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第53話受け継がれた想い

魔獣の最期を見届けたミラベルは己の無力さに打ちひしがれるが…。

王都地下収容所――。


魔獣が光となって消え去ってから、しばらく誰も口を開かなかった。


地下牢に残るのは、爆発で焼け焦げた石畳と、まだ漂う魔力の残滓だけ。


ミラベルはその場に膝をついたまま、魔獣が消えた場所を見つめ続けていた。


「…どうして。」


小さく漏れた声は震えていた。


「もう少しだったのに…もう少しで…人間と魔獣が分かり合える一歩を踏み出せたのに…!」


ぽたり、と涙が石畳へ落ちる。


ブレイブはその隣へ静かにしゃがみ込んだ。


「お嬢様…。」


ミラベルは俯いたまま首を横へ振る。


「私…助けられなかった。回復魔法も…何も…できなかった…!」


ブレイブは少しだけ考え、優しく言葉を紡ぐ。


「違います。」


ミラベルがゆっくり顔を上げる。


「あの魔獣さんは…最後、笑っていました。」

「え…?」

「あの人は…きっと、お嬢様達に心を開けたから笑えたんです。だから…何もできなかったなんてこと…絶対にありません。最後まで…あの人は一人じゃなかったんですから。」


その言葉に、ミラベルの瞳から再び涙が溢れた。


「ブレイブ…。」


マリナも悔しそうに拳を握る。


「…あいつ…アン…ティムって奴に謝ってたな…。」


静かに呟く。


「きっと…大事な家族か仲間だったんだろうな。」


ユリウスも頷いた。


「…魔獣にも家族がいて、仲間がいて、守りたいものがある…人間と何も変わらないのかもしれない。」


四人は改めて、その事実の重さを胸に刻んだ。




その後。


王家の魔導士たちは爆発現場の調査を始めていた。


床や壁には、見たこともない複雑な魔法陣が焼き付いている。


年配の宮廷魔導士が険しい表情を浮かべた。


「…やはり…口封じの術式です。」


ユリウスが尋ねる。


「解除はできなかったのですか?」


魔導士は静かに首を横へ振る。


「複雑に術式が組み込まれていて…あの場で気付いたとしても到底解呪は不可能だったでしょう…。恐らく魔獣本人が国家機密に触れた瞬間、自動的に命を奪う禁呪だったのではないかと…。」


ミラベルは唇を噛んだ。


(最初から…最後には殺されるよう仕組まれていた…。)


胸の奥から怒りが込み上げる。


情報を守るためなら、仲間すら命を奪う。


そんなやり方が許せなかった。



収容所を出る頃には、夕日が王都を赤く染め始めていた。


四人は無言のまま馬車へ乗り込む。


走り出した馬車の中も、しばらく沈黙が続いた。


やがて、ミラベルがぽつりと口を開く。


「…私。」


三人が顔を向ける。


「今まで、魔王軍を止めることばかり考えていました。…でも…今日、わかったんです。」


窓の外を見つめながら続ける。


「魔界にも……戦いたくない人達がいる。家族を想う人がいる。…帰りを待っている人がいる。」


ブレイブも静かに頷く。


「あの人が最後に呼んだ人も…きっと、ずっと帰りを待ってるんでしょうね…。」

「…うん。」


ミラベルは目を閉じる。


「すまない、帰れなくて…。あの一言が…頭から離れない。」


マリナは拳を握り締めた。


「胸糞悪ぃ…ヴェルナーって野郎…許せねぇよ!」


怒りを隠そうともせず吐き捨てる。


「人間も魔獣も、自分の駒みたいに扱いやがって…そんな奴、絶対に放っちゃおけねぇ!」


ユリウスも珍しく強い口調で続けた。


「同感だ。今回の件で確信した。黒幕…ヴェルナーは人間界だけではなく、魔界までも混乱へ陥れようとしている。目的はまだ分からない。だが――。」


その青い瞳に決意が宿る。


「必ず、その正体と真意を暴く。」


ミラベルはゆっくり頷いた。


「はい!私も…もう、誰も利用されてほしくない…。人間も…魔獣も!」


ブレイブは力強く胸に手を当てる。


「俺も!一緒に戦って…この世界も…いや…この世界にいる人だけじゃない罪のない人達もみんなを守りたいです!」


マリナも勢いよく拳を突き上げた。


「あたしはヴェルナーを見つけたら、一発じゃ済まさねぇ!二発でも三発でもぶん殴ってやる!」


そのあまりにもマリナらしい言葉に、一瞬だけ車内に笑みが広がる。


ミラベルも涙を拭いながら、小さく笑った。


「ふふっ…一発じゃ済まないのね。」

「当たり前だ!」


マリナは腕を組んで胸を張る。


「仲間を泣かせた分、まとめてお返ししてやる!」

「さすがにやり過ぎる前に俺達が止めますけどね。」


ブレイブが苦笑しながら言うと、ユリウスも肩を震わせて笑った。


重苦しかった空気が、少しだけ和らぐ。


しかし四人の胸に刻まれた決意は、以前よりも遥かに強いものとなっていた。


人間と魔界。


その双方を操り、争いを生み出す存在――ヴェルナー。


彼を止めることこそ、本当の意味で世界を救う道なのだと。


夕日に照らされた馬車は、ゆっくりと王立学院への帰路を進んでいく。


その空は赤く染まりながらも、遥か彼方には夜明けを思わせる淡い光が差し始めていた。


それは、過酷な運命の先にある希望を静かに示しているかのようだった。

黒幕の正体が明らかになったことでミラベル達は目標をしっかりと定めてこれからも力をつけていくことになります。


今回は読んでくださりありがとうございます。次回も読んでいただけたら嬉しいです。

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