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第15話

「ねえ、アルは魔法使えないの?」

 

 壊れたカンテラを器用に直していたアルは、その言葉でまたいつもの無愛想な顔を向けた。

 

「つかえるわけ、ねーーだろ」

 

 言い方がなぁ。ザ•イキリ男子め。何で使えないのか、ちょっと説明とかしてくれてもいいじゃん。

 

「なんで?」

 

 詰め寄ると、工具でネジをぎりぎりと締めながら短く言った。

 

「普通は使えねーから」

 

 そうなのか、と私は思った。私の知識によれば、このゲームで魔法を使っているのはルシフェル様、キャリーちゃん、冒険者に、あとは神官。確かに村人は魔法粉と呼ばれるものを使って火を起こしたりはしているが、日常的に魔法で生活している様子はなかった。

 

「魔法を使える人はどんな人なの?」

 

 その辺りがゲーム内で語られる事はないので、私は純粋に知らなかった。

 

「そりゃ、家系に魔導師がいるとかそういうのだろ。たまには全く関係ない家から産まれることもあるみたいだけど。殆どは生まれ持った才能ってのじゃないか?」

 

 私はちょっとがっかりとしながら、イカーナさんから聞いた魔法の痕跡という話を持ち出した。

 

「魔法が使われると魔導師はそれがわかるの?魔法の痕跡が残る、って話聞いたんだけど」

 

 「そんなん魔導師じゃないんだから知らない」と一蹴されてもおかしくはなかったが、意外にもアルは真面目に答えてくれた。

 

「他国から魔法で攻撃されないように、魔導師隊が逆探知してるって噂だよ。あくまで噂だけど。だから、魔導師なら魔法の気配とかわかるんじゃね?」

 

 なんとなくいい加減な物言いだったけど、アルのその話は結構役に立ちそうだったし、イカーナさんの魔法の痕跡とも辻褄が合っていた。

 イカーナさんが魔法の痕跡の話をしながら残念そうに話していた事を思い出した。


 「普通の人には、これを追うなんてできないんですよ。魔法は魔導師にしか理解できませんから。そして肝心の魔導師を雇うには、これが」

 

 と、指で丸くお金の印を見せた。おそらく彼も、その方法は最適手とわかっていながら実行できない1人なんだろう。

 カンテラはあっという間に直してもらえた。アルは手先が器用で、宵ばな亭の建具や道具の修理は、主に彼の役目だった。

 ほら、と手渡されたそれに火を入れると、しっかりと光が灯った。

 

「うわぁ、ありがとう!本当にすごいねぇ」

 

 アルなら私が前にいた世界に転生したとしても、しぶとく生きていけそうだと思ったのは内緒だ。

 

「おう、銅貨3枚な」

 

 え?金取るの?

 アルはニヤニヤしながら手を伸ばしていた。

 

「……この前の月鳴草の売り上げで、勘弁!」

 

 マリアちゃんの声を取り戻した月鳴草。あれを魔導具屋で売って、なんと銀貨2枚になったのだ。山分けして、1枚ずつもらって結構な儲けだ。

 

「仕方ねぇなー」

 

 本気で言ってるわけでもなさそうなので、揶揄われているんだろう。

 私はカンテラを麻袋に入れ、肩に背負った。

 

「本当にいくのか?」

 

 アルは半信半疑だったみたいだ。私は力強くうなづいた。

 

「そりゃまあ、世界の秘密を知るためだからね」

 

 かっこいい事言ってるけど、実は少し怖かった。でも今のこの世界は、私の知ってる神エルからちょっと離れてしまっているみたい。私がやれる事なんてたかが知れているけれど、この知識が少しでも人々の役に立つのなら。愛する神エルの人々が本当の幸せを手に入れる事ができるなら。


 ◇ ◇ ◇


 まあそんなカッコつけて出かけていったって、私が行ける範囲は精々門の周囲と井戸や水路が関の山だった。イカーナさんが貸してくれた古い地図を見ながら、私は門から少し離れたところにある水路跡を歩いていた。

 遺跡なんて素人の私がみてもわかる事なんて一つもなかった。確かに崩れた壁のようなものや、割れた壺の破片が落ちていた。意味ありげに掘られた穴は竈の跡かな、とか考察のしがいはある。しかし知識のない私には壁に刻まれた古い図形が文字なのか模様なのかすら判別がつかない。解説のない社会科見学に来ているだけのお上りさんだった。

 一日中歩き通してみたが、収穫はなかった。一応『マナ・ラナ』の古代語は紙に移して図形と見比べたりもしたが、まるでダメだ。

 気を落として宵ばな亭への道のりを歩く。たぶんアルには笑い飛ばされるだろう。今日の仕事を変わってもらいあんなに意気揚々と出かけたのに収穫はゼロですなんて、いい話のネタにされるに違いない。

 気持ちが足取りに現れているかのように、狭い歩幅でトボトボと歩いていた。戻る道すがら、一人の女の子が岩に座って丘の方を見ているのに気がついた。赤いワンピースにおさげの、まだ幼い子だった。

 その子は、私が近づくと振り返った。どこかで、会ったことがある気がした。

 

「いい夕日だね、お姉ちゃん。……探し物みつかった?」

 

 どきりとさせられた。と同時に、この感覚を以前にも体験しているような気がした。

 その女の子をよく見て、私は思い出した。

 

「あっ、あなた、道具屋の子?」

 

 その言葉に、ニコリと笑顔を見せた。銀の小箱を手に入れた時、その場にいた女の子だった。夕暮れ時で暗くなりそうなのに、こんなところで遊んでいるのか。それとも迷子か。

 

「どうしたの?」

 

 何も言わなかった。

 

「お母さんやお父さんは?」

 

 彼女は大神殿のある丘を指差した。

 

「あそこいっちゃった」

 

 夕日に照らされた大神殿はオレンジ色に輝いていた。きっと、まはひみに何か尋ねに行ったのだろう。

 

「あなたは行かなかったの?」

「行かないよ。怖いもん」

 

 女の子は目をぎゅっと閉じた。

 

「おおきなおおきな黒い影。変な匂いも。ルルカは絶対に行かないよ」

 

 耳を塞いで目を塞いで、神殿の方なんて見たくもないと言うように、うずくまってしまった。

 

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