少し手前の床に給仕服姿の少女が座り込んでいて、その目の前には割れた皿が散乱していた。

 

「あーあ、マリアのやつ。またやっちゃってる」

 

 アレックスはそう言ってから椅子を飛び降りて、箒とちりとりを取りに走った。カロッツァも来て、マリアを抱えて裏へ連れて行った。床に落ちて割れた皿をアレックスが掃いて片付け始めていた。

 ……ん?この光景、どこかで見たことある。私はパンを齧りながら過去の記憶を思い返した。

 マリア…マリアちゃん…歌うたいの、マリアちゃん…?

 真剣な目つきで顎を撫でて、何度かその名前を口の中で呟いた。そして、点が線につながった。パチン!と指を鳴らした。

 

「歌うたいのマリアちゃん!タウンクエストだこれ!」

 

 私は叫んだ。勢いあまって椅子を倒してしまい、今度は店内の視線が私へと注がれた。構うもんか。しかしこれは一大事だ。この世界ではやはり、ゲームが進行しているんだ。

 机に腕をついて私はさっきまでに見たり聞いたりした事を思い返した。今度は、真剣に。姫が失踪するメインクエストがあったはずだ、確か……

 

「おい!麦酒はまだかっ!」

 

 後ろで客から怒声が飛んできた。あっやばい、と思って机のジョッキを手に取るが、それは泡が消えて中身が半分以下になっていた。

 

「ああー、やっちゃった」

 

 私はそう呟いて、カウンターと客の方へ気まずそうに目をやった。

 


 

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