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第58話学院祭

学院祭が本番を迎え、ミラベル達は意気込んでいた。

学院祭当日。


王都の朝は、いつもより少しだけ賑やかだった。


学院へ続く大通りには、普段は見かけないほど多くの人々が行き交っている。


生徒達の家族。学院の卒業生。王都に暮らす市民。


そして、遠方から我が子の晴れ舞台を見るために訪れた貴族達。


学院の正門には色とりどりの装飾が施され、校舎には生徒達が作った旗や飾りが並んでいる。


その光景を見つめながら、ミラベルは胸の奥が温かくなるのを感じていた。


「…本当に、始まるのね。」


魔法科一年の教室。


そこは今日、喫茶店へと姿を変えていた。


机を並べ替え、白いテーブルクロスを掛け、窓際には魔法で作られた小さな花々を飾っている。


教室の壁には、淡い光を放つ魔法石がいくつも浮かび、時間帯に合わせて景色を変える仕掛けまで用意されていた。


そして何より――。


女子生徒達はメイド服。男子生徒達は執事服。


その中でもミラベルは、鏡の前で自分の姿を確認していた。


白いエプロン。落ち着いた色合いのワンピース。


頭には小さなリボン。


前世の記憶を頼りに考えた衣装だった。


「…少し恥ずかしいわね。」


頬を赤くしながら呟く。


すると背後から声が飛んできた。


「ミラベル、すっげぇ似合ってるぞ!」

「マリナさん!?」


振り返ると、そこには同じくメイド服姿のマリナがいた。


普段の豪快さとまた違い、髪を纏めてメイド服を可憐に着こなしているマリナ。


「ほら!あたしだって似合ってるだろ?」

「ええ。とても似合っているわ!」

「だろ!」


胸を張るマリナ。


その隣ではエレノアとヴィオレット、アイリス、ロザリアもそれぞれ衣装を整えていた。


「ミラベル様もマリナ様もとても可愛らしいですね。」


エレノアが微笑む。


「ありがとう。エレノア様の方こそ、とても似合っていますよ!」

「あっありがとうございます!」


ヴィオレットは自分のエプロンを確認しながら笑った。


「こうして見ると、普段とは全然違う雰囲気ですね。」

「たまにはこういうのも悪くありませんわ。」


ロザリアも楽しそうに笑う。


アイリスはそんな皆を眺めながら、穏やかに微笑んでいた。


「準備した甲斐がありましたね。」


その時だった。


教室の扉が勢いよく開く。


「みんな、準備はできたかい?」


続いて入ってきたのはユリウスだった。


今日は執事服姿。


普段の王太子としての凛とした雰囲気とは違い、黒を基調とした衣装が妙に似合っている。


ミラベルは思わず目を丸くした。


「ユリウス様…!」

「?どうかしたかい?」

「似合ってますわ!とてもっ!」

「!そうかい?」


ユリウスは自分の袖口を見ながら苦笑した。


「ルシアンに着せられたんだけどね」

「僕は必要な演出だと思いますよ!」


その後ろからルシアンも現れる。こちらも執事服だ。


「それに王太子殿下が執事役をされるというのは、かなり話題になるでしょう」

「話題になるのは構わないけど…僕が給仕する姿を父上が見たら、何と言うだろうね」

「きっと喜ぶんじゃないか?」


マリナが笑う。


「王様は優しい父ちゃんだから、息子の師匠の晴れ姿を見て喜ばないわけねぇだろ!」

「!そうだね…。」


ユリウスは柔らかく笑った。


その時。


廊下から聞き慣れた声が響く。


「お嬢様!みなさん!」

「ブレイブ?」


ミラベルが扉へ駆け寄る。


そこに立っていたのは――。


騎士科一年の制服姿…ではなく。


演劇の勇者衣装姿のブレイブだった。


髪もいつもより丁寧に整えられている。


普段の鍛錬で鍛えられた身体に衣装がよく似合っていた。


しかし当のブレイブは、ミラベルの姿を見た瞬間――。


「…!!」


固まった。


「ブレイブ?」


「…あ、あの…」

「どうしたの?」

「…あ、いや、その!」


ブレイブの顔が一気に赤くなる。


「…すごく!…似合ってます!お嬢様の衣装姿が…!!」


「……!」


ミラベルの頬も赤くなった。


「そ、そう…!ありがとう!」


二人の間に妙な沈黙が流れる。それを見ていたマリナが首を傾げる。


「なんで二人とも顔赤いんだ?」

「な、何でもないわ!」

「ね、何でもないです!」


二人の声が重なった。


「?」


マリナはますます不思議そうな顔をした。


その様子を見ていたユリウスは、ほんの少しだけ苦笑する。


「ブレイブ。今日は騎士科の演劇もあるんだろう?」

「あ、はい!」


ブレイブは思い出したように手に持っていたものを差し出した。


「これ、渡しに来たんです!」


それは演劇のチケットだった。


「騎士科一年の公演、『三人の勇者』のチケットです!ユリウス様とマリナさん達にも見に来てほしくて!!」

「おっ!本当か!?」


ユリウスやマリナ達はブレイブからチケットを受け取る。


「休憩時間に来てくれませんか?俺達、今日までずっと練習してきたんです!」

「もちろんよ!」


以前、二人きりの時に自分にだけチケットを渡してくれたことを思い出しながらミラベルは嬉しそうに笑った。


「絶対に見に行くわ!」

「はいっ!待ってます!」


ブレイブは嬉しそうに笑った。


その笑顔を見たミラベルの胸が、また小さく高鳴る。


(……どうしてかしら)


最近、この笑顔を見ると妙に胸が温かくなる。


そんな自分の変化に戸惑いながらも、ミラベルは笑顔を返した。


「それじゃあ、俺はそろそろ戻ります!」

「頑張ってね、ブレイブ。」

「はい!」


ブレイブが駆けていく。


その背中を見送ったマリナが呟いた。


「ブレイブ、なんかすげぇ嬉しそうだったな」

「…そうね」


ミラベルも微笑む。


そして学院祭は――幕を開けた。



「お父様!お母様!」


校門付近。


客引きをしていたミラベルは久しぶりに会いたかった二人の姿を見つけ、思わず駆け寄った。


「ミラベル!その衣装、とてもよく似合っているぞ!」


父レオナルドが笑顔で娘を迎える。


隣では母セレスティアも嬉しそうに微笑んでいた。


「まあ…!本当に可愛らしい衣装ね。」

「お母様まで…!」


ミラベルは恥ずかしそうに頬を染める。


「学院祭なんて久しぶりですもの。今日は思い切り楽しませてもらうわ。」

「はい!」


そこへ――。


「お嬢様!」

「!オズワルド!」


オズワルドの声。


振り返ると、彼の後ろから久しぶりの顔が次々と現れた。


レン、ガイ、ノア、トーマ、ソフィー、リン、エマ。マリナの仲間達の姿もそこにあった。


ミラベルと一緒に客引きに来ていたマリナも嬉しそうに駆け寄る。


「みんな!久しぶり!元気だったか!?」

「姉御!久しぶり!学院ってすげぇな!」


そう言ったレンを先頭にみんなでマリナも駆け寄っていく。


「姉御!」

「マリナお姉ちゃん!」


7人が一斉にマリナを囲む。ガイが嬉しそうに宣言する。


「今日は絶対遊び倒すからな!」

「おう!楽しんでくれ!あたしのクラスの喫茶店にも来いよ!」

「…ふふっ」


その光景を見ながらミラベルは微笑んだ。


(こういう時間…やっぱり大切だわ)


魔王軍。魔界。亀裂。


一年という期限。待ち受ける戦い。


それらを考えれば、学院祭を楽しむことなど贅沢なのかもしれない。


けれど…今、この場所には笑顔がある。


家族がいる。仲間がいる。帰る場所がある。


だからこそ――守りたい。


ミラベルは改めてそう思った。





そして、喫茶店が開店する。


「おかえりなさいませ、ご主人様っ!」

「お待たせしました!こちらのお席へどうぞ!」


次々と訪れる客。


最初こそ緊張していた生徒達も、時間が経つにつれて慣れていく。


しかし――。


「えっと…こちらの注文は…っ!」


一人の生徒が注文を間違えてしまった。


「あ…っ、も、申し訳ございません!」


本人の顔が青ざめる。だが、その瞬間。


「大丈夫ですよ」


ミラベルがすっと隣に立った。


「私がこちらをお持ちするから、あなたは次のお客様をお願いします。」

「ミラベル様…はいっ!」

「焦らなくて大丈夫です。みんなでやっているんですから!」

「…はい!」


その言葉に生徒は笑顔を取り戻した。


一方。


「お待たせしましたー!」


マリナが大量の料理を抱えて歩いてくる。


「うおおおお!料理の配膳なら任せろ!」

「マリナさん、あなたは給仕係よ!」

「細けぇことはいいんだよ!」

「もうっ!」


マリナとミラベルのやり取りに、教室中に笑い声が響く。


さらにユリウス達が用意した魔法演出が始まる。


窓の外の景色が一瞬で夜空へ変わり、星々が教室の中を舞う。


「わぁ…!」


客達から歓声が上がった。


ルシアンが得意げに微笑む。


「成功ですね」

「そうだね」


ユリウスも満足そうに頷いた。


「みんな楽しそうだ」


そして――。


魔法科一年の喫茶店は、大盛況となった。




一方、騎士科一年の控室では――。


「…緊張しますね。」


ブレイブが呟いた。


隣にはカイン、そしてアルト。


三人とも勇者役の衣装を身につけている。


アルトが胸を張る。


「何言ってんだ!俺達が今日の主役だぞ!」

「アルト、お前は本番で台詞を忘れないようにな。」


カインが冷静に突っ込む。


「忘れるわけねぇだろ!」

「昨日忘れていた。」


「〜!あれは〜…練習だったから、本番ではさすがに間違えねぇよ!」

「そうか。それなら、くれぐれも忘れないように。」

「わかってるって!」


三人のやり取りを見て、周囲の生徒達が笑う。


そして――幕が上がった。




「勇者よ!この世界を救ってくれ!」


物語は順調に進む。


三人の勇者が旅立ち。


魔物と戦い、仲間達と絆を深め、そして最後には魔王の城へ辿り着く。


激しい戦闘。


アルトの豪快な剣撃。カインの鋭い一撃。


そしてブレイブの――。


「俺達は…この世界を守る!」


観客席から歓声が上がった。


ミラベルも思わず身を乗り出す。


(…すごい)


ブレイブの表情は真剣そのものだった。


それは演技のはずなのに――。


ミラベルには、ブレイブが本物の勇者のように感じられた。


やがて勇者達は魔王を倒す。


平和になった世界。


三人の勇者はそれぞれ故郷へ帰ることになる。


そしてブレイブ演じる勇者の最後の場面。


幼い頃から想いを寄せていた幼馴染の女性の前に立つ。


「俺は…旅の間ずっと考えていた。」


少女が振り返る。


「俺が守りたいものは何なのかを…。」


ブレイブは真っ直ぐ彼女を見つめる。


「…やっぱり、一番に守りたいと想うのは…お前だった。」


客席が静まり返る。


「今度こそ…俺はお前に伝える。」


そして――。


「俺と…結婚してくれ!」

「…!」


観客席から大きな歓声が上がった。


一方、ミラベルはというと――。


「…。」


完全に固まっていた。


(け、結婚!?)


胸がどくん、と鳴る。


なぜだろう。演劇なのに。ただの台詞なのに。


ブレイブの真剣な表情が頭から離れない。


「ミラベル?どうかしたか?」

「へっ!?」


隣にいたマリナが不思議そうに顔を覗き込む。


「顔、真っ赤だぞ?」

「えっ!?」

「熱でもあるのか?」

「な、何でもないわ!」


ミラベルは慌てて顔を隠した。


その様子を見ていたユリウスは、何も言わずに小さく微笑んだ。




学院祭は夕方まで続いた。


そして――。


全ての出し物が終わり、撤収作業が始まる。


生徒達は疲れ切っていた。


それでも。


「楽しかったな!」

「うん!」

「またやりたい!」


そんな声があちこちから聞こえる。


それはミラベル達も同じ気持ちであった。


「大成功…だったわね!」

「だな!」


隣にいたマリナが大きく頷く。


「最初は祭りなんてやってていいのかって思ったけど…めちゃくちゃ楽しかった!」

「ふふ。私もよ。」


エレノアやヴィオレット、アイリス、ロザリアも頷いた。


「皆さん、最初は慣れない衣装に戸惑っていましたけれど、最後にはすっかり板についていましたね。」

「特にマリナさんの接客は…。」


ヴィオレットが苦笑する。


「『お客さん! もっと食べろよ!』と料理を次々と勧めるのは、少々豪快すぎた気もしますが。」

「いいじゃねぇか!腹いっぱい食ったほうが幸せだろ!」

「まあ、マリナさんらしいですけどね。」


ミラベルも思わず笑う。




そして――学院祭は終盤を迎えた。


日が沈み、学院を照らしていた無数の灯りが消えていく。


その代わりに、校庭には魔法によって作られた淡い光が浮かび上がっていた。


青。白。金。淡い桃色。


無数の光球が夜空へ浮かび、まるで星々が地上へ降りてきたかのようだった。


「すげぇ…。」


マリナが目を輝かせる。


「綺麗だな……!」


生徒達の歓声が校庭に響く。


そして音楽が流れ始めた。


学院祭恒例の――後夜祭。


校庭では、男女の生徒達が次々とペアになり、魔法の光に包まれながら社交ダンスを踊り始めていた。


「ほら、踊ろうぜ!」

「ええ、喜んで!」


楽しそうに手を取り合う生徒達。


光の粒が二人の周囲を舞い、足元には淡い魔法陣が浮かぶ。


その幻想的な光景を――。


学院の教室の窓から、ミラベルが眺めていた。


「綺麗…。」


そう呟きながら、外を見つめていると教室にある人物が飛び込んできた。


「お嬢様!ここにいらっしゃったんですね!」

「!ブレイブ!どうしてここに…!?」


ブレイブであった。ミラベルは驚きながら問いかけるとブレイブは安心した表情でこう言った。


「みなさんもう外に出て後夜祭を楽しんでらっしゃるのにお嬢様だけがいなかったので…ここかと思いまして!あの…どうかされました?」

「うん…ちょっと名残惜しくてね…一人で残っていたの。」


ミラベルとブレイブ。


今教室内はこの二人きりだった。


「…綺麗ね。」


ミラベルが呟く。


「!はい。」


ブレイブも窓の外を眺める。


「こんな景色…初めて見ました。」

「私も。」


しばらく二人は黙っていた。


やがてミラベルが、少しだけ躊躇いながら口を開く。


「ねぇ、ブレイブ。」

「はい?」

「……私と…一緒に踊ってくれない?」

「え……?」


ブレイブの目が丸くなる。


「お、お嬢様と…俺が…ですか!?」

「うん。」


ミラベルは少し照れながら笑った。


「駄目…かしら?」


「い、いえ!そんなことは!」


ブレイブは慌てて首を横に振った。


「ただ…俺なんかがお嬢様と踊っていいのかと思って…!」

「私は、ブレイブと踊りたいの」


その一言に――。ブレイブは息を呑んだ。


そして、ゆっくりとミラベルの前へ歩み寄る。


彼は一度深く息を吸うと――。片膝をついた。


「…お嬢様。」


そして右手を差し出す。


「この俺でよろしければ…一曲、お相手をお願いいたします!」


ミラベルの顔がぱっと明るくなる。


「はいっ!」


そっと、その手を取った。


二人は校庭へ向かった。魔法の光が舞う夜の学院。


その中で、ミラベルとブレイブもゆっくりと踊り始める。


最初はぎこちなかった。


「ご、ごめんなさい。少し足を…!」


「大丈夫です、お嬢様。俺も慣れてませんから!」


二人とも苦笑する。


けれど、何度か足を運ぶうちに自然と息が合っていった。


ミラベルのドレスの裾がふわりと舞う。


ブレイブが手を差し伸べ、ミラベルがその手を取る。


くるり。二人の身体が回る。


魔法の光が二人を包み込む。


「…楽しいわね。」


ミラベルが微笑む。


「そうですね。」


ブレイブも笑った。


「…お嬢様と踊れて、俺…すごく嬉しいです!」

「私も…ブレイブと踊れて嬉しい。」


二人の距離が、ほんの少し近くなる。


ブレイブは胸の高鳴りを感じていた。


ミラベルもまた、自分の鼓動がいつもより速いことに気付いていた。


けれど――。


今は、その理由を考えなかった。


ただ、この時間を大切にしたかった。



少し離れた場所。その光景を見つめる人物がいた。


ユリウスだった。


窓越しに踊る二人を見つめながら、彼は微笑んでいる。


「…良かったね、ミラベル。」


その声には優しさがあった。


けれど――どこか、切なさも滲んでいた。


その隣ではマリナが二人を見つけて声を上げようとしていた。


「おーい!ミラベ――」

「マリナ。」


ユリウスがそっと制止する。


「?」

「今は…二人にしてあげよう。」


マリナは不思議そうにユリウスを見る。


そして校庭へ視線を戻した。


ミラベルとブレイブは、楽しそうに踊っている。


「!…そっか。」


マリナは何となく事情を察したらしい。


そして突然、ユリウスの手を掴んだ。


「師匠!」

「え?」

「今から、花火上がってるんだってよ!」

「花火?」

「そう!せっかくの祭りなんだから、師匠も見に行こうぜ!」

「ちょ、ちょっとマリナ――!」


ぐいぐいと引っ張られるユリウス。


「ほら、早く!」

「!…分かった、分かったよ!」


ユリウスは苦笑する。


けれど――その表情は、少しだけ柔らかくなっていた。


(…ありがとう、マリナ。)


自分の胸の内を理解しているのか。


それとも、ただ純粋に楽しもうとしているだけなのか。きっとマリナ自身にも分かっていない。


それでも――その無邪気な優しさが、今のユリウスにはありがたかった。


「さあ、行こうぜ!」

「ああ!」


二人は廊下の向こうへ消えていく。




その頃。学院の上空ではアウレリオとセリーヌ達魔法科の教師達が杖を構えていた。


「いきますよ!アウレリオ様!」

「ああっ!若人達、俺達教師からのちょっとしたプレゼントだ!受け取れ!」


夜空に、一筋の光が走った。


次の瞬間――。


ドォンッ!


大きな花火が夜空に咲いた。


赤。


青。


金。


無数の光が夜空いっぱいに広がっていく。


校庭から歓声が上がる。


「うわぁぁぁ!」

「綺麗!」

「すげぇ!」


その光に照らされながら――。


ミラベルとブレイブも足を止め、夜空を見上げていた。


「…綺麗。」

「はい。」


ブレイブは花火を見上げながら、隣にいるミラベルを見る。


花火の光を受けた彼女の横顔。


その姿が、ひどく美しく見えた。


(…守りたい。)


ふと、そんな想いが胸に浮かぶ。


体育祭の時。魔界との亀裂塞いだ時。


これまでの戦い。これから待ち受ける魔王軍との戦い。


不安は消えない。


それでも――。


「…お嬢様。」

「なに?」

「俺…もっと強くなります!」


ミラベルが振り返る。


「絶対に、もっと強くなって…お嬢様を…みなさんを…もっともっと守れるようになります!」


ミラベルは少し驚いたあと――優しく微笑んだ。


「…ありがとう、ブレイブ!」


そして、彼の手をそっと握る。


「私も強くなるわ。ブレイブのこと…みんなのことをもっともっと守れるように。」


二人は夜空を見上げる。


花火が次々と咲いていく。


それはまるで――。


これから待ち受ける戦いを前にした二人への、ほんの束の間の祝福のようだった。




やがて最後の花火が夜空に咲く。


大きな光が、学院全体を照らした。


その下には――。


家族と再会した生徒達。友人と笑い合う生徒達。


教師達。


そして、これから世界を守るために戦おうとしている少年少女達。


ミラベルは静かに目を閉じる。


「…この場所を…。」


目を開く。


「…絶対に守りたい。」


その呟きを聞いたブレイブは、力強く頷いた。


「はい、必ず…!」


二人の視線の先。


夜空には、まだ微かな光の残滓が漂っていた。


学院祭は終わった。


けれど――。


彼らの物語は、まだ終わらない。


むしろこれから始まる戦いへ向けて――。


それぞれの胸に、新たな決意が刻まれた夜だった。

今回はいつもより長い話になりました。無事に学院祭が終了しミラベルとブレイブ(と二人を見守るユリウスとマリナ)の距離もまた縮まり守りたいものへの決意を新たにしました。


次回以降は少しの間別の視点で話を書いていこうと思っています。


今回は読んでくださりありがとうございました。次回も読んでいただけると嬉しいです。

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