第51話心を繋ぐ言葉
人語を介する魔獣と対話するために王都の特殊地下収容所にやってきたミラベル達。果たして魔獣の心を開くことはできるのか…。
翌朝――。
まだ朝靄の残る王都を、一台の王家の馬車が静かに走っていた。
乗っているのは、ユリウス、ミラベル、ブレイブ、マリナの四人。
車内は珍しく静かだった。
ミラベルは膝の上で手を握り締めている。
(…本当に、あの人と話せるのかな。)
夢で見た未来という名のゲームの記憶。
それを伝えることが、本当に相手の心を動かすのだろうか。
隣に座るブレイブが、その小さな手の震えに気付いた。
「お嬢様。」
「…はい?」
「怖いですか?」
ミラベルは少しだけ驚いたように笑う。
「…少しだけ。でも、それ以上に。」
瞳に決意を宿す。
「私は…あの人を知りたい。敵だからじゃない。同じ命として。」
ブレイブは優しく頷いた。
「俺も同じです。」
向かい側で腕を組んでいたマリナが口を開く。
「あたしも…最初は襲いかかってくる魔獣は全部ぶっ倒せば良いと思ってた…。」
三人が彼女を見る。
「でも…あいつらにも仲間がいて、帰る場所があったんだとしたら…だったら全部が全部悪い奴じゃないかもしれないって…思った。」
ユリウスは静かに微笑んだ。
「だからこそ…君達にこの役目を任せたいと思ったんだ。」
やがて馬車は巨大な石造りの施設の前で止まる。
王国特殊収容所。
凶悪犯罪者や危険な魔物のみを収容する地下施設だった。
幾重もの鉄格子。幾重もの魔法陣。幾重もの結界。
地下深くへ降りるたびに空気は冷たく重くなっていく。
ブレイブは自然とミラベルの半歩前へ立った。
「俺から離れないでください。」
「ありがとう。」
さらに奥。最後の扉が開く。
そこには巨大な魔法陣に拘束された一体の魔獣が座っていた。
黒色の毛並み。鋭い牙。巨大な翼。そして、黄金色の瞳。
だが、その瞳には獣だけではない知性が宿っている。
魔獣は四人を見ると鼻で笑った。
「…ガキ共か。王国も随分と人手不足らしいな。」
周囲にいた王家直属の魔導士が顔をしかめる。
「貴様!」
しかしユリウスが手を上げた。
「ここからは私達に任せてください。」
魔導士達は一歩下がる。
ミラベルはゆっくり前へ進んだ。
「初めまして。」
魔獣は答えない。
「私はミラベル・フォン・アルヴェインです。」
「…。」
「今日はあなたと話をしに来ました。」
魔獣は冷たく笑った。
「話すことなどない。さっさと殺せ。それで終わりだ。」
ミラベルは首を横に振る。
「違います…私は知りたいんです。あなた達のことを。」
その一言に、魔獣の眉が僅かに動いた。
静寂。
ミラベルは覚悟を決めて口を開いた。
「…私は夢を見るんです。未来の夢を。」
魔獣は鼻で笑う。
「!フン…馬鹿馬鹿しい。」
「信じなくても構いません。」
ミラベルは続けた。
「でも、その夢では…人間界へ侵攻した魔獣達の多くが命を落としていました。」
「…。」
「その中には…まだ幼い子供の魔獣達もいました。」
その瞬間、魔獣の瞳が大きく見開かれる。
「…嘘だ。」
低く震える声。
「そんなはずはない!魔王様は約束してくださった、子供だけは戦わせないと…!いい加減なことを言うなっ!これは…我ら種族の未来を懸けた高潔な戦いなのだ!」
ブレイブもマリナもユリウスも黙って聞いていた。
ミラベルはゆっくり首を振る。
「……違うんです。魔王様は、最初から国民に戦いを強いるような…そんな方ではありませんでした。」
魔獣が睨み付ける。
「何を知っている!?」
ミラベルは真っ直ぐ見返した。
「宰相…カイゼル。」
その名前を聞いた瞬間。魔獣の全身が震えた。
「…何?なぜその名を知っている…?人間が!!」
「…宰相カイゼルは、魔王様の心を少しずつ人間への憎しみへ誘導しました。侵攻を決めたのも、その影響です。」
「馬鹿な…!?」
魔獣が鎖を軋ませる。
「何のトリックだ!ただの人間の小娘が魔界の事情など知るはずがない!」
ミラベルは静かに首を振った。
「私は…ただ夢で見たことを話しているだけです。でも…っ、犠牲を出したくない気持ちだけは本当なんです!」
ミラベルはゆっくり頭を下げた。
「お願いします!あなたの知っていることを教えてください…!魔王軍と…私達人間が、戦わずに済む方法を一緒に探してください!」
その姿を見ていたブレイブも。
「俺からも…!お願いします!」
深く頭を下げる。
マリナも。
「あたしも頼む!子供が死ぬ世界なんて…魔界でもあたし達の世界でも関係なく見たくねぇ!」
ユリウスも静かに頭を下げた。
「どうか…力を貸してほしい。」
牢獄の中は静まり返る。
魔獣は四人を見つめ続けていた。
やがて、小さく笑った。
「…変な人間達だ。俺は…ずっと人間は憎むべき存在だと思っていた。」
黄金色の瞳が少しだけ優しくなる。
「だが…少しだけ…信じてみたくなった…。」
ミラベルは顔を上げる。
魔獣は深く息を吸った。
「実は――」
その瞬間だった。
魔獣の全身に刻まれた黒い術式が、不気味な赤い光を放ち始める。
ユリウスの表情が変わる。
「!?まずい!全員、防御魔法を!」
次の瞬間――。
地下牢を揺るがす凄まじい爆発が巻き起こった――。
ミラベルのゲーム知識とブレイブやマリナ、ユリウスも加わっての心からの言葉により魔獣の心をようやく開くことができた…と思ったところで次回に続きます。
今回は読んでくださりありがとうございました。次回も読んでいただけたら嬉しいです。




