第52話最期の願い
突如巻き起こった激しい爆発。その中心にいた魔獣は…。
「全員、防御魔法を!!」
ユリウスの鋭い声が地下牢に響いた。
同時に、彼の足元から幾重もの魔法陣が展開される。
「聖盾結界!」
眩い金色の結界がミラベルたちを包み込んだ。
その直後――
ドォォォォォンッ!!
魔獣の全身から凄まじい光が溢れ、地下牢全体を揺るがす大爆発が起こる。
衝撃波が石壁を砕き、天井から砂塵が降り注いだ。
「きゃあっ!」
ミラベルは思わず目を閉じる。
ブレイブは反射的に彼女の前へ飛び出し、自らの身体で庇った。
「お嬢様!」
マリナも腕で顔を覆いながら踏ん張る。
「くっ…!」
数秒後。
轟音は静まり、砂煙だけが牢内を覆っていた。
「みんな、無事か!?」
ユリウスが声を上げる。
「はい…!」
「俺も大丈夫です!」
「あたしも平気だ!」
四人とも結界のおかげで無傷だった。
王家の魔導士たちも結界を維持していたため、大きな被害はない。
しかし――。
「!?…そんな…!」
ミラベルは震える声を漏らした。
爆発の中心。
そこには、先ほどまで全身を拘束されていた魔獣の姿はなかった。
残っていたのは――
胴体も手足も失い、辛うじて魔力で形を保っている首だけだった。
黄金色の瞳からは光が急速に失われていく。
ミラベルは魔獣に向かって駆け出した。
「お嬢様!」
ブレイブが止めようとする。
「危険です!また爆発してしまうかもしれません!」
「お願い!行かせて!」
ミラベルは振り返る。
「あの人は…まだ生きてる!」
その必死な声に、ブレイブは歯を食いしばりながら道を開けミラベルと共に魔獣へと駆けていく。
ミラベルは魔獣の傍へ膝をつく。
「治癒魔法!」
柔らかな光が魔獣を包む。
「お願い…!治って…!」
しかし、光は弾かれるように霧散した。
「そんな…!ブレイブお願い!私に魔力を流し込んで力を貸して!」
「!はいっ!」
もう一度。ブレイブに肩から触れられ魔力を流してもらう。
「お願い…!」
さらに強い治癒魔法の光を放つ。
だが、結果は同じだった。ユリウスが静かに首を振る。
「駄目だ…。生命そのものを消滅させる呪術だ。治癒魔法ではどうにもならない。」
ミラベルの瞳から涙が零れた。
「嫌…こんなの…嫌です…!」
魔獣は苦しそうに笑う。
「もう……いい。無駄だ…。」
その声は、先ほどまでの威圧感とはまるで違っていた。
どこか穏やかで、どこか寂しげだった。
「最後に…話したいことがある…。」
ミラベルは涙を拭いながら頷く。
「っ…!はい…!」
魔獣はゆっくりと口を開いた。
「俺達魔獣を操り…宰相をも…良いように利用している奴がいる…。」
ユリウスの表情が変わる。
「黒幕…ということか?」
魔獣は小さく頷く。
「名前は…。」
息が乱れる。
「ヴェル…ナー…。」
その名前を聞いた瞬間。
ミラベルは直感的に脳裏に、一人の男が浮かんだ。
黒いローブ姿。
体育祭でブレイブとマリナを殺そうとし、自分に致命傷を与えた魔導士。
(もしかして…あの人…!?)
「ヴェルナー…!」
ミラベルは思わず呟いた。
「あなた達も…。」
魔獣は苦しそうに息を吐く。
「会ったことが…ある…。」
ユリウスも険しい表情になる。
「やはり体育祭の魔導士か…。」
ブレイブは拳を強く握った。
「あいつ…!」
マリナの瞳にも怒りが宿る。
「絶対許さねぇ…!」
しかし、魔獣の命はもう尽きようとしていた。
その瞳はゆっくり閉じ始める。
「最後に…一つだけ…頼みが……ある。」
ミラベルは優しくその頭を支えた。
「…何ですか?聞かせてください。」
魔獣は僅かに微笑む。
「アン……。ティム……。」
その名を呼ぶ声は、家族を想う者のように優しかった。
「すまない…帰れ…なくて…。…もし俺の家族と…会うことがあったら…伝えて…」
その瞬間だった。
身体を形作っていた魔力が、風に溶ける砂のように崩れ始める。
「待って!」
ミラベルは必死に治癒魔法を流し続けた。
「お願い!まだ…!まだ話したいことがあるの…!」
しかし光は届かない。魔獣は最後に微笑んだ。
「…ありがとう。」
その一言を残し、魔獣の姿は静かに光となって消えていった。
地下牢に沈黙が訪れる。
ミラベルはその場で崩れ落ちた。
「…うっ……あぁ…っ!!」
涙が止まらない。
「助けられなかった…もう少しだったのに…心を通わせられたのに……!」
ブレイブは何も言わず、そっとミラベルの肩に手を置いた。
ユリウスも静かに目を閉じる。
マリナは悔しそうに壁を拳で叩いた。
「くそっ!なんでだよ!やっと…仲良くなれそうだったのに…!!」
誰も誰かを責めたりはしなかった。
ただ一人の魔獣の最期を、静かに見送った。
そして四人の胸には、共通する一つの感情だけが残っていた。
ヴェルナー。
その男だけは、絶対に止めなければならない。
そう強く心に誓いながら――。
魔獣の最期の言葉により黒幕の名前『ヴェルナー』が判明しました。魔獣と心を通わせかけながらも救えなかった経験が今後のミラベル達の戦いに対する気持ちを決定づける重要なエピソードとなりました。
今後も今回のことを意識して執筆していきたいと思います。
今回は読んでくださりありがとうございました。次回も読んでいただけたら嬉しいです。




