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第13話

 一足先にこの世界にやってきた、私のスマホ。神エルの愛を一緒に分かち合い、情報を調べ小説を書いて創作をしたり考察を色々出したり。全部こいつと共に歩んできた思い出がある。

 そのスマホが、推しの世界で神になっていた。

 驚きで何も言えない私をみて、大司教は尋ねた。

 

「見覚えが?」

 

 私物ですね、とは言えなかったが、狼狽え方で充分察したんだろう。彼らはそれ以上何も聞かなかった。

 

「こうして魔力をこめると、鈍く光ります」

 

 若い神官がスマホに触れると、画面が起動して中央で円が回っていた。

 うん、音声入力がONになったね。

 

「使用に魔力が必要なので、普通の方には扱えません。なのでこちらで管理しています」

 

 ああ、だからか。黒光りしてなぜか、ちょっとありがたいような感じがした。

 

「この石板は自らを“まはひみ”であると我らに語ってくれました。そしてこの世界の理を知ると」

 

 それ私が書いた考察じゃん、たぶん。

 

「結構……疲れるんです。多くの魔力を消費しますから」

 

 神官の額に汗が滲んでいた。彼は続けて言った。

 

「けどまはひみはちょっとワガマ……あいや、要求が多くて、過去にルシフェル様の魔力を要望されたことも」

 

 ちょっとお前私の名前で何てことしてんの!?わきまえろ!全く、私の黒歴史が本当すみません!

 心の中は恥ずかしさでいっぱいだ。そんな私の羞恥心をよそに、司教は神官と代わり自分の魔力をスマホへこめていた。

 

「ご覧にいれましょう。ある呪文が必要です」

 

 なんだろう、パスコードとか?設定してたっけと思い返した。大司教はスマホに手をかざし、大きく息を吸い込んだ。そして唱えた。

 

「ヘイSiri!」

 

 もう、ダメだった。

 私の吹き出した濁音が祈祷室に響き渡って静寂は壊れた。


 ◇ ◇ ◇


 夕暮れの丘を背に私は宵ばな亭へと戻った。アイツ、元気そうで何よりだよ。と、自分のスマホに対して感慨深い気持ちでいっぱいだった。

 まごうこと無く私のスマホ。充電、電波……色々謎はあるが、ここは魔法の世界だし異世界転生しておいて今更何をという気持ちだ。

 あれに聞くと、色々ケンサクして返事をくれるのだという。たぶん攻略Wiki見てるって。しかも勝手にまはひみとか名乗りやがって。大体誰ですか人のスマホに「ヘイSiri!」とか最初に叫んだのは。ありえん。他の転生者か?

 ブツブツと文句を垂れたが、まあでも神エル世界の人々の役に立っているのが私のスマホなら本望なのかもしれない。あいつとは長い付き合いだ。私はあのスマホの行方を生暖かく見守る事を決意していた。

 しかし、一見便利に見えて手放しに喜べない事情もあるようだった。私は司教が漏らした言葉を思い出す。

 

「最近はまはひみ様への願いの整理だけで夜が明けてしまう」

 

 実際たくさんの紙束を抱えた神官が部屋の中を忙しく歩き回っていた。酒が必要な夜もあるだろう。わかるわかる。

 

「皆、自分で考える前にまはひみに答えを求める。考えることを放棄してしまった先にあるものとは、恐ろしい」

 

 ゴドリックは深いため息をつきながら私に語った。便利過ぎるのも、考えものだ。私は『あなたの仕事、90%をAIで賄います!』という前世のネット広告を思い出していた。

 ……いやまって、そうなると女神ラナの加護のないサラ姫様は、一体どうしているの?アレン隊長は不在と言っていたが、それだけ?私は考え事を頭の中で巡らせた。神託クエスト第六章『サラ姫様の失踪』とはまた違う、別の不安を感じていた。

 

「オーイ、オーーーイ……」

 

 その時、何もない平原で微かに声が聞こえた。

 

「……ケテー、オーイ……オォーーイ……」

 

 不気味に低い声が何処かから響く。

 不思議に思って辺りを見渡したが誰もいない。しかし、気のせいにも思えない。

 

「オーーイ、ダレカーー」

 

 声は地面からしているようだった。そういえば朝誰かが、どこかの井戸から気味の悪い声が聞こえると話していなかったっけ?

 辺りの薄暗さも相まって、余計不気味に感じた。魔物?幽霊?私は身震いし、怖くなってその場を立ち去ろうとした。が、もし井戸に落ちた人がいるなら、大事なのでは?私は恐る恐る、地面を見ながら歩き回ってみた。そして、枯れた木の下に小さな井戸を発見した。声はそこから聞こえていた。

 

「……誰かいますか?」

 

 ぽっかりと口を開けている井戸の中に問いかけてみた。すぐに返事が来た。

 

「オオォーイ!すみません、上がれなくなってしまって、助けてくださいー」

 

 トンネルの奥から響くようなその声に、私は驚いたがすぐに街へ走り人手を借りに行った。


「助かりました……もう3日もあそこにいまして、絶望してました」

 

 大きくふくらんだザックを抱えた旅人だった。目が細くて身体もひょろひょろとした猫背の男性だ。井戸から出られなくなっていた彼は名をイカーナと言った。

 

「あんなところで一体どうして、何してたんですの?」

 

 カロッツァ夫人は不思議そうな顔をして水差しを彼の前に置いた。照れくさそうに彼は笑っていた。

 

「お恥ずかしい。実は考古学の研究をしてまして、ああいうところを調べるのが昔から好きなんです」

 

 イカーナは人の良さそうな顔をしていた。八の字の眉毛に、目尻が垂れていて物腰も低い。ごくごくと喉を鳴らして冷たい水を流し込んだ。

 

「よかったなぁ、あんなとこ滅多に人なんて通らないから。あと少し遅けりゃ餓死だな」

 

 ハッキリとした物言いをするのがアルのいいところだが、イカーナはそれを聞いて汗をかいていた。

 

「本当にそうなるところでした。途中で白い骨を見た時には、私の後の運命かと予感しました」

 

 怖ァ!私は絶対井戸に落ちないように気をつけようと誓った。イカーナは西の砂漠の方から井戸の中を歩いてきたという。古い井戸は枯れていて、中が繋がっているらしい。井戸の周囲では古代の遺跡が見つかるので、それを目当てに探索する人は多いと話す。

 

「ですが最近、城の外の警備が厳しいんですよね。こんなナリでしょ?何度もマラーナ兵士に怪しまれて追いかけられ……堪らず井戸に逃げ込んだら、中が繋がっていそうだったのでそこを歩いていたんです。そうしたら街のほうに行くにつれてどんどん深くなり……」

 

 這い上がれなくなったのか。まあ確かに、怪しげではあるから、職質したくなる気持ちはわかる。私は苦笑いで誤魔化したが、彼が話すマラーナの古代の遺跡については胸が躍った。昔から、そういう話が大好きだった。地元の古墳とか、よく埴輪を見に行ってたなぁ懐かしい。

 

「古代の遺跡ってどんなのなんですか?」

 

 私は思わず話を振った。イカーナはその問いに、嬉しそうに言葉を返した。

 

「生活習慣から魔法の跡まで!ありとあらゆる未知の発見がありますよ。助けてもらって何ですけど、私は死んでも井戸探索をやめられませんねぇ」

 

 マニアックな人はどこの世界にもいるもんだ、と私は半ば呆れながら相槌を打った。この人また絶対井戸の中で迷子になるんだろうなぁなんて思ったことは口に出さなかった。

 

 

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