第50話未来への研鑽
学院に帰ってきたミラベル達は変わらず自身を鍛える日々を送り、その姿は他の生徒達にも影響を与えていた。一方、捕らえた魔獣の尋問に立ち会っていたユリウスは…。
魔界へと続く亀裂を封じた戦いから、数週間が過ぎた。
王立学院には再び平穏な日常が戻ってきていた――。
しかし、その平穏は以前のものとはまるで違っていた。
誰もが知ってしまったのだ。魔界という存在と脅威を。
一年後には再び世界を揺るがす戦いが訪れるかもしれないという現実を。
だからこそ、生徒も教師も、誰一人として時間を無駄にはしていなかった。
早朝。
学院騎士科の訓練場には、朝日が差し込んでいた。
「そこだぁっ!」
アルトが豪快に剣を振り下ろす。
「ぐっ…!」
ブレイブは身体強化魔法を全身へ巡らせると、一歩踏み込んだ。
甲高い金属音が響く。
ガキィン!!
「っ…!」
アルトの剣を真正面から受け止める。
以前なら、そのまま弾き飛ばされていただろう。
しかし今のブレイブは違った。
歯を食いしばり、力を込める。
「うおおおっ!」
「いいぞ!その調子だ!」
アルトは嬉しそうに笑い、そのまま押し返す。
ブレイブは素早く後方へ跳び退き、体勢を立て直した。
「まだ終わりません!」
「その意気だ!」
再び剣が交差する。
その様子を見守っていたカインも剣を持って2人に歩み寄り頷いた。
「ブレイブ…随分と粘れるようになったな。」
アルトも笑う。
「ああ、体育祭の頃よりずっと強くなってる!」
ブレイブは汗を拭いながら照れ笑いを浮かべた。
「皆さんに教えていただいてますから!」
「謙遜するな。」
カインは真っ直ぐ言う。
「努力したのはお前自身だ。」
その言葉にブレイブは少し照れくさそうに頭をかいた。
一方、その頃。
魔法科の演習場では、ミラベルたちが魔法訓練を行っていた。
「炎槍!」
ミラベルの放った炎の槍が的の中心を正確に貫く。
「その調子です、ミラベル様!」
ロザリアが穏やかに微笑む。
「魔力制御の精度がさらに上がっていますね。」
「ありがとうございます!」
ミラベルも嬉しそうに笑った。
少し離れた場所では、ヴィオレットがエレノアへ高位の結界魔法を指導していた。
「魔力は強く張るのではなく、均等に巡らせるのです。」
「…こうでしょうか?」
淡い光の膜が広がる。ヴィオレットは満足そうに頷く。
「ええ、その調子です。」
ルシアンとアイリスは独自の魔法理論から組み上げた新たな合体魔法の特訓をしている。
セドリックは雷属性を纏わせた槍術を鍛え続けていた。魔法と武術を融合させた戦い方は日に日に洗練されていく。
そして…。
「よーし! 次は成功させるぞ!」
マリナが拳を握る。
周囲にはミラベル、エレノア、ロザリア、ルシアン、アイリス、ヴィオレット、セドリックが集まっていた。
「落ち着いて。」
ミラベルが優しく声を掛ける。
「巫女の力は魔法とは違う…焦れば焦るほど制御は難しくなるわ。」
マリナは深呼吸をした。
「うん!…よしっ!」
目を閉じる。
胸の奥から黄金色の光が溢れ始めた。
その光はゆっくりと広がり――
「…!」
一瞬、安定したように見えた。
しかし。
バチィッ!!
光が四方へ弾け飛ぶ。
「きゃっ!」
「危ない!」
セドリックが咄嗟にミラベルの前へ立つ。
アイリスが防御魔法を展開。
エレノアとロザリアも結界を重ねる。
光は空中で霧散した。
「ミラベル!みんなも…大丈夫か!?」
「ええ…ちょっとびっくりしたけど大丈夫よ。ありがとう、マリナさん」
マリナはミラベル達に弾け飛んだ光で怪我をさせずに済んだことを知って安心するが、次の瞬間失敗に頭を抱えた。
「また失敗したぁ!」
その姿に皆が苦笑する。
「ご、ごめん…!」
肩を落とすマリナ。ミラベルは笑顔で近付いた。
「少しずつ成功してるわ。さっきは前より長く安定していたもの。」
「そうです。」
ロザリアも優しく微笑む。
「以前より確実に進歩しています。」
エレノアも頷いた。
「焦る必要はありません。」
だがマリナは唇を尖らせる。
「でもさ!あたしだけみんなに守られてばっかじゃ嫌なんだ!」
その言葉に後方から元気よく聞き慣れた声が飛んできた。
「…じゃあ、これからも一緒に練習しましょう!俺も付き合います!」
「!ブレイブ!!」
魔法科の演習場にやって来たブレイブとアルト、カインが剣を持ちながらそこにいた。
アルトは明るくこう言った。
「騎士科の俺達も全面協力するぜ!」
カイルも短く頷いた。
「当然だ。」
セドリックも穏やかに笑う。
「私達は仲間ですからね。」
ヴィオレットも静かに続ける。
「あなた一人に背負わせるつもりはありません。」
マリナは一人ひとりを見渡した。
やがて照れ隠しのように鼻をこする。
「っ!…ありがとな!」
その笑顔は以前よりずっと柔らかかった。
学院全体にも変化が現れていた。
体育祭で魔獣に襲われた生徒たちは、恐怖に震えるだけでは終わらなかった。
「先生!」
「補習をお願いします!」
「もっと魔法を学びたいです!」
「剣術も教えてください!」
自主練習を願い出る生徒が日ごとに増えていく。
教師たちもまた、生徒たちの覚悟を感じ取っていた。
「一年後…。」
騎士科主任教師は訓練場を見渡す。
「この子たちも…戦場に駆り出されるかもしれない。」
隣に立つ魔法科主任教師が静かに頷いた。
「だからこそ…我々も全力で育てねばなりません。」
教師たちは以前にも増して厳しく、そして真摯に教鞭を振るうようになっていた。
そんな学院で、一人だけ姿を見せない人物がいた。
ユリウスである。
彼は毎日のように王都地下の特殊収容所へ通っていた。
魔界との亀裂で捕らえた、人語を話す魔獣。
その口から情報を引き出すためだった。
しかし――。
「話せ。」
王家直属の魔導士が静かに告げる。
魔獣は鼻で笑った。
「断る。」
精神干渉魔法。自白魔法。記憶読取魔法。
あらゆる魔法が試された。
しかし、魔獣の全身に刻まれた黒い術式が、それらをことごとく無効化する。
「これほど強固な術式とは…。」
魔導士たちも表情を曇らせる。
ユリウスは牢の前で腕を組み、静かに魔獣を見つめていた。
(力ずくでは駄目だ…この者の心を動かさなければ…話は前には進まない…。)
その時、彼の脳裏に浮かんだのは一人の少女だった。
予知夢という形で未来を知る――ミラベル。
翌日の放課後。
ユリウスは久々に登校し、ミラベル、ブレイブ、マリナの三人を学院の中庭へ呼び出した。
「相談がある。」
珍しく、その声には疲労が滲んでいた。
ミラベルは心配そうに尋ねる。
「例の魔獣の件…ですか?」
ユリウスは静かに頷く。
「捕らえた魔獣は、どんな尋問にも口を開かない…術式によって魔法も通じない。自主的に魔獣が話すように心を動かすほかない…。だから…ミラベル。君の夢で見た未来の知識が、その者の心を動かす鍵になるかもしれない。」
ミラベルは少し考え、ゆっくりと顔を上げた。
「…わかりました。私も自分の言葉であの魔獣と話してみたいです!」
「危険です!」
ブレイブが即座に前へ出る。
「俺も護衛として同行します!」
「待て待て!」
マリナも勢いよく手を挙げた。
「あたしも行く!巫女の力で何か力になれるかもしれねぇ!」
ユリウスは三人の顔を順番に見つめ、穏やかに微笑んだ。
「ありがとう…。それでは明日、魔獣のいる収容所へ向かおう。」
四人は静かに頷き合う。
誰も知らない真実が待つ地下収容所へ――。
彼らは新たな一歩を踏み出そうとしていた。
ミラベルの予知夢を見る能力(という名のゲーム知識)から魔獣の心を開かせるための説得をお願いしたユリウスに、ミラベル自身も人語を介する魔獣と向き合いたいと思いその申し出を承諾するのでした。
次回はミラベルと魔獣の会話でのやり取りを書きたいと思います。
今回は読んでくださりありがとうございます。次回も読んでいただけたら嬉しいです。




