第64話強化合宿、開幕
夏の長期休暇に入り二週間…ミラベル達はアウレリオに呼び出しを受けていた。
王立学院が長期休暇に入ってから、二週間目のこと。
ミラベル達は実家や家族のもとに帰り、魔王軍との戦いに向けた鍛錬だけでなく限られた時間の中で家族や友人との思い思いの日常を送っていた。
そんなある日の朝…。
通信魔法にてアウレリオが
『王城広場に戦いの装備一式を持って集合!』
と集合をかけてきた。
わけもわからず、魔法の杖や剣など装備を整えたミラベル達12人が集まっていた。
12人の正面には腕を組んだアウレリオが立っている。
「よし!」
アウレリオは全員の顔を見渡すと、ニヤリと笑った。
「今日から、お前達には特別訓練を受けてもらう」
「特別訓練?」
ミラベルが首を傾げる。
アルトはわくわくとした表情を向けながら反応する。
「!まさか…!?」
「そのまさかだ」
アウレリオは豪快に笑った。
「強化合宿をやる」
「ええっ!?」
何人かの驚きの声が重なるが、すぐにアウレリオが何故学院にやって来たのかを思い出した一行はすぐに気を引き締める。
カインも腕を組見ながら問いかける。
「具体的には、どこで何をするんですか?」
「場所はアルトの実家…辺境伯家が管理している島だ」
「俺の家の島?」
アルトが目を丸くする。
「ああ」
アウレリオは懐から地図を取り出した。
「王都からは俺の転移魔法で移動してもらう。」
地図を広げる。
そこには海に浮かぶ比較的大きな島が描かれていた。
「この島は大型魔獣の保護区にもなっている。」
「大型魔獣…ですか?」
ブレイブが眉をひそめる。
「もちろん、人間を襲う危険性が高い個体は隔離されている。だが、それでも野生の魔獣はいる。」
アウレリオは続ける。
「そこでお前達には――」
人差し指を立てた。
「一週間、その島でサバイバルをし生き残ってもらう」
「…!」
一瞬。
全員が黙った。
「一週間…!」
マリナが呟く。
「つまり…一週間島で自力で暮らすってことか?」
「そういうことだ。サバイバルなんだ。食事や寝床は自分達で確保しろ。安心しろ、水場は豊富にある島だ。最低限は生き残れる筈だ」
「…!」
一同、息を飲み話に耳を傾ける中、アウレリオは続ける。
「それと…もう一つ重要な条件がある」
アウレリオの表情が変わる。
「島には俺が作った魔法人形を大量に配置してある」
「アウレリオ様特製の魔法人形…!?」
ルシアンが興味深そうに呟いた。
「お前達がこれまで習ってきた魔法や剣術を使えば倒せる程度の強さにしてある」
「その人形達を倒していけば良いんですか?」
ブレイブが尋ねる。
「いや」
アウレリオは首を横に振った。
「倒すな」
「え?」
「今回の目的は殲滅じゃない」
アウレリオは懐から何本もの色とりどりのリボンを取り出した。
「お前達には魔法人形を最低限の攻撃か捕縛魔法のみで無力化してもらう。無力化ができたら、このリボンを結べ。」
リボンには小さな魔石が埋め込まれている。
「このリボンは試練が終われば消える。つまり、どれだけ無力化したかを後で確認できる。」
「なるほど…。」
エレノアが頷く。
「では、魔獣についても同じなのですね?」
「そうだ。」
アウレリオは頷いた。
「殺傷は人形同様に必要最低限。可能な限り動きを封じ、戦闘を終わらせろ。」
ミラベル達はその言葉により一層真剣な表情になる。
魔獣達にも知性がある、家族を持つ者もいる。
かつて捕らえた魔獣との出会いと別れで、それを知った。
だからこそ――。
「…分かりました」。
ミラベルは頷いた。
「絶対にこの試練を乗り越えて見せます!」
マリナも拳を握る。
「そうだな!一週間魔獣と人形を無力化しながらしっかり生き残ってやる!」
ブレイブも頷いた。
「俺も頑張ります!」
「私も」
ヴィオレットも。
「当然ですね。」
セドリックも。
「ええ。」
ロザリアも。
「面白そうですね」
ルシアンも。
アイリスも頷いた。
「私も協力します」
「俺もだ」
カインも答える。
エレノアもその隣に並ぶ。
「私もカイン様と一緒です。」
アルトは大きく息を吐いた。
「やってやろうじゃねぇか!」
ヴィオレットが笑う。
「アルト様…最初から修行する気満々でしたでしょう?」
「まあな!」
最後にユリウスが口を開く。
「私も、全力を尽くします。」
アウレリオは満足そうに笑った。
「よし!」
そして――。
「最後に一つ」
アウレリオは指を一本立てた。
「合流は自由だ。島の中で仲間を見つけたら、一緒に行動して構わない。一人で生き抜く力も必要だ。だが、戦場では仲間と力を合わせることも必要になる」
その言葉に、ユリウスが静かに頷く。
「個人の力と集団の力…その両方を試すわけですね。」
「そういうことだ。」
アウレリオが笑う。
「この一週間、お前達がどこまで成長したか…俺に見せてもらうぞ」
数十分後…転移魔法の準備が整った。
地面には巨大な魔法陣が描かれている。
12人がその中に入る。
マリナは隣にいるミラベルを見た。
「なあ、ミラベル!」
「何?」
「絶対、合流しような!」
「もちろん!」
ミラベルは笑う。
「でも、最初から誰かに頼るのはダメよ?連携の大切さと同時に個人の力も試されるんだから。」
「分かってるって!」
その後ろでブレイブが勢いよく声をかけてきた。
「俺も!個人で頑張りながら、お嬢様やマリナさん、ユリウス様達と合流してみせます!」
「ふふっ、そうね。」
ミラベルは笑顔で言葉を返した。
ユリウスも微笑む。
「では…まずは自分自身の力を試すとしよう。」
カインは剣を握り直す。
「どんな相手だろうと…負けるつもりはない。」
アルトも拳を鳴らした。
「俺もだ!」
セドリックは魔力を整え、ロザリアは杖を構える。
ルシアンとアイリスは互いに顔を見合わせた。
「では、行きましょうか。」
「ええ。」
エレノアとヴィオレットも準備を整える。
その様子を眺めていたアウレリオは――。
満足そうに笑った。
「それじゃあ…」
杖を掲げる。
「強化合宿、開始だ!」
魔法陣が眩い光を放った。
「うわっ!?」
「きゃっ!」
「これは――!」
12人の身体が光に包まれる。
次の瞬間。
全員の姿が――跡形もなく消えた。
同時刻、辺境伯領の巨大な島。
深い森、海岸、岩山、滝、草原…。
様々な地形が広がるその場所に、12人はそれぞれ別々に転移させられていた。
「っ…ここは?」
ミラベルがゆっくりと立ち上がる。
周囲を見回す。誰もいない。
「ブレイブ…?」
返事はない。
「マリナさん?」
やはり返事はない。ミラベルは杖を握った。
「本当に…一人なのね。」
その時だった。
――ガサッ。
茂みが揺れる。
ミラベルが瞬時に身構える。
「!」
次の瞬間、巨大な狼型魔獣が飛び出した。
「グルルルル……!」
「魔獣…!」
ミラベルは杖を構える。視線の先には猪型の巨大魔獣が一体。
杖を握る手に力を込める。
「私の実力で…無力化してみせる…!」
その瞬間、魔獣は動き出した。
ミラベルも地面を蹴る。
「――来なさい!」
魔力が、杖の先へ集まっていく。
夏休みの強化合宿。
それは、これまでの鍛錬の成果を試す、七日間の過酷な戦いの始まりだった。
ミラベル達の魔獣や魔族をできるだけ傷つけず無力化する強化合宿開始です。
アウレリオによって強化合宿の行方はどうなっていくか書いていきたいと思います。
今回は読んでくださりありがとうございます。次回も読んでいただけると嬉しいです。




