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第8話三人の誓い

ミラベルはブレイブを連れて訓練場に行き、ユリウスに一緒に彼にも修行をつけて欲しいと頼み込む。

翌朝…アルヴェイン侯爵家の庭は、朝露をまとった芝生が陽光を受けてきらきらと輝いていた。


訓練場では、いつものようにユリウスが木剣を肩に担ぎながらミラベルを待っている。


「今日は少し早いね。」


そう声を掛けようとしたユリウスは、思わず目を瞬かせた。


「…おや?」


ミラベルの隣には、もう一人少年が立っていた。


きちんと執事見習いの制服を着込み、その手には一本の木剣が握られている。


ブレイブだった。


「君は確か…」


「お、おはようございます、ユリウス様!執事見習いのブレイブです!魔獣に襲われた時は助けてくださりありがとうございました!!」


緊張した面持ちで深く一礼するブレイブ。


その様子を見て、ユリウスは不思議そうに首を傾げた。


「今日は何か手伝いかな?」

「違うんです!」


ミラベルが一歩前へ出る。


その表情は昨夜の出来事を思い出しているのか、どこか決意に満ちていた。


「ユリウス様、お願いがあります!」

「お願い?」


ミラベルは大きく頷く。


「ブレイブは私やユリウス、それにお父様やお母様、アルヴェイン家のみんなを守れるようになりたいって、一人で毎晩剣の練習をしていたんです。」

「……。」

「だからっ!」


ミラベルは真っ直ぐユリウスを見つめた。


「私と一緒に、ブレイブも鍛えてくれませんか?」


ユリウスは少し驚いたようにブレイブを見る。


「…そうだったのかい?」


その視線を受けたブレイブは、一歩前へ進み出た。


そして、木剣を地面へ置くとその場で片膝をついた。


「ブレイブ?」


ミラベルも思わず息を呑む。


ブレイブは深く頭を垂れたまま、静かに口を開いた。


「俺は、お二人に命を救っていただきました。」

「……。」


「名前も…居場所も…生きる意味も。」


一つ一つの言葉に、迷いはなかった。


「だから…!この命はもう俺一人のものじゃありません!お嬢様やユリウス様、侯爵様ご夫妻、屋敷のみなさん……皆さんを守るために使いたいんです!!」


ぎゅっと拳を握る。


「身の程知らずなのは分かっています…平民で、しかも孤児だった俺が、王子であるユリウス様に教えを乞うなんて…」


少し震える声。


それでも顔は上げない。


「それでも!どうか……!ご指導いただけないでしょうか…!?」


深々と頭を下げる。


その姿に、訓練場は静まり返った。


ユリウスは何も言わない。ただ、二人を見つめていた。


ミラベルも黙って見守る。


風だけが三人の間を吹き抜けていく。


やがて…。


「…ふぅ。」


ユリウスは静かに息を吐いた。


その表情は、少し困ったようで、少し嬉しそうでもあった。


「二人とも。」

「!はい!」

「はい!」

「そこまで言われたら…断れないじゃないか。」


ミラベルの顔がぱっと明るくなる。


「!それじゃあ…!」

「ああ。」


ユリウスは頷いた。


「引き受けよう。」

「!!ありがとうございます!」

「あ、ありがとうございます!!」


ミラベルとブレイブは思わず声を弾ませる。


しかし、ユリウスはすぐに表情を引き締めた。


「ただし。」


その一言で空気が変わる。王子ではなく、一人の指導者の顔だった。


「途中で根を上げることは許さない。」


ブレイブはごくりと息を呑む。


「強くなるということは、口で言うほど簡単じゃない。毎日の鍛錬…痛み…失敗…何度も壁にぶつかる。…それでも立ち上がる覚悟があるか?」


その問い掛けは鋭かった。


しかし、ブレイブは迷わない。


「あります!」

「本当に?」

「はい!」

「どんなに辛くても?」

「逃げません!」


ユリウスはゆっくり頷いた。


そして、片膝を折りブレイブと同じ目線まで腰を下ろす。


少年の瞳を真っ直ぐ見つめた。


「ならば、その決意に恥じないよう。」


優しく微笑む。


「存分に鍛えてあげよう。覚悟するように……ブレイブ。」


初めて。


ユリウスは彼の名前を呼んだ。


その瞬間、ブレイブの胸が熱くなる。


「!…はいっ!」


力強い返事だった。


「よろしくお願いいたします!」


深々と頭を下げる。


その姿を見ていたミラベルも、ほっと胸を撫で下ろした。


(よかった…。)


だが。


「さて。」


ユリウスが立ち上がる。


「安心するのはまだ早いよ。」


「え?」


にこり、と笑う。


その笑顔が、どこか楽しそうだった。


「ミラベル。」

「は、はい!」

「君もだよ?」

「えっ?」

「これからは魔法も剣術も、一段階上の内容を教える。」

「…!」

「ブレイブが来たからといって、君だけ楽になるなんて思っていないよね?」

「…」


ミラベルの顔が固まる。


「え、えっと……。」


冷や汗が流れる。


ユリウスはにっこり笑ったままだ。


「もちろん、ついて来られるよね?」


(こ、この笑顔…断れない……!)


一瞬だけ圧倒される。


けれど、隣を見るとブレイブが真っ直ぐ前を見据えていた。


その横顔には、昨日見た満月の夜と同じ決意が宿っている。


(…そうよね。私も…負けていられない!)


ミラベルは小さく笑った。


そして、杖を握り締める。


「はい!」


胸を張って答える。


「望むところです!」

「よろしい。」


ユリウスは満足そうに頷いた。


「では、今日から三人での訓練を始めよう。」


三人は訓練場の中央へ並ぶ。


朝日が彼らの背中を照らしていた。


「まずは体力作りだ。」


ユリウスがさらりと言う。


「屋敷の外周を二十周。」

「えっ。」


ミラベルとブレイブの声が重なった。


「もちろん時間制限付きだ。」

「えぇぇぇっ!?」


二人は思わず顔を見合わせる。


その様子にユリウスは吹き出した。


「安心して、最初はできなくても構わない。でも…。」


少しだけ真面目な表情になる。


「昨日の自分より、今日の自分。今日の自分より、明日の自分。少しずつでも前へ進むことが、強さへの一番の近道だ。」


その言葉は、二人の胸に深く刻まれた。


「はいっ!」

「はい!」


元気よく返事をすると、ミラベルとブレイブは並んで走り出す。


最初はぎこちない足取りだった。


けれど、隣には同じ目標を持つ仲間がいる。


前には導いてくれる師がいる。


笑い合い、励まし合い、ときには競い合いながら、三人は少しずつ強くなっていく。


それは、誰も知らない新たな未来へ続く第一歩だった。


この日から始まる修練の日々が、やがて王国を揺るがす数々の試練を乗り越える力となることを、まだ彼らは知らない。

ユリウスがミラベルだけでなくブレイブにも剣術を指導することになりました。三人の成長や絆、そして微妙な三角関係などをこれから書いていけたらと思います。


今回は読んでくださりありがとうございました。また次回も読んでいただけると嬉しいです。

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