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第57話学院祭への一歩

学院祭まであと二週間…ミラベル達は着々と準備を進めていた。

学院祭まで、残り二週間。


魔王軍との戦いに備えた鍛錬と並行して、学院では着々と準備が進んでいた。


魔法科一年の教室では、机を並べ替えたり、壁に飾り付けを施したりと、生徒達が慌ただしく動き回っている。


「それはもう少し右!」

「分かった!」

「この飾り、魔法で浮かせたら綺麗じゃないか?」

「それいいわね!」


普段の授業とは違う活気に、教室は包まれていた。


そんな中――。


「よしできた!」


ミラベルが両手を腰に当てる。


彼女の目の前には、一枚の紙。


そこには学院祭で提供する予定のメニューがずらりと並んでいた。


「紅茶、焼き菓子、ケーキ…」


隣からマリナが覗き込む。


「おっ!ケーキもあんのか!」

「ええ。何種類か用意する予定よ。」

「じゃあ、あたしもそれ全種類食いてぇ!」

「ふふっ、お客様に出すものだから…でも、あとで試食はしてみましょう。」


ミラベルはツッコミながらも優しくそう言った。


「あはは!やった!」


マリナは楽しそうに笑った。


その様子を見ていたエレノアとヴィオレットも微笑む。


「マリナさん、本当に楽しそうですね。」

「ええ。体育祭の時はみんなを守らねばと張り詰めた様子でしたから…あの笑顔が本来のマリナさんなのでしょうね。」


体育祭。


魔獣が襲撃し、多くの生徒達が恐怖に震えたあの日。


あの出来事を思い出せば、今こうして笑っていられること自体が奇跡のようにも思える。


けれど――。


だからこそ。


ミラベルは、この時間を大切にしたかった。


「…あの、みなさん。」


ミラベルが口を開く。


「どうなさいました?」


アイリスが顔を向ける。


「学院祭…絶対に成功させましょうね。」

「もちろんです。」


ロザリアが笑顔で頷く。


「ええ。」


エレノアも続く。


ヴィオレットも頷いた。


「せっかくですもの。思い切り楽しみましょう!」

「うん!」


マリナが元気よく拳を突き上げた。


「絶対、最高の祭りにしてやろうぜ!」

「ふふっ」


ミラベルはそんなマリナを見て微笑んだ。


(…こういう時間も、きっと大切なのよね)


前世のゲームでは、ただのイベントだった。


けれど、この世界では違う。


一人一人が笑っている。その笑顔には、それぞれの人生がある。


だから――守りたい。


この光景を。




一方、男子達は教室の内装作業に追われていた。


「この壁、もう少し明るくした方がいいんじゃないでしょうか?」


セドリックが魔法陣を確認する。


「そうですね。ですが明るすぎると料理が見えにくくなるかもしれません」


ルシアンが眼鏡を押し上げながら答える。


「なら、時間帯によって明るさを変える魔法を組み込めばいい」


ユリウスが魔法陣を覗き込む。


「なるほど」


セドリックが頷いた。


「さすが殿下です。」

「私一人の案じゃないよ。みんなで考えたものだ」


ユリウスは微笑む。


そして、その横では――。


「あの…ユリウス殿下。」


ルシアンが少し困った顔をする。


「この接客マニュアル…本当にここまで細かくする必要があるのでしょうか?」

「必要だよ」


ユリウスは真顔だった。


「お客様が来た時の挨拶、席への案内、注文の取り方、料理を運ぶ順番…万が一料理を落としてしまった場合の対処まで書いてある」


セドリックが苦笑した。


「殿下は本当に几帳面ですね」

「ミラベル達が作る店なんだ。成功させたいからね」


その言葉に、ルシアンとセドリックは顔を見合わせる。


そして――。


「殿下らしいですね」


二人とも笑った。




その頃。


騎士科では――。


「そこ!」


グスタフの怒声が飛んだ。


「もっと胸を張れ!」

「はい!」


舞台上では、ブレイブ、カイル、アルトが剣を構えている。


三人が演じるのは、世界を救う三人の勇者。


だが――。


「アルト!」

「はいっ!」

「お前は勇者だろう!その顔は何だ!」

「えっ!?」

「お前の役は魔王を目の前にして恐怖心を滲ませながらも勇気を奮い立てる役だぞ。お前の顔はワクワクしているようにしか見えない!」

「ふ、複雑な演技なんだから仕方ないでしょ!?難しいんですよ!」

「言い訳するな!」

「り、理不尽だぁ〜!」


アルトが叫ぶ。


その横でカインが呆れた顔をする。


「…お前、演劇向いてないんじゃないか?」

「カインまで!?」


ブレイブは苦笑していた。


「でも、少しずつ良くなってきてますよ!」

「本当か?」

「はい!」

「じゃあもっと褒めてくれ!」

「えっ!?えーっと…」


ブレイブが困っていると――。


「ブレイブ!」


グスタフが叫ぶ。


「お前もだ!」

「!はい!」

「最後の場面!もっと感情を込めろ!」

「最後の…場面?」

「故郷へ帰った勇者が幼馴染に想いを伝えるところだ!」

「…っ!」


ブレイブの顔が固まる。


「は、はい…!」


その様子にアルトがニヤニヤする。


「お前、顔真っ赤じゃん。」

「そ、そんなことありません!」

「もしかして本当に好きな奴でもいるのか?」

「い…いないです!」

「怪しいなぁ〜」

「本当にいないですって!」


カインも少し笑った。


「…まあいい。続けるぞ」


ブレイブは深呼吸した。


そして――。


故郷に帰った勇者として、台詞を口にする。


「…俺は、ずっとお前に伝えたかった」


声はまだ少し硬い。


けれど、その瞳には真剣な光が宿っていた。


「俺は…これからも、お前の隣にいたい」


言葉を発した瞬間。


なぜかブレイブの脳裏に――。


ミラベルの笑顔が浮かんだ。


「…っ」


心臓が跳ねる。


(…なんで、お嬢様が…)

「ブレイブ?」


カインが声を掛ける。


「大丈夫か?」

「は、はい!」


ブレイブは慌てて首を振った。


「大丈夫です!」


アルトは意味ありげに笑っていた。


「…ふーん?」

「な、なんですか?」

「別に~?」


そんな三人のやり取りを、舞台袖からグスタフが見ていた。


「…青春だな。」

「何を年寄りみたいなことを言っているんですか。」


舞台の魔法演出協力で来ていた、セリーヌが呆れた顔で隣に立つ。


「君だって楽しんでいるだろ?」

「否定はしません。」


二人は若者たちの眩しい姿を前にして優しく笑った。



その日の放課後。


魔法科の教室では、女子達が衣装作りに取り組んでいた。


「ミラベル様、このリボンはどうですか?」

「すごく似合ってるわ!」

「じゃあこっちは?」

「それも素敵!」


色とりどりの布。可愛らしいリボン。


そして――。


「…これがメイド服?」


マリナが目の前の衣装を見つめる。


「そうよ」

「へぇ〜、ミラベルの屋敷のメイドさんが着てたのとは結構違うんだな!」


ミラベルは自分の衣装を確認する。


白いエプロン。落ち着いた色のワンピース。


長いスカート。


「…なんか…変な感じだ。」

「似合っていますよ。マリナさん。」


エレノアが微笑む。


「本当か?」

「ええ。」

「じゃあ、これ着てバリバリ接客するぞ!」

「そうですね、一緒に頑張りましょう。」

「よし!」


マリナは嬉しそうに頷く。


「絶対、いっぱい客呼んでやる!」

「その前に…!接客用の言葉遣いを覚えてね?」


ミラベルからの言葉にマリナはピタリと黙る。


「…」

「マリナさん?」

「が…頑張ります…わ。」


その言葉に、全員が微笑ましい気持ちになり、笑った。




そして――学院祭まで一週間。


準備は大詰めを迎えていた。


ミラベル達が教室で最後の確認をしていると――。


「お嬢様!」


声を掛けられる。


振り返ると、そこにはブレイブがいた。


「ブレイブ?」


「あのっ…これ…良かったもらってください!」


ブレイブが手にしていたのは、一枚の紙だった。


「騎士科の演劇のチケットです!」

「わぁ!」


ミラベルが受け取る。


「ありがとう!」

「よかったら…!休憩時間に見に来てください!」


ブレイブは少し緊張した様子で続けた。


「俺達、頑張って練習してますから…!」

「もちろん!」


ミラベルは笑顔で頷いた。


「絶対に見に行くわ!」

「本当ですか!?」

「ええ!」


その笑顔を見た瞬間、ブレイブの胸がまた高鳴った。


(っ!…やっぱり)


ミラベルの笑顔が好きだ。


そんな思いが、胸の奥から自然に湧いてくる。


けれど――。


「ブレイブ?」

「は、はい!」

「どうしたの?」

「い、いえ 何でもありません!」


慌てて頭を下げる。


「それじゃ、俺は練習に戻ります!」

「頑張ってね!」

「はい!」


走り去っていくブレイブ。


その背中を見送りながら、ミラベルは首を傾げた。


「…なんだか今日のブレイブ、いつもと雰囲気が違ってような…?」

「そうか?」


二人のやり取りを近くで見ていたマリナは声をかけながら首を傾げる。


「慣れない演劇の練習で疲れてんじゃね?」

「そう…かしら?」


ミラベルは小さく笑った。


その頃――。


廊下の角まで走ったブレイブは、壁に手をついた。


「……はぁ〜…」


顔が熱い。


「俺……何やってるんだ…!」


自分でもよく分からない。


ただ――。


学院祭の日。


ミラベルに自分達の演劇を見てもらえる。


それが、どうしようもなく嬉しかった。




そして、その日の夕方。


学院の屋上。


アウレリオは一人、夕焼けに染まる学院を見つめていた。


その隣にセリーヌとグスタフが並ぶ。


「準備は順調そうですね」


セリーヌが言う。


「ああ」


グスタフも頷く。


「生徒達の顔が明るくなりましたな。」


アウレリオは笑った。


「それでいい。」


しばらく三人は黙って学院を見つめる。


やがてアウレリオが呟いた。


「…何が起きても…。」


拳を握る。


「あの笑顔は、俺達教師が守るぞ。」


セリーヌも静かに頷く。


「ええ、もちろんですわ。」


グスタフも答えた。


「そのために俺達はここにいるのですから。」


夕陽が沈んでいく。


学院祭まで、あと一週間。


そして生徒達はまだ知らない。


この何気ない一日一日が――。


後に彼らにとって、決して忘れられない大切な思い出になることを。

ミラベル達が思い出を作る裏でアウレリオ達教師陣がいざという時に守ろうと支えています。


また、学院祭編で恋愛的な意味でもキャラ同士の関係性を進めたいと思っています。


今回は読んでくださりありがとうございました。次回も読んでいただけたら嬉しいです。

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