第62話力の使い方
王立学院の夏の長期休暇が迫る中、今日もミラベル達は鍛錬を続けていた。
学院祭終了後から数週間…生徒達の長期休暇が迫っている頃。
学院では、以前にも増して厳しい鍛錬が続いていた。
魔王軍の侵攻に備えるため。
そして何より――。
『誰かを守れる自分になるために。』
ミラベル達は、それぞれの力を磨き続けていた。
「そこだ!もっと腰を落とせ!」
アウレリオの声が訓練場に響く。
「はいっ!」
ブレイブが剣を振り下ろす。
ガキィンッ!
アウレリオの木剣と激突し、ブレイブの腕が大きく弾かれた。
「くっ…!」
「力任せに振るな!相手の動きを読め!」
「はい!」
再び構える。
その隣ではカインとアルトも激しい打ち合いを繰り広げていた。
「アルト!行くぞ!」
「おう!」
「お前は…右が甘い!」
「!うおっ!?」
カインの一撃をアルトが紙一重でかわす。
「…危ねぇ〜…!」
「笑っている場合か!」
「そういうお前も楽しそうじゃねぇか!」
「…否定はしない!」
二人の剣が再びぶつかる。
一方、魔法科組は――。
「ミラベル様、詠唱を短く!」
ルシアンが指示を飛ばす。
「はい!」
ミラベルが魔力を集中させる。
「暴風槍!」
風の槍が標的の魔力で動く人形へ突き刺さる。
ドォンッ!
「成功…した!」
「いいですよ。以前より魔力の収束が速くなっていますね。」
「ありがとうございます!」
ミラベルが嬉しそうに笑う。
そのすぐ隣では、マリナが一人で光を操っていた。
白く輝く巫女の力。
以前ならば、一度発動すれば周囲まで巻き込んでしまうほど強烈だった。
しかし――。
「…ゆっくり」
マリナは目を閉じる。
「焦らない…。」
両手を胸の前で重ねる。
「この力は…あたし一人の力じゃないんだ。」
光がゆっくりと収束していく。
「ミラベルがいて…」
柔らかな光が一点へ集まる。
「ブレイブがいて…」
さらに安定する。
「師匠がいて…」
そして――。
「みんながいる。」
光が穏やかに輝いた。
「…だから、どんな力だって…怖くない!」
マリナは目を開く。
目の前には、小さな光の球が浮かんでいた。
以前のような暴力的な輝きではない。
温かく、穏やかな光。
「!できた!」
マリナが呟く。
「できたぞ!みんな!」
「マリナさん!」
ミラベルが駆け寄る。
「すごいわ!」
「へへっ!」
マリナは嬉しそうに笑った。
「今までだったら、ここで力が暴れちまってた。でもみんなのことをもっと考えながらやってみたら…今度はちゃんと抑えられた!」
訓練を終えたブレイブも駆け寄る。
「本当にすごいです!」
「ありがとな!ブレイブ!」
ユリウスも静かに頷く。
「見事だよ、マリナ。」
「師匠もっ!ありがとう!」
「もう私が…何も言う必要はないくらいに成長したんだね。」
「んな寂しいこと言うなよ!これからも色々教えてくれよな!師匠!」
マリナは照れ臭そうにしながらユリウスを小突きそう言った。
するとアウレリオが腕を組んだまま近づいてくる。
「まだだ」
「え?」
「成功しただけで満足するな。」
「…!」
マリナが気を引き締める。
アウレリオは光の球を見る。
「力を制御するということは、ただ力を一点に凝縮することではない。」
「えっ?」
「必要な時には大きく、また別に必要な時には小さく、守るためなら優しく、敵を止めるためならより強く。」
アウレリオはマリナを真っ直ぐ見つめた。
「お前自身が、その力の使い道を決められるようになれ。」
「っ!」
マリナはしばらく光を見つめ――やがて笑った。
「分かった!」
その瞬間だった。
「…待ってください!」
後方からアイリスの声が響く。
彼女はルシアンと共に、何枚もの魔法式が描かれた紙を抱えていた。
「マリナさんの力を見ていて…ようやく分かったことがあるんです!」
「何がですか?」
ミラベルが尋ねる。
ルシアンが魔法式を広げる。
「古代の浄化魔法です。」
全員が息を呑む。
「以前から古文書を参考に研究していましたが、どうしても最後の部分だけ再現できなかった…。」
アイリスが続ける。
「ですが、巫女の力を観察していて気付いたんです。」
彼女はマリナの光を見る。
「古代の浄化魔法の再現に必要な力こそ巫女の力である、敵意や暴走の原因となっている魔力だけを取り除き、相手を消滅させずに本来の状態へ戻すものだということを。」
ミラベルの目が輝く。
「!それじゃあ…!」
「はい。」
ルシアンが頷く。
「マリナさんが今作り出した巫女の力の集合体を解析すれば古代の浄化魔法は完成すると思います。」
「本当か!?」
マリナが飛び上がる。
「やったじゃねーか!」
「ただし。」
ルシアンが苦笑する。
「巫女の浄化の力に比べ、いささか不完全さが残ると思われます。対象によっては効果が変わる可能性もある…。」
「それでも!」
ミラベルが笑う。
「大きな一歩です!」
「うん!そうだぞ!」
マリナも頷く。
「これなら…魔獣達を倒さなくても済むかもしれねぇ!」
その言葉に、ブレイブも強く頷いた。
「マリナさんと同じことを魔法で再現できるなんてすごいことですよ!」
カインも剣を肩に担ぐ。
「巫女だけでなく、魔導士達により魔獣を無力化できるなら、戦い方そのものが変わる。」
アルトも笑う。
「俺達は、その間みんなを守ればいい!」
「そういうことですね。」
セドリックも頷いた。
エレノア、ヴィオレット、ロザリア、アイリスも顔を見合わせる。
それぞれが、静かに頷いた。
アウレリオはそんな生徒達を見渡す。
「…なるほど」
そして、口元に笑みを浮かべた。
「ようやく形になってきたな」
「師匠?」
ユリウスが振り返る。
「これなら、ただ魔王軍を倒すだけじゃない…。」
アウレリオは空を見上げた。
「戦わずに済む道を探すこともできるかもしれん。」
その言葉に、ミラベルは強く頷いた。
「はい!」
そして隣にいたマリナの手を取る。
「みんなで一緒に探しましょう!」
「おう!」
マリナも握り返す。
その手に、ブレイブも重ねた。
「俺も!」
ユリウスも静かに手を添える。
「私もだ」
さらにカイン、アルト、セドリック達も次々に手を重ねていく。
「ちょっと人数多すぎるけど、なんかいいな!!」
マリナが笑う。
「ふふっ、そうね。」
ミラベルも笑った。
「仲間が多い方が心強いもの!」
「そうだな!」
マリナは眩しいほどの笑顔を浮かべた。
その中央で、巫女の光が小さく輝いていた。
かつては制御できなかった力。
誰かを傷つけてしまうかもしれない恐怖を抱えていた力。
けれど今は――仲間との絆によって、優しい光へと変わりつつあった。
「もっと強くなる。」
マリナが呟く。
「もっと上手く使えるようになる。」
そして、まっすぐ前を見る。
「人間界のみんなも…魔族も、魔獣も…誰も死ななくていいように。」
ミラベルも頷く。
「私もよ。」
ブレイブも。
「俺もです。」
ユリウスも。
「私も、力を尽くそう。」
みんなの決意を見つめながら、アウレリオは静かに笑った。
「よし!」
そして――。
「明日から、さらに厳しくするぞ!」
「え?」
「それに、もうすぐ長期休暇だ!やるぞ!最後の大詰めの強化合宿を!」
アウレリオは豪快に笑いながら宣言し、ミラベル達は驚愕するが、気を引き締めて
「はい!!」
力強く返事を返した。
戦いは、まだ始まっていない。
だからこそ、今の彼らには、鍛える時間がある。学ぶ時間がある。笑い合える時間がある。
そして――。
誰も犠牲にしない未来を探す時間がある。
その小さな可能性を胸に抱きながら、ミラベル達は再び明日の鍛錬へ向けて歩き始めた。
マリナが巫女の浄化の力のコントロールに成功し、それによりルシアンとアイリスが研究する古代の浄化魔法の完成にも不完全ですが漕ぎ着きました。
夏の長期休暇が近いとも描写したいので、次回以降は休暇についても書いていきたいと思っています。
今回は読んでくださりありがとうございます。次回も読んでいただけたら嬉しいです。




