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第54話語られる歴史とこれからの話

地下収容所での魔獣との一件から一週間後…ミラベル達は図書室へと集まっていた。

ミラベル達と王都地下収容所での魔獣との一件から一週間後…。


ミラベルは図書室の窓際に座りながら、手元の分厚い古文書を見つめていた。


「…これが、昔の魔王軍と巫女の戦いを記した古文書なんですね。」

「そうだ。」


向かいに座るユリウスが頷く。


テーブルの上には何冊もの古文書が並べられていた。


隣にはルシアンとアイリス。


そしてミラベルとユリウスの他に、ブレイブ、マリナ、カイン、セドリック、エレノア、ロザリア、アルト、ヴィオレットたちも集まっている。


「王宮の書庫に眠っていた資料を、私がルシアンとアイリスに頼んで調べてもらったんだ」

「いやぁ…これ、想像以上に古い資料でしたよ」


ルシアンが苦笑する。


「文字そのものが今の王国で使われているものと微妙に違うんです。アイリスと共同でなかったら、解読にはもっと時間がかかっていたと思います。」

「私はルシアン様の補助をしただけです。」


アイリスが静かに微笑む。


「二人ともありがとうございます!」


ミラベルが頭を下げると、ルシアンは慌てて手を振った。


「いやいや!僕たちも興味深い研究ができましたからね。それに…」


ルシアンは古文書へ視線を落とす。


「ここに書かれている内容は、僕たち全員に関係する話です」


その言葉に、室内の空気が少しだけ引き締まった。


ユリウスが古文書の一頁を開く。


「では…話そう」

「…はい!」


ミラベルも姿勢を正した。


「かつて――この世界には、人間界とは異なるもう一つの世界が存在していた」


ユリウスは古文書を読み上げる。


「その名は――魔界そこには人間とよく似た姿を持つ種族――魔族が暮らしていたとされている…魔獣は魔族が生み出した存在ではない。魔界に自然発生する生物もいれば、魔族によって使役されるものもいたようだ」


そして、次の頁をめくる。


「当時の魔王は、人間界に目をつけた」


古文書には、広大な土地や豊かな森林、鉱山などが描かれている。


「魔界よりも遥かに豊かな土地を手に入れるため――魔王は人間界への侵略を決断した」


ミラベルは胸の奥が重くなるのを感じた。


「そして…」


ユリウスが続ける。


「魔王は大量の魔獣を人間界へ送り込み、さらに魔族による軍勢まで侵攻させた」

「…戦争…ですね。」


エレノアが小さく呟いた。


「ああ」


ユリウスは頷く。


「だが、人間側にも立ち向かう者がいた」


その頁には、一人の女性と、その周囲に集う数人の男女が描かれていた。


「神に選ばれし巫女」


マリナが絵をじっと見つめる。


「…これが、昔の巫女か?」

「そうだ」


ユリウスは静かに答えた。


「そして巫女は、一人で魔王と戦ったわけではない」


古文書には、巫女の隣に剣士、魔法使い、弓使い、槍使いらしき人物が描かれている。


「巫女が心から信じた仲間達と共に戦った」


ミラベルは、その絵を見つめながら思った。


(…夢の中のマリナさんが言っていたことと同じだ…)


巫女の意思を伝える者…本来のマリナが伝えた巫女が心から共に戦いたいと願った仲間。その姿が描かれたものであった。


「そして…」


ユリウスが最後の頁を開く。


「魔王軍は敗北した」


全員が息を呑む。


「巫女と仲間達を中心とした人類の軍勢によって魔王は討たれ、魔界と人間界を繋いでいた扉は封印された」

「では…魔界から来た魔獣たちはどうなったんですか?」


ブレイブが尋ねる。


ユリウスは少し表情を曇らせた。


「…帰れなくなった」

「…え?」

「魔界と人間界を繋ぐ扉が閉じられたからね…」


マリナが拳を握る。


「じゃあ…今あたし達の世界にいる魔獣たちは…」

「人間界に取り残された魔獣達の末裔だ。」


沈黙が落ちた。


だが、次の文章を読んだユリウスが顔を上げる。


「最初は人間達に牙を剥いていた魔獣達だったが…そこで巫女の力が使われた」

「巫女の力?」

「浄化の力だ」


ユリウスが説明する。


「巫女は、人間界に残された魔獣たちから敵意や凶暴性を取り除いていった」


マリナは唖然とした。


「じゃあ…魔獣って浄化さえうまくいけば…戦わなくても済むのか?」

「古文書を読む限り、そう考えるのが自然だね。」


ルシアンが答える。


「それに、全ての魔獣が生まれながらに人間を憎んでいたわけでもないと思われます。あくまで命令する側使役する側の思考に依存しているだけだとも…。」


マリナは拳を膝の上に置いた。


体育祭で戦った魔獣。そして、亀裂の向こうから現れた人語を話す魔獣。


あの魔獣は言っていた。


――魔王様は子供だけは巻き込まないと約束してくださった。


――これは種族の存亡を賭けた高潔な戦いなのだ。


「……じゃあ」


マリナの声が震えた。


「あたしが体育祭で消しちまった魔獣も…もしかしたら…!」

「マリナさん」


ミラベルが優しく呼びかける。


「あなたは悪くないわ」

「でも…」

「アイリスさん」


ミラベルが振り返る。


「マリナさんの浄化の力について、何か分かることはありますか?」


アイリスは少し考えてから答えた。


「仮説ですが…」

「はい」

「マリナさんが体育祭で発現させた浄化の力は、まだ覚醒したばかりでした」

「…うん」

「そのため、力の制御ができなかった可能性があります」


アイリスは古文書を指差した。


「そして、古代の魔獣たちは長い年月をかけて巫女の浄化を受け、人間界に適応していったのでしょう」

「じゃあ…」

「魔界から来たばかりの魔獣には、浄化の力への耐性がなかった…と。」


アイリスは慎重に言葉を選ぶ。


「その可能性があります」


マリナは俯いた。


「…あたし、…操られただけだった魔獣も殺しちまったのかな…」

「違うわ」


ミラベルがすぐに答えた。


マリナが顔を上げる。


「体育祭の時、あなたは自分の力を理解していなかった。あの状況で、あなたに責任を背負わせるのは違うと思う。」

「ミラベル…。」

「それに…。」


ミラベルは古文書を見る。


「もし…あの人のように魔獣たちにも家族や仲間がいるのなら――」


その瞳に強い意志が宿った。


「次は、倒す以外の方法を探したい。」


ブレイブも頷く。


「俺も賛成です。」

「ブレイブ…。」

「魔獣だからって、最初から敵だと決めつける必要はないと思います。」


ブレイブは拳を握った。


「俺たちは…あの人にだって、帰りたい場所や待っている人がいるかもしれないって知ったんですから!」

「…そうだな。」


カインも腕を組んだ。


「戦う必要がないなら、戦わないに越したことはない。」


アルトも頷く。


「俺も同じだ。敵意や殺意を持った相手ならともかく、本来戦わなくて済む相手まで斬るのは気分が悪い。」

「…あたし」


マリナがゆっくり顔を上げる。


「もっと強くなる!巫女の力を、もっともっと鍛える!」


マリナは立ち上がった。


「浄化の力だって、ちゃんと使えるようになる!今度は消しちまうんじゃなくて…魔獣たちの敵意を取り除いてやる!」


その声は図書室に響き渡った。


「マリナさん…。」


ミラベルは微笑む。


「私も手伝うわ!」

「え?」

「マリナさん一人に背負わせるつもりはないもの。」


ユリウスも頷いた。


「私も同じだ。」

「師匠…。」

「ルシアン、アイリス。古代の浄化魔法について、再現できる可能性を調べてくれないか?」


ルシアンが嬉しそうに答える。


「もちろんです!古代魔法の再現なんて、研究者として燃えますね!」


アイリスも頷く。


「私も協力します」

「じゃあ俺も!」


ブレイブが手を上げた。


「俺も魔法の訓練、もっと頑張ります!」

「俺も付き合うぜ!」


アルトが笑う。


「私も」


ヴィオレットも続く。


「私も協力しよう」


セドリックも。


「私もです」


ロザリアも。


「当然だ」


カインも。


「私もカイン様と共に」


エレノアも。


次々と仲間達が声を上げる。


マリナは目を丸くして――。


やがて、満面の笑みを浮かべた。


「…へへっ!」


拳を握り締める。


「あたし、絶対に強くなるからな!」

「ええ!」


ミラベルも笑った。


「私ももっともっと強くなる。一緒に頑張りましょう!」


その光景を見つめながら、ユリウスは静かに微笑んでいた。


だが――。


ふと、その表情が真剣なものへ変わる。


「…それと」

「?」


全員がユリウスを見る。


「もう一人、紹介したい人がいる。」

「紹介したい人…ですか?」


ミラベルが尋ねる。


ユリウスは少しだけ苦笑しながら続ける。


「この先、私たちは今まで以上に強くならなければならないからね。だから、みんなには会って欲しいんだ。私にとっての――」


ユリウスは一瞬だけ遠い昔を思い出すような目をした。


「魔法と剣術、そして勉学の師匠に。」

「…え?」


ミラベルが瞬きをする。


マリナも首を傾げた。


「師匠にも師匠がいるのか?」

「もちろんだよ」


ユリウスは苦笑する。


「私だって、最初から何でもできたわけじゃない」

「へぇ〜…」


ブレイブが興味津々になる。


「どんな人なんですか?」


ユリウスは少し間を置いてから答えた。


「…豪快で、強引で、人の話をあまり聞かない人だ」

「…」


一同が沈黙する。


「…それって…大丈夫なんですか?」


ミラベルが恐る恐る尋ねる。


「大丈夫」


ユリウスは微笑んだ。


「少なくとも、私はその人のおかげで今ここにいる」


そして――。


「近いうちに、学院へ来てもらうことになっている。」

「学院に?」

「そう」


ユリウスの瞳には確かな信頼が宿っていた。


「これからもっともっと強くしてもらうために…。」


誰もまだ知らない。


その人物が、王弟という王国でも極めて高い立場にありながら、常識というものを豪快に吹き飛ばす男であることを。


そして――。


この後、学院中を震撼させるほどの「特別授業」が始まることを。


ミラベル達はまだ知る由もなかった。

これまでの情報を整理して今一度みんなで同じ目標へと進む回でした。


ユリウスの師匠も登場することになるので次回以降はそのことも書いていきたいと思います。


今回は読んでくださりありがとうございます。次回も読んでいただけたら嬉しいです。

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