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第9話努力の証

ミラベルとブレイブがユリウスに弟子入りしてから一年が経とうとしていた。11歳になった彼らの実力とは?

季節は巡り、春。


ブレイブがアルヴェイン侯爵家へ迎えられてから一年が過ぎようとしていた。


アルヴェイン家の庭園には、今日も木剣の打ち合う音と魔法が炸裂する音が響いている。


朝日に照らされた訓練場。


ユリウスは腕を組みながら、二人の教え子を見渡した。


「それじゃあ、今日も始めようか。」

「はい!」

「よろしくお願いします!」


ミラベルとブレイブの返事が重なる。


最初はぎこちなかった二人の息も、今ではぴったり合っていた。


ユリウスは思わず微笑む。


(2人とも…本当に強くなった。)


最初は魔法を一発放つだけで息を切らしていたミラベル。


木剣を握ることさえ様にならなかったブレイブ。


それが今では──。


「ミラベル。」

「はい!」

「火属性と風属性の複合魔法をやってみよう。」

「はい!」


ミラベルはゆっくり目を閉じる。深呼吸を一つ。


魔力を体中へ巡らせる。


以前ならここで魔力が乱れていた。


しかし、今は違う。


「風よ。」


足元に緑色の魔法陣。


「炎よ。」


赤い魔法陣が重なる。


普通なら互いに干渉し、暴発する二つの属性。


だが…。


「――火風かぜ槍!」


炎を纏った竜巻が一直線に的へ突き進む。


轟音と土煙。


的は真っ二つに砕け散った。


ユリウスは満足そうに頷く。


「うん、合格。」


ミラベルはぱっと笑顔になる。


「本当ですか!?」

「魔力制御が格段に上達した。」

「ありがとうございます!」


ミラベルは飛び跳ねるように喜んだ。


その様子を見ていたブレイブも嬉しそうに笑う。


「お嬢様、すごいです!」

「えへへ。」


照れながら笑うミラベル。


その姿を見てユリウスは苦笑する。


「褒められると本当に分かりやすく喜ぶね、君は。」

「うぅ…。」


ユリウスからの指摘に頬を赤くするミラベルであった。



「さて。」


ユリウスは今度は木剣を手に取る。


「次はブレイブ。」

「はい!」


ブレイブは木剣を構える。


一年前とは比べ物にならない。足の置き方。姿勢。視線。


どれも基本が身についている。


「いつも通り、一本でも取れたら君の勝ちだ。」

「はい!」


ブレイブは深く息を吸う。


(ユリウス様は本当にお強い…でも…今日こそは!)


ダンッ!


地面を蹴り、一気に間合いへ入る。


木剣が唸る。


「はぁっ!」


鋭い一撃。しかし…。


カンッ!


ユリウスにより軽く受け流される。


「まだ打ち込みが甘いよ。」

「はい!」


ブレイブは返事をしながらも動きを止めない。


二撃。三撃。四撃。


しかし、ユリウスは最低限の動きだけで全て捌いていく。


「焦らないで、相手をよく見るんだ。」

「はい!」


ブレイブは一歩下がる。


呼吸を整える。


(相手をよく見る…ユリウス様の動きを…見る!)


ユリウスの癖。


右肩。左足。視線。


一年間、毎日見続けてきた。


(!そこだ!)


ユリウスが木剣を上げる瞬間。


ほんの僅かに左脇が空く。


ブレイブは迷わなかった。


「っ!」


低く潜り込む。


体を捻り、木剣を突き出す。


コツン。


その切っ先がユリウスの胸へ触れた。


触れた瞬間に静寂が訪れる。


「…。」


ブレイブ自身も固まっている。


「え…。」


ミラベルが目を丸くする。


「入った…?」


数秒後。


ユリウスはゆっくり木剣を下ろした。


そして、ふっと笑い


「一本、取れたね。ブレイブ。」


そう一言口にした。


「え…っ?…や、やった…やったぁぁぁ!」


ミラベルが真っ先に駆け寄る。


「ブレイブ!すごい!ユリウス様から一本取れたじゃない!」


両手を掴まれ、ぶんぶん振られる。


「お、お嬢様!」


ブレイブは慌てる。


「たっ、たまたまです!」

「たまたまでもすごいわ!」


飛び跳ねるミラベル。まるで自分のことのように喜んでいる。


その笑顔を見て、ブレイブも自然と笑ってしまう。


「ありがとうございます…!」

「えへへ。」


ユリウスは二人の様子を見て苦笑した。


(本当に仲が良い。)


少しだけ胸がちくりと痛む。ミラベルは昔から見知った幼なじみだった。


だからこそ、その笑顔を誰より見てきた。


けれど。


今、彼女がこんなにも嬉しそうに笑っている理由は自分ではない。


それを寂しいと思わないと言えば嘘になる。


だが、その痛み以上に思うことがあった。


(…その笑顔が見られるなら。それでいい。)


王子ではなく、一人の友人として、そして師として…ミラベルとブレイブが成長していく姿を見ることが今は何より嬉しかった。


「よし。」


ユリウスは手を叩く。


「感動の共有はそこまで!」

「はい!」

「はいっ!」


息ぴったりの返事。


「ブレイブ。」

「はい!」

「一本取れたのは立派だ。でも…」


人差し指を立てる。


「今のは私がわざと癖を見せた。」

「…え?」


ブレイブが固まる。


「相手の癖を見る力が付いたかを試したかったからね。」

「そ、そうだったんですか……。」

「つまり。」


にこり。


「まだまだ課題はあると言うことだよ。」


ブレイブは苦笑した後に真っ直ぐユリウスを見つめて返事をする


「はい!もっと頑張ります!」


その返事にユリウスは満足そうに頷く。


「いい返事だ。」




その日の午後。


三人は屋敷の東門近くを歩いていた。


訓練を終えた帰り道である。


すると、門番が慌ただしく駆け寄ってきた。


「ユリウス殿下!」

「どうした?」

「ヴァルフォード公爵家のご子息が…ユリウス様にお会いしたいとお見えです!」

「カインが?」


ユリウスが少し驚く。


「珍しいな。」


門の向こうには、一人の少年が立っていた。


漆黒の短髪。鋭い灰色の瞳。


腰には年齢に似合わぬ風格を漂わせる剣。


その表情は無愛想そのものだった。


彼はユリウスを見るなり、短く言った。


「ユリウス、俺に稽古をつけろ。」


それだけだった。


ミラベルは小さく瞬きをする。


(!この人は…!)


ゲームで何度も見た攻略対象の一人。


王国最強の剣士を目指す公爵家の子息。


カイン・ヴァルフォード。



乙女ゲームの新たな登場人物との出会いが、静かに幕を開けようとしていた。

最後の最後に2人目の攻略対象キャラが登場しました。これからはユリウス以外の攻略対象キャラの紹介のターンが続くと思います。


今回は読んでくださりありがとうございました。次回も読んでくださると嬉しいです。

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